僕がこの世界を訪れてから、どれほどの時間が流れただろう。
「おはようございます。アオさん」
「ん・・・よ」
モロクにある僕たちの拠点。
朝起きて表に出てみると、そこには欠伸をしながら空を眺めているアオさんがいた。
「早いなクロ」
「アオさんこそ」
僕はアオさんの隣に座り、同じように空を見上げる。
青い空に、ぽっかりと浮かぶ入道雲。
・・・今日も暑くなりそうだった。
うーん、と体を伸ばすと、アオさんは僕の方を見る。
「暑くなるなぁ、これは」
「えぇ、そうですね」
「暑いのは好きじゃないなぁ・・・」
「だからって、寒いのが好きってワケじゃないんですよね」
「分かってるじゃないか、クロ君」
にやり、と笑うアオさん。
アオさんは僕が所属しているギルドのマスターで、アサシンだ。
彼のアサシン歴は長く、腕もそれに見合ったものを持ち合わせている。
本人曰く、自分はまだまだ未熟らしいが・・・。
ちなみに、僕ことクロは騎士。現在精進中。
「で、アオさん。今日はどこに行くんですか？」
「さぁてねぇ・・・青箱狙いでSD（スフィンクスダンジョン）3Fもいいけど」
「・・・昨日、あそこはもう飽きたーとか言ってませんでした？」
「そんなの、毎日のように言ってるよ」
「はは、そうですね」
僕とアオさんはお互いの顔を見て笑った。
「そっちはどうなんだよクロ君。
最近GH（グラストヘイム）の監獄あたりに顔を出してるみたいだけど」
「いや、姫さんから火バッソを借りたんで」
「監獄はおいしいかね？」
「さぁどうでしょう？」
苦笑する僕。
「プリさんの援護があればいいんですけどねー」
「だったら、なっちがいるじゃないか。今度拉致れ」
アオさんが言ったなっちとは、僕と同じギルドに所属する女性プリさんのことだ。
「そんな、向こうの都合もありますし」
「こう言えばいいんだよ。
なっちさん、僕と一緒に、監獄で囚人達相手にハァハァしませんか？ ってね」
「・・・・アナタガイイナサイ。ソウイウコトハ」
「あー、なるほど。クロはなっちよりも先生・・・
と言うより、男プリが大好きだったんだね」
「イツカラソウナッタンデスカ」
それは、いつもの会話。
僕はそんな時間に、少なからず心地よさを感じていた。
忘人誰
朝食の時間。
拠点の建物内の一室・・・
僕らのギルド「最終兵器ねこねこ」が利用している部屋に、ギルドメンバーが揃っていた。
大きなテーブルを囲み、料理が出そろうのを待っている。
「今日の食事当番は誰だっけ？」
眠そうに欠伸をしながら、ラフさん（騎士）が言った。
「あ、私ですよ」
テーブルに料理を運びながら、ホロさん（アサシン）が応える。
そうか。今日の料理はホロさんが作ったのか。
・・・なら、安心だ。
「私も手伝ったりした」
にやり、と笑いながら、僕の隣に座っていた姫さんが言う。
その言葉を聞いて、僕とラフさんの動きが硬直した。
・・・あ、アオさんも硬直してる。
「ひ、姫・・・あのさ・・・」
「あぁ、だいじょうぶ。今日の料理には何も細工してないよ」
「・・・ホントかなぁ」
心配そうにラフさん。
その心配は、痛いほどよく分かる。
前に姫さんが料理当番の時、料理の中に密かにボードを入れていたとかで、一波乱起きたのだ。
ちょっとそこまで行って捕ってきた、と言って。
「ベト以外は、安心して食べていいよ」
「って、まてい」
ベト・・・つまりアオさんのことだ。
「俺以外は・・・ってことは、俺の料理には何か細工を・・・！？」
「だいじょうぶですよアオ様」
にっこりと微笑んで、ホロさんが言う。
「ちょっと隠し味に、古木の枝を入れてみただけですから」
「なっ・・・！？」
「古い木にはおいしいエキスがいっぱいたくさん♪」
「嘘つけ！」
「愛だねぇ・・・」
「うん、愛だよねぇ」
そう言う先生（プリースト）とバロさん（ウィザード）は、
ちゃっかり離れたところに避難してたりする。
「変わらないよなぁ、うんうん」
椅子に座ってそんな光景を眺めているのは、零さんだ。
零さんはしばらく一人で旅に出ていたのだが、今は戻ってきている。
「アオさん怖がることはないよ、死んでもリザしてあげるから」
「そういう問題じゃないだろ・・・」
にこにこと微笑みながら言うなっちさんに、疲れたように言葉を返すアオさん。
「ったく・・・どこだよ・・・」
アオさんは自分の席の目の前に並べられた料理の中から、
枝が入ってる（らしい）料理を探す。
「あ、発見」
程なくして、スープから枝の先の部分だけ出ているモノを見つけたようだった。
それを排除しようと、手を伸ばして枝を掴んだ瞬間。
パキッ。
・・・・・。
「まぁ想像はしてましたけどねーっ！！」
「うわっ！！ よりによって深淵！？」
「アオめっ！ 責任取って死んでおけっ！」
「俺か！？ これは俺の所為なのか！？」
「はいはい、ベトの所為ってことは決定ってことで。
食事ひっくり返される前に片づけるよー」
「簡単に言うなぁぁっ！」
それほど広くない部屋で。
朝食を守りながらの戦いが、唐突に巻き起こったのだった。
疲れた・・・。
僕は一人で、モロクの町中を歩いている。
深淵の騎士は確かに強いのだが、ギルドフルメンバーならそれほど苦もなく勝つことができた。
まぁ・・・朝食は無傷とまではいかなかったが・・・。
朝から予想外な戦いに巻き込まれ、僕はドッと疲れを感じていた。
「はぁ。朝からこれでだいじょうぶかなぁ」
思わず呟いてしまう。
「どうしたそこ行くお兄さん。疲れた顔しちゃって」
ふと後ろから声を掛けられ、僕は振り返った。
そこには・・・・・。
「・・・・え」
「・・・何だ、私の顔に何か付いてるか？」
そこには、一匹のムナックが不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
「キミは・・・・・」
「あぁ、私はエム。前に何度か会ったことがあると思うが？」
「あ、そ、そうですね。確かアオさんのペット・・・」
「違う」
「は？」
「アオが、私の、ペット。ＯＫ？」
「・・・お、おーけー」
なんだかよく分からない迫力に押され、僕はコクコクと頷いた。
エムさんは満足そうに頷くと、僕の隣に並ぶ。
「いい天気だなぁ、クロ君」
「そ、そうですね・・・エムさん」
「さん、なんてつけなくていい」
「はぁ・・・」
「エム様、と呼べ」
・・・・・・・・・。
「・・・え、エム様？ ところで僕に何か用ですか？」
「別に」
「・・・・・・・・・それでは、僕はこれで・・・」
「まぁ待つんだクロ君」
がしっ、と僕の腕を掴むエムさん・・・もといエム様。
「退屈してた所だ。私をどこかに連れて行ってくれ」
「は、はぁ？」
「贅沢は言わん。GHとかGHとか、GHとかがいいかな」
「あ、あのですね・・・」
「なんなら精神棒を狙いにFD（フェイヨンダンジョン）でもいいな」
「ちょっと・・・」
「さぁどこへなりとも拉致してくれ」
「そっ、そんなのアオさんに連れて行ってもらってくださいよ！」
「あいつはダメだ。クロ君、君だけが頼りなんだ」
何故かキッパリと断言するエムさん・・・もといエム様。
どうしてアオさんだとダメで、僕だといいんだろうか。
「さぁ、さっさとポタ広場へ行こう」
ぐいぐい、と僕を引っ張るエムさん・・・もといエム様。
僕は半ば諦めてため息をつき、引っ張られるままポタ広場へと歩いた。
「懐かしいな・・・ここも」
感慨深げに、エムさん・・・もといエム様は呟いた。
エム様は空を見上げ、ムナック帽を片手で上げる。
そう。ここはフェイヨン。
ムナックが数多く生息する、FDがある街だ。
「でも・・・いいんですかエム様」
「ん？ 何がだ？」
「FDに行くということは、エム様の仲間であるムナックと戦うことになるんですけど」
「あぁ、そんなことを気にしていたのか」
にやり、と笑みを浮かべると、エム様が僕の肩を叩く。
「遠慮することはない。存分に戦え」
「でも・・・」
「同じムナックと言えど、全てが全て私の仲間と言うわけではないんだよ、クロ君」
「は、はぁ・・・」
「クロ君、君ら人間だって、関係ない人間がどうなろうと知ったことではないだろう？」
「い、いや、そんなこと無いと思いますけど」
「そうなんだよ。でも別に責めるようなつもりはない。それが、普通なんだ」
「そう・・・なんでしょうか」
「・・・ま、行くぞクロ君。精神棒のためにな」
「ヤファなんて狩れないと思いますけどね・・・」
「そこはクロ君の腕次第だよ」
エム様は僕の背中をバシッと叩くと、FDに続く道を歩きだした。
僕は慌ててその後に続く。
はぁ・・・今日は厄介事に巻き込まれる日だなぁ・・・。
B1、B2を難なく通過し、僕とエム様はB3の入口に立っていた。
ここから先は好戦的なモンスターであるムナック、ボンゴンが犇めいている。
世間的にムナたんと呼ばれて可愛がられているムナックも、女性から人気が高いボンゴンも
ここでは立派なモンスターであり、生半可な腕では気を抜くとあっさりやられてしまうだろう。
「さて・・・」
僕の隣に立つエム様は、おもむろに準備体操をし始めた。
僕はその姿を見て、首を傾げる。
「エム様、一体何を・・・？」
「あぁ？ 見て分からないか？」
「・・・準備体操、ですか？」
「その通りだ。久々に身体を動かすからな。少しでも慣らしておかないと」
「は、はぁ・・・」
そんなに気合いの入った応援をしてくれるんだろうか・・・とか僕は思っていたが。
事態は、もっとぶっ飛んだものになる。
「ふむ。このぐらいでいいか」
エム様はそう言い、最後に右手をふるふると振った。
どうやら、準備体操は終了したらしい。
「・・・それじゃエム様、行きますか」
「あぁ。そうだな」
「あんまり前に出すぎないで下さいね。あと、ムナックの群れに遭遇したら、混ざらないで下さい」
「・・・誰が誰だか分からなくなると？」
「そういうことです」
「ふむ・・・・」
エム様は少しだけ考え込むと、おもむろに自分の被っていたムナック帽を取った。
そしてそれを、僕の頭に載せる。
「預ける。無くすなよ」
「へっ？」
「これで、多少混ざったところですぐに私が分かるだろう？」
そう言って不敵な笑みを浮かべるエム様。
その笑みが、頼もしいような、不安なような・・・・。
少し・・・少しだけ、胃が痛くなってきたような気がする。
「では改めて、行くぞクロ君」
「わ、分かりました。では」
僕はエム様より一歩前に出て、FDB3の道を歩きだした。
「頼りにしているぞ。『伝説の騎士』」
「・・・・・・・それ、誰から聞きました？」
「アオ」
帰ったら文句の一つでも言ってやろう、と心に決める僕だった。
なんて言うか。
僕の目の前では、信じられない事が起こっていた。
「ふっ、甘いっ！」
エム様は軽やかなステップで、ボンゴンが放った拳を回避する。
大きく空振りしたボンゴンがバランスを崩したその一瞬で、後ろに回り込むエム様。
ゲシィッ！
ムナックとは思えない強烈な右ストレートが、ボンゴンの後頭部に直撃する。
ボンゴンは前に吹っ飛ばされ、壁に激突してその動きを止めた。
エム様はそんなボンゴンに一瞥もせず、次の獲物を定めて突撃していく。
・・・・・。
「なんか・・・間違ってないか？」
僕が思わず一人呟くコトも、今なら誰しも理解してくれるんじゃないだろうか。
ビョンッ！
背後より、音。
僕は瞬時にして振り向き、腰に下げていた剣を抜刀した。
そしてそのまま。剣を左から右に横薙ぎにする。
ザッ！
いつの間にか僕の後ろに回り込んでいたムナックを、僕の剣が真っ二つに両断した。
悲鳴をあげる暇も無く、血を撒き散らしながら倒れるムナック。
・・・・人のカタチをしているからだろうか。
妙な、罪悪感を感じてしまうのは。
そしてそれは、やはり、人のエゴなのだろうか。
「クロ君、ボーっとしていたらダメだぞ」
ボォォンッ！
まるで何かが爆発したような衝撃と音が、かなり近くで聞こえた。
僕のすぐ横まで迫っていたムナックを、エム様が殴り飛ばしたのだ。
・・・しかし、やはり、異常だろう。これは。
「・・・あ、ありがとうございます。助かりました」
「どんなに腕が立つ奴でも、油断してたらどこでも死ねるんだ。覚えておきなさい」
「は、はい・・・」
「よしよし」
エム様はそう言って、僕の頭を撫でてくる。
「やっ、やめてください。子供じゃあるまいし・・・」
「そう言うなら、油断なんてしないことだね」
「わ、分かってますよ」
多少の問題はあるものの、僕とエム様は確実にB4へと進んでいた。
そしてB3、B4を通過。
僕とエム様は、FDの最深部・・・フェイヨンダンジョン『寺院』に到着した。
「ここに、ヤファが出るんですね」
「ついでに、このフロアからホロンとか将軍様とか出るな」
「ホロン・・・硬いんですよね、アレ」
「あいつは殴り辛いから嫌いだ。ちとクロ君。なにか武器を貸してもらえるか？」
「へ？ 武器・・・ですか？」
「あぁ。別に私は武器が使えないというわけではない。今までは、使う必要が無かっただけのこと」
「・・・それってあの有名な『フェイヨンなんか素手で』・・・」
「関係ないぞ。というよりパクリは良くないな。クロ君」
「す、すいません」
僕は謝りつつ、予備に持ってきておいたカタナをエム様に渡す。
エム様はそれを受け取ると、二、三度振って感触を確かめた。
「ふむ・・・よく手入れしてあるな。いい刀だ」
「ほ、ホントに使えるんですか？」
ムナックが武器を使っている姿なんて、僕には想像できなかった。
「何を言う。そこいらの低レベル剣士なぞに比べたら、私の方が格段上だぞ」
「そうなんですか・・・？」
「・・・・その目は信じていないな。よし、見ていろ」
エム様は視線を巡らす。
・・・そしてふと、その視線を止めた。
「・・・っ！」
そして気がつけば。
エム様の姿は、数メートル先にあった。
早い・・・！？
エム様の奔る先には、ソルジャースケルトンの姿があった。
ソルスケはエム様の姿を見つけると、迎撃体勢を取る。
・・が。
迎撃体勢を取った瞬間、エム様の振るったカタナが、ソルスケを真っ二つに切り裂いた。
エム様は抜きはなったカタナを、すぐさま鞘に戻す。
「ばっ・・・抜刀術！？」
「・・・ふむ、まだ勘は完全に戻ったわけじゃないな・・・」
ブツブツと呟きながら、エム様が僕の元へと戻ってきた。
「どうだクロ君。これでも私は武器が使えないと？」
「・・・お、恐れ入りました」
「分かればよろしい」
満足そうに頷くエム様。
・・・本当、このムナック何者だ。
「言っておくが、ソヒーたんハァハァな展開はないぞ」
「・・・何の話をしてるんですか」
僕とエム様の二人は、寺院の中央・・・仏像の前に居た。
ここに来るまで、数多くのホロンやアチャスケ、ソルスケを倒したが・・・。
エム様の強さは、本物だった。
瞬時の判断、行動力、そして攻撃力。全てが一級品だ。
僕が戦っても、勝てるかどうか分からない・・・。
「クロ君」
僕と並んで座っていたエム様が、ふと僕を見て口を開く。
「聞きたいことがある」
その瞳と口調は、真剣そのものだった。
だから僕も、居住まいを正して応える。
「なんですか？」
「うむ」
エム様は一度言葉を切り・・・そして、話し出した。
「最近、何か、忘れてることはないか？」
――――ドクン
心臓が、跳ねた。
「・・・何でもいい。思いつくことはないか」
「どうして・・・そんなことを聞くんですか」
エム様は、僕の顔を覗き込んでくる。
僕はその視線から、目を逸らした。
「それはな。それが、必要なことだからだ」
「必要な、コト？」
「そうだ。必要で・・・そして、とても大切な事だ」
エム様は僕から体を離すと、寺院の天井を見上げる。
そこには、ただ無機質な岩があるだけ・・・。
でもエム様は、じっとそれを、見る。
「居なくなった、男がいる」
―――ドクンッ
「彼はいなくなった。その彼は、いなくなる直前・・・こう、願った」
俺がいなくなって、皆が悲しむぐらいなら
俺のことなど、忘れてしまえばいい
何事もなかったように、明日を迎えればいい
それが、いい
俺のことなど、忘れて
幸せに
「そしてその願いは、叶えられた」
「・・・・・・」
僕は無言のまま・・・目を閉じていた。
何かを、忘れている。
最近、そう思うことがあった。
朝起きて。
拠点前で、皆と話して。
一緒に食事をとって。
誰かと狩りに出かけて。
・・・ふと、気がつくと。
僕は誰かを待っている気がする。
「クロ君」
「・・・はい・・・」
「君だけが、頼りだ」
すくっ、とエム様は立ち上がる。
「皆は忘れている。願いは、叶えられたから」
「・・・・・・」
「クロ君」
エム様は、ゆっくりとした動きで、構えた。
目標は・・・・僕、だ。
「勝負しようか」
「・・・勝負する理由が、分かりません」
「理由か。でもそんなモノ、必要ないんだよ」
人は争う生き物だからね。
「行くよ・・・死にたくなかったら、抵抗することだね」
「・・・っ！！」
エム様・・・・いや・・・・エムは僕に向かって、高速で接近してきた。
僕は立ち上がり、剣を抜刀する。
理由は、よくわからない。
なにがなんだか、わからない。
わからないが。
抜き放たれたエムのカタナを、僕の剣はなんとか受け止めた。
銀と銀がぶつかり合う音。そして火花。
ギギギッ、と擦れ合う音。
単なる力押しなら、僕の勝ちだ。
だが。
エムはあっさりとカタナを引くと、バックステップして距離をあけた。
僕は迎撃するために、地を蹴り加速する。
まずは、エムの武器を無効化しよう。
そう思ってカタナに狙いを定めた・・・次の瞬間。
目の前に、エムの姿があった。
早すぎる・・・っ！
ガガッ！
顔面を殴られ、僕はゴロゴロと後ろに転がった。
建物の壁に激突し、やっと止まる。
「くっ！」
強い・・・！
「・・・その程度、なのか」
ゆっくりと歩きながら、エムが呟く。
「その程度なのかクロ君。それで終わりなのかクロ君」
「・・・エム・・・・・！」
「弱い・・・弱い弱い弱い！
その程度では、何も守れはしないぞ！
大切なモノを守りたくはないのか！
大切なココロを守りたくはないのか！
大切な人を・・・取り戻したくはないのかっ！！」
ドクン・・・・！
エムは腰を低くすると、その高さを維持しつつ突進してきた。
右手が、腰に下げられてるカタナに伸びる。
自分は、何を忘れているんだろう。
とても大事なことで。
忘れちゃいけないはずなのに。
負けたら。
負けたら、もう、それを、思い出すことは、無いような・・・
そんな気が、した。
「・・・・・負ける・・・・・かあああああぁぁぁぁっ！！」
ブンッ！！
ギィィンッ！！
・・・・・
「やればできるじゃないか・・・クロ君」
「はぁっ・・・はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・」
「君は・・・もっと強くなれる。強くなれ」
エムが抜刀したカタナは、僕の剣によって根本からポッキリと折られていた。
「はぁ、なんか疲れたな。帰るとするか」
「は・・・？ エム、ヤファから精神棒を狙うんじゃ・・・」
「楽しみは後に取っておくとするよ」
微笑むエム。
その笑顔は、どこか清々しいものだった。
「まぁ、なるべくなら近いうちに頼む。クロ君」
「・・・ってもしかして、僕が取ってくることになってます・・・？」
「今日の授業料だ。安いものだろう？」
「じ・・・授業料って・・・・」
「とにかく、帰るぞクロ君」
「えぇ、そうですね・・・・・」
僕らが忘れていることを思い出すのは、まだ、先の話。
「ところでクロ君、いつのまにか私のことを呼び捨てているな」
「あ、いや、これはえっと・・・」
「・・・・いい、構わない」
「そ、そうですか・・・・」
僕はホッと、胸をなでおろした。
後日。
「アオさーん・・・自分のペットの面倒ぐらい、ちゃんと自分で見ましょうね〜」
「・・・・・・エムか」
「えぇ、エムです」
・・・・・。
「察せ」
「・・・痛いほどに」
END．
＜＜＜あとがき＞＞＞
この物語はノンフィクションです。
・・・とか言えたら、楽しいんですがね（ぉぉ）。
Ａｏが贈る「実際に存在するキャラクターを使ったＳＳ」第三弾。
いかがでした？
スランプ気味の自分に鞭打って書いてみました。
犠牲者はクロです（ぉ）。
いやはや〜。
今回はモロに、儚灯火の話を引きずってる・・・かも知れません。
て言うか、さり気にこのシリーズの話を全て繋げてみたいと思ってる無謀なワタクシ・・・。
ふふふのふ (-.-;)y-゜゜
ではまた、次のお話のあとがきで会いましょう（いつだか・・・）