剣があった。
それは、全てを切り裂く剣。
そして、全てを守れる剣。
「きゃぁぁぁぁっ！！」
・・・なんで、こんなところでアコライトが一人でいるんだ・・・？
そんなことを考えながら、俺はペコを走らせた。
恐怖のあまりに涙を流し、座り込んでしまっているアコの前に、俺は勢いよく飛び出す。
アコに向かって手を振り上げていたグールの動きが、一瞬止まった。
俺へと注意が移る、その、一瞬。
―――――それで、充分だ。
ガッ！
俺が振り下ろした剣はグールの脳天に食らいつき、破壊した。
脳髄をぶちまけながら、グールは後ろに倒れる。
「あ・・・」
何が起こったのかすぐに理解することができないらしく、アコは固まったまま俺を見上げていた。
俺は剣からグールの血を払い、鞘に収める。
まったく・・・。
「・・・おい」
「あ・・・はっ・・・はい！」
「グール程度に勝てないなら、こんな場所に来るな。死ぬだけだぞ」
今俺たちがいる場所は、凶悪なモンスターが数多く存在している場所『グラストヘイム』。
その中で、カタコンベと呼ばれている墓場だ。
とてもじゃないが、普通のアコが一人で来て、生き残れる場所ではない。
「あの・・・」
涙を拭いながら、アコが立ち上がった。
「助けてもらって・・・ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げる。
赤い髪と、赤い瞳のアコライト。
「気にするな」
俺はひらひらと手を振る。その俺に合わせるように、ペコも「クワッ」と一声鳴いた。
「うん、ありがとうね。ペコちゃん」
アコが俺のペコに近づき、顔を撫でる。嬉しそうに目を細めるペコ。
こいつ・・・俺が撫ででもそんな顔しないくせに・・・。
「・・・で、アンタ」
「あ、はい？」
「見たとこ、この狩り場はちょっと早すぎるみたいだが・・・迷子か？」
近くに仲間がいる気配もない。
「迷子・・・そうですね。知り合いとはぐれてしまって・・・」
「はぐれたのか」
「はい・・・あの、このあたりに、マディスティックゴートをつけた男の騎士さんと、
ミニグラスに悪魔のヘアバンドをつけた女のプリーストさんと、
天使のヘアバンドをつけた女のハンターさん・・・いませんでした？」
「・・・・・」
・・・つまりは、廃パーティーってことか。
「見なかった、な」
俺は正直に答えてやる。ここで嘘をついてもしょうがない。
俺の言葉を聞いて、アコは肩を落とした。
「そうですか・・・・・どこ行っちゃったんだろう・・・」
困ったように、腕の前で両手を合わせる。
・・・・・・。
ほっとく、わけにもいかないか・・・。
「手伝うか？ 探すの」
「・・・ごめんなさい」
「気にするな。普通に狩るのも、探しながら狩るのも大して変わらん」
俺はそう言うと、ペコから降りる。
そしてペコをアコの目の前まで歩かせた。
「あ、あの・・・？」
「乗れ。俺が歩く」
「そんな、悪いですよ。乗れません」
「乗ってもらった方が安全だし、安心だ。俺のためにも乗ってくれ」
「・・・ありがとう、ございます」
にっこりと微笑んで頭を下げると、アコはペコに乗った。
・・・しかし。
いつまでも「アコ」ってのも、なんだな。
「アンタ、名前は？」
「あ・・・忘れてました」
アコはペコの上から、俺の顔をじっと見据えた。
「私のことは、アカと呼んでください。あぁ、レッドでもいいですよ」
アカ？
髪の毛と瞳の色が赤いから、アカなんだろうか。
だとしたら安易だ・・・。
「・・・じゃあ、レッドと呼ばせてもらう」
「はい」
アカ、はどうも、知り合いの名前と似ているし。
「次は騎士さんの番ですよ？」
「へ？」
「お名前、教えてください」
「あぁ、俺の名前は・・・・・」
護強剣
「ラフレッシ、さんですか」
「仲間からはラフと呼ばれてる。ま、好きなように呼んでくれ」
「それじゃあ、私もラフさんって呼びますね」
「あぁ」
俺はペコの腹の辺りを軽く叩くと、ゆっくりと歩き出した。
そのすぐ後ろを、レッドを乗せたペコが続く。
いつ、どこから敵が飛び出してくるかわからない。
俺は油断泣く周囲を見渡しながら、カタコンベを進んだ。
「ラフさんって、強いんですね」
後ろのペコの上から、レッドが話しかけてくる。
俺は振り返りもせずに、その声に応えた。
「俺は、強くなんかない」
「そんなことないです。ラフさんは強いと思います」
「俺なんてまだまだだ・・・まぁ、ここで終わるつもりはないがな」
もっと、もっと強く―――――
最近、よく思うことだ。
「そんなに強くなって・・・どうするつもりなんですか？」
「どうする・・・って、それは」
言葉に、詰まった。
・・・・・。
どうするんだ？ 俺は。
「私の知り合いにも、とても強い騎士さんがいるんです」
「・・・今はぐれてる奴か？」
「そうです。その騎士さんは、『俺は俺のために剣を振るう』って言ってました。
ラフさんは、どうですか？」
自分のために、剣を持つ。
自分のためだけに、剣を振るう。
「・・・・・俺は」
自分のため？
自分のためだけに？
「俺・・・は」
ビュン！
考え込んでしまった所為で、注意力が散漫になっていた。
レッドの叫び声でやっとソレに気付き、正面を見る。
もう目の前に、ハンターフライが迫っていた。
「くっ・・・！」
すぐに剣を抜刀するが、ハンターフライはそれよりも早く、俺の顔面に突っ込む。
ガッ！
直撃。
俺はその勢いに吹っ飛ばされ、地面に背をつけてしまった。
―――油断した。
普段なら、ハンターフライごときに後れをとることなんてないのに。
「だいじょうぶですかっ！？」
「・・・問題ない。油断しただけだ」
俺はそう言いつつ立ち上がり、素早く動き続けるハンターフライに剣を向けた。
さぁ。
「一撃のお礼・・・してやるよ」
俺に向かって再び突っ込んできたハンターフライを、剣で地面に叩き落とす。
このハンターフライがもしチョンチョンなら、これで真っ二つになって終わりだろう。
しかし流石に、ハンターフライはそうはいかなかった。
地面に体を強打したハンターフライだったが、すぐに羽を動かして浮かび上がる。
そして懲りもせずに俺に突進してくるが、真正面から突っ込んできては、当たるはずがない。
この、俺には。
俺は少しだけ体を横に逸らして、ハンターフライをやり過ごした。
それと同時に、剣での一撃を入れることも忘れない。
横に一閃された俺の剣は、ハンターフライの顔を斬り裂いた。
しかし分断させるまでには至らず、ハンターフライはくるくると回転しながら地面に落ちる。
まだ生きている。
俺は止めをさすべく剣を両手で持って上げ、そして突き出した。
ザシュッ！
ハンターフライの体に突き刺さる剣。
ビクッと体を震わせたハンターフライは、もう永久に動くことは無かった。
「やっぱり、強いじゃないですか」
「・・・・・そこそこには、な」
でも。
この程度じゃ、まだ。
そいつらは、確かに強かった。
男騎士は一瞬にしてスケルトンプリズナーの懐に飛び込むと、剣を振り上げてその腕を斬り飛ばす。
その騎士が離れたと同時に、女ハンターが銀矢を放つ。二回、三回と、そのスピードはかなりのものだ。
腕を斬られ、胸の辺りに銀矢を受け、スケルトンプリズナーはよろよろと蹌踉ける。
そこに、止めとばかりに、女プリーストがホーリーライトを放った。
スケルトンプリズナーに光が収束し、弾ける。衝撃に体を震わせて、スケルトンプリズナーは倒れた。
手際がいい。彼らが戦い慣れている証拠だ。
「彼らか」
「はい、そうです」
少し離れた場所から戦いを見ていた俺とレッドは、そう言ってお互いを見る。
「強いな」
「ですよね。私もいつか、あんなふうになりたいですよー」
憧れの眼差しを彼らに向けるレッド。
彼らのようになることは、どんな者でも抱く夢であり、目標であろう。
―――――まぁ、とにかく。
レッドを彼らに合流させるとしよう。
まだ向こうはこちらの存在に気付いていない。俺たちは彼らに近づくと、声をかけた。
「おい、アンタらの仲間、連れてきてやったぞ」
「は？」
「え？」
騎士とハンターが驚いたように振り返り、俺とレッドを見る。
その途端に、二人の顔がどんどん不機嫌なものへと変わっていった。
・・・なんだ？ この反応は。
「皆さん、本当にすみません・・・ご迷惑かけて」
「本当だよ」
ぼそり、と女プリーストが呟いた。
その呟きは小さなもので、レッドにまでは届かない。
男の騎士はハンターと騎士に目配せすると、俺へと近づいてきて肩を組んできた。
・・・慣れ慣れしいな。
「なぁ騎士さん。すこ〜し話があるんだけど」
「・・・・・なんだ？」
「あ〜〜〜〜〜・・・ここじゃなんだから、少しこっち」
騎士は俺と肩を組んだまま、その場から少しだけ移動する。
そのすぐ後ろを、ハンターとプリーストが続いた。
「あ、あの・・・？」
「アカ、アンタはここで待ってな」
「・・・・はい」
レッドから十数メートル離れた場所で、俺たちは止まる。
「・・・さて」
男騎士は肩を組むのをやめ、俺の目の前に立った。
その横に、ハンターとプリーストが並ぶ。
「アンタに頼みがある」
男騎士が口を開いた。
何を言われるのか・・・大体想像がついていた俺だったが、続きを促してやる。
「なんだ」
「あのアコライト、アカなんだけどな」
「・・・・・・」
「正直、もうこれ以上あいつの面倒を見るのがめんどくさいんだ」
・・・・・。
「アカがいると、どうしても狩り場のランクを下げないといけなくなるしねぇ」
「私たちいつもこの３人で行動してるんだけど、アカが入ると連携もやりづらくってさ」
ハンターとプリーストも、疲れたようにそう言う。
「だからよ、騎士さん？ アンタんとこで拾ってやってくんねぇ？
あ、もしダメなら、どっかの街にでも置いてきてくれりゃあいいから」
・・・・・・・・・。
「お前らは」
俺は、口を開く。
「お前らは、仲間なんじゃないのか」
「仲間ぁ？ はははっ。俺たち三人は仲間だけど、アカは別だって」
「なんて言うかなぁ・・・ペットに近い、のかな？」
「まったくさぁ・・・。
キミが気まぐれでアコライトなんて拾ってくるから、後々やっかいなことになるんだよ」
「あー、お前だって、最初は可愛い可愛い言ってたじゃねぇかよ」
・・・・・・・・・・・・・。
「まぁそんなわけで、頼んだ騎士さん。
本当に面倒なら、ここに捨てて行っても構わないしな」
「そんなコトしたら、アカ死ぬだろうね〜」
「テレポートすら覚えてないんだから、救いようがないよ」
「そうだな」
言うだけ言って、楽しそうに笑う三人。
そんな姿を見て。
俺は。
俺は。
「んじゃ、俺たち狩りの続きに行」
ガッ！
俺の拳が、男騎士の顔面にめり込んだ。
男騎士は言葉を最後まで言うこともできず、後ろから地面に倒れ込む。
手加減は、しなかった。
これっぽっちも。
「分かった・・・引き受けよう」
吐き捨てるように、そう言う。
「・・・アンタ！ いきなり何しやがる！」
「わからないか。この屑が」
「そんな一方的に殴られて言われて、黙ってられるほど俺ぁ大人じゃねぇぜ！」
怒り心頭、と言った感じの男騎士。
そして彼の両脇には、同じく戦闘態勢に入ったハンターとプリーストがいる。
・・・まぁ、もし戦闘になれば、勝てないだろう。
・・・・・だが。
謝るつもりは、毛頭無い。
「きゃぁぁぁっ！！」
突然、レッドの悲鳴が聞こえた。
振り返ると、そこにはレイス数匹に囲まれてるレッドの姿がある。
敵に好かれる体質なのか、あいつはっ！
「うわぁぁぁーーーっ！ ダークロードが出たぞーーーーーーー！！」
そして同時に、違う方向から叫び声が聞こえてくる。
ダークロード。
このカタコンベに時々出現するという、強力な力を持ったモンスターだ。
「おいっ」
「うん！」
「了解〜！」
三人組は、その叫び声がした方向へ走っていこうとする。
俺は男騎士の腕を掴み、止まらせた。
「なんだよ！ さっきのことは忘れてやるから、さっさと手を放せ！」
「あんたら、仲間が襲われてるのに、助けないのか！」
「もう仲間じゃねぇ！ 捨てたんだからな！」
「・・・・！」
「わかったら放せ！ 大物がとられるだろうが！！」
バンッ！
俺は突き飛ばされ、男騎士から手を離してしまう。
男騎士は唾を吐き捨てると、走って行ってしまった。
俺はもう奴らを引き留めることはせず、レッドの方へ駆ける。
「ペコ！ 走れぇぇっ！！」
「クワッ！」
俺の声に反応し、レッドを乗せたペコは俺へと向かって走ってきた。
その後ろに、レイスが・・・・五匹。
なんとか、なる。
なんとか、する！
「おおおおぉぉぉぉ！！」
咆哮を上げつつ、俺はレイスへと斬りかかって行った。
「ラフ、さん？」
「・・・・・なんだ？」
・・・・・。
「ラフさんは、やっぱり強いです・・・」
「・・・・・・そんなことは」
「そんなこと、あるです」
・・・・・。
「私」
「・・・・・」
「私、捨てられたんですね」
「聞こえていたのか」
「はい・・・特に最後の方、怒鳴ってましたし」
あはは・・・と力無く笑うレッド。
「私・・・・・・」
「・・・・・」
「私・・・強く、なりたい・・・」
「・・・・・」
「強く・・・なりたいです・・・」
泣いている。
だから俺は、見ない。
「強くなって」
「・・・え？」
「強くなって、どうするつもりだ？」
強さとは、一体何なのだろう。
あの男騎士は強いのか？
ダークロードは強いのか？
俺は、強いのか？
「私は・・・」
「・・・あぁ」
「私は、護ります」
「・・・・・あぁ」
「大切な人を・・・護ります」
・・・レッドは、強いのか？
「なら」
「・・・？」
「なら、ついてこい」
「え・・・・？」
「一緒に行くぞ。レッド。強く、なるために」
「・・・・は・・・はいっ！」
自分が強くなって、どうするのか。
本当の強さとは、何なのか。
まだ、よく、わからないけれど。
分からないなら、探せばいい。
いつかきっと、見つかるはず。
幸いなことに。
俺たちには、まだ、時間があるみたいだから。
END．
＜＜＜あとがき＞＞＞
この物語はノンフィクションです。
・・・とか言えたら、楽しいのに（ぉ）。
そんなわけで、Ａｏが贈る「実際に存在するキャラクターを使ったＳＳ」第二弾。
『護強剣』（読み方は想像にお任せします）いかがでしたでしょうか？
この話は、海に行ってる時に、テントの下でルーズリーフを片手に書いた作品です。
久々にシャーペンというモノを握り書いてみましたが・・・いやはや、ダメですな（ぉ）
ラフレッシ（以後ラフ）が格好良くなりすぎた感が否めません（ぉ）。
普段の彼はもっと気さくですから、ＲＯ内で見かけたらこう叫んであげましょう。
「隠し子かよ！？」
・・・冗談ですよ。いやホント。
さて。
とりあえずギルドメンバー全員分のＳＳを書こうかなぁと画策している管理人ですが、
次は誰の話を書こうか・・・。
と言うか、書けるのか・・・・・ネタがもつのか自分。
次の更新はいつになることやら・・・。