儚灯火
ガクッ。
その反動で、目が覚めた。
・・・・・・。
いつものように、燦々と照りつける太陽の陽差し。
空を見れば、今日もまた雲一つない晴天。
・・・てか、暑いんだよ。
俺はまだ覚醒しきってない頭で、しばらくぼーっと空を見上げていた。
そういや、俺はいつからここにいたんだっけ・・・。
ここは、いつも俺たちが溜まり場にしているモロクの建物前だ。
どうやら俺は、その宿屋の壁にもたれるようにして寝てしまっていたらしい。
全身汗びっしょりだ。まったく、こんなところで寝るなんて何を考えてるんだか。
・・・自分のことだがな。
・・・・・・・・・。
「あれ、あおあん起きたん？」
「あおあんバンバン」
どのくらいぼーっとしていたのか・・・。
気が付けば、目の前に知った顔が二つあった。
「にゃぎ、ぐらうっち」
にゃぎ・・・ナギと、ぐらうっち・・・グラウ。
二人は俺とは所属ギルドは違うが、いつも溜まり場で一緒になる顔ぶれだ。
にゃぎがアサシン、ぐらうっちがハンター。
どうやら二人でどこかに狩りにでも行ってきたらしい。
にゃぎの手には収集品が詰まった袋があった。
「ちょっとピラ行ってきた」
にゃぎが袋の中から、くさった包帯を取り出しながら言う。
どうやら袋いっぱいに、その包帯が詰まっているようだった。
・・・しかし思うのだが、くさった包帯ってどうして売れるんだろう・・・。
「今日の狩りは上々だったね〜」
「うん、人もあんま多くなかったし」
どうやら二人は、満足のいく狩りができたらしい。
まぁ、そこらへんは置いといて、だ。
二人は、かなり重大なミスを犯している。
俺の尊厳に関わる問題だ。
俺は大きく息を吐くと、
目の前で今日の狩りの様子について語っている二人にゆっくり、はっきり言った。
「コラ、どうして俺がベトになるんだよ。
俺は幸ねこだ。幸ちゃんだ。ねこだねこ。間違えるな」
「は？」
「え？」
二人は訝しげな表情を浮かべて、俺を同時に見る。
何だ何だ、その目は。
俺は何かおかしなコト言ったか？
俺・・・そう、俺は幸ねこだ。
アオ（あおあん・・・ベトと呼ばれることもある）なんかであるはずがない。
「あおあん・・・とうとう頭まで・・・」
「こんな日が照ってる場所で寝るからだよ」
「可愛そうにね・・・でもまぁ、ベトだし」
「ベトだしね」
「・・・」
今度は哀れみの目を向けてくる二人。
俺はゆっくりと、視線を下に落とした。
自分の着ている服・・・・・。
・・・は？
「はぁっ！？」
そう、それは紛れもなく、アサシンの服だった。
頭に手をやってみる・・・耳の部分に、妙にふわふわした感覚。
近頃アオが好んで付けている、耳当てだ。
・・・。
「はぁぁぁっ！？」
俺は幸ねこだ。確か幸ねこだったハズだ。
・・・だが、何故か俺はアオになっていた。
儚灯火
動揺する俺を見て、にゃぎとぐらうっちは苦笑していた。
「ほらほらあおあん、自分が分かるかい？」
「脳みそまでベトベトになっちゃったの？」
「にゃぎ、それは最初からだよ」
「あ〜、そうだったね」
二人の様子はいつも通りだ。
いつものように、アオをネタにして遊んでいる。
本来なら、俺もそれに混ざってアオをベトベト言って遊ぶのだが・・・。
今日は、そのアオが俺だった。
「だ、だからっ、俺は幸ねこでっ、断じてアオじゃなくてっ・・・！」
「はいはい、分かったから少し落ち着きなさい」
「暑さにやられたかなぁ。こういう場合はヒールって効くの？」
「さぁ？・・・効かないんじゃない？」
やはりいつも通りな二人。
俺はこのまま普通に流されるような危機感を感じて、怒鳴るように叫んでいた。
「あーーもーーー！ 確かに体はアオだけど、俺は幸ねこなのっ！
ネタでもないし、暑さで頭もやられてない！
正真正銘！ 俺が幸ねこっ！」
「んなこと、あおあんの顔と声で言われてもね〜」
「まぁ、そんな些細なことはどーでもいいとして、清算しよっか」
「そだね〜」
今の俺の状況を、「些細なこと」の一言で片づけられてしまい、俺は言葉を失った。
にゃぎとぐらうっちの二人は、収集品の分類を始めている。
ダメだ・・・。
そりゃそうだよな。
普通、信じないよな・・・。
いきなり言われたら俺だって信じないし、
現に今の状況だって、自分自身信じ切れてないし・・・。
・・・・・そうか。夢か？
夢ってオチか？
・・・そういうのなら慣れてるぜ。
・・・夢だと、割り切れば・・・。
「ちょっと、街うろついてくるね」
「あいあい」
「またね、あおあん」
清算作業をしている二人に背を向け、俺はモロクの街中へと足を向けた。
俺はモロク中心部よりやや南にある広場へと向かっていた。
そこには、露店が数多く並んでいる。
俺は歩きながら。ゴソゴソと懐を探った。
「あったあった」
取り出したのは、アオが愛用している財布だ。
ずっしりと、重い。
俺は、アオが欲しい物の為にお金を貯めていることを知っていた。
「・・・ふ」
思わず、笑みがこぼれる。
「ふ・・・ふふふふふ」
罠代に矢代・・・常に財政難だった俺。
一度でいい・・・。
無駄に買い物をしてみたかった。
露店で賑わう広場を、適当にうろつく。
ぶらぶら〜っと歩き、目に止まった商品を眺めて吟味する。
懐には、少しぐらいリッチな買い物ができるお金。
買うか買わぬか、高いか安いか、じっくり考える。
その行為が、なかなか楽しい。
そんなこんなで、あてもなくうろうろしていると・・・。
「ぃょぅ」
俺と同じ「最終兵器ねこねこ」のギルドメンバーである、ラフと出くわした。
「こんち」
挨拶の返事を返し、ラフの隣に並ぶ。
ラフはペコペコ乗りの騎士だ。
今日も一人でＳＤ３Ｆに行ってきたのだろう。
ペコに下げてある袋が、さっきにゃぎが持っていた袋と同じように膨らんでいた。
「今日は青箱でなかった・・・」
「・・・・・ナム」
「出るときは出るんだが・・・出ないときはサッパリ出ん」
はぁ、と息をつくラフ。
俺はそんなラフの肩をぽんと叩くと、笑顔で言った。
「そんな辛気くさい顔するなって。幸運が逃げてくよ」
「笑ってようが落ち込んでようが、関係無いと思うのだが」
「関係あるある。笑ってれば、少なくても狩りが楽しくなる」
「そうかねぇ・・・？ はぁ・・・今日はもうソロはいいや。拠点戻ろ」
「うむ、お疲れ」
とぼとぼと、拠点がある方向へ歩いていくラフ。
ふと、俺はそのラフを呼び止めていた。
「ラフ」
「ん？」
振り返るラフの顔を見て、何故か俺は次の言葉を続けることができなかった。
理由は分からないが・・・。
胸が締めつけられるような、感じだった。
「・・・・ありがとう」
「は？」
「・・・いや、なんとなく」
「わけ分からん」
「あぁ、わけ分からんな」
首を傾げるラフに、俺は苦笑しながらそう答えた。
「ふむ・・・それだけなら、俺もう行くぞ」
「おう、またな」
そうして俺は、ラフと別れた。
「ベト」
突然後ろからそう言われ、俺は振り返った。
そこには、俺のギルド最強の騎士である、通称『姫』が立っていた。
「姫、こんにちー」
「オイコラ、こんなところで何してる」
「は？ 何してるって、買い物」
「・・・・・・・・・」
「へ？ へ？」
俺の言葉を聞いて、呆れたような怒ったような沈黙をする姫。
俺はわけが分からず、ただ戸惑っていた。
「先生、ずっとピラ前で待ってるぞ」
「は？？？」
「一緒に狩りに行く約束してたでしょ」
「・・・そうなの？」
「・・・・・・・サイアクだ」
そりゃ・・・もしホントのことだとしたら、最悪だ。
「えっと・・・・・」
「忘れてた？」
忘れてたって言うより、知らなかったが正しいのだが・・・。
「・・・忘れてた」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
無言のまま、じっと俺を睨んでくる姫。
俺はそんな姫の視線に押され、ぐぐっと後ずさった。
「なに黙って呆けてる」
「え？」
「はやく行ってこい」
「あ・・・うん。行くよ」
「まったく、世話のかかるベトだ」
ため息でもつきそうな勢いの姫に、俺は苦笑してしまった。
「いつも、世話かけたね」
「は？」
「ありがとう――――んじゃ、また」
「まっ・・・まてこらっ」
俺は姫に背を向けると、モロクの北西にあるピラミッドに向かって走り出した。。
「せ〜〜ん〜〜〜せ〜〜〜〜い〜〜〜〜〜」
呼びかける。
「先生〜〜〜〜〜！！」
さらに呼びかける。
「お〜〜〜い先生〜〜〜！？」
ガクガクガクッ。
肩まで揺さぶってやる。
しかし・・・・先生は頑固だった。
「なっ・・・なんて深い眠りなんだ・・・っ！」
そう―――先生はピラミッド入口前の日除けの下で、寝ていた。
待ちくたびれてしまったのだろう。
先程から何度も起こそうと声をかけたり、揺さぶってみたりしているのだが・・・。
起きる気配はまったくしなかった。
「はぁ・・・しまったなぁ」
知らなかったとは言え、ちょっと罪悪感にかられる。
「約束すっぽかして買い物してたなんて・・・」
最悪にも程がある。
俺はため息をつくと、柱に背を預けて寝ている先生の横に座った。
ひゅぅ、と気持ちのいい風が吹く・・・。
こりゃ眠くなるわ、と俺も目を閉じた。
時間の流れが、やけにゆっくり感じられる。
「先生と初めて会ったのは・・・プロンテラだったなぁ」
ふと、思い出した。
先生と初めて会った、あの日。
先生と俺は意気投合し、プロンテラの一角で楽しく語り合った。
・・・懐かしい、思い出。
もし、あのとき、あの場所で先生と出会ってなかったら・・・。
「こうやって、隣に座ってることも、無かったんだろうね」
ひゅぅ、と優しい風が吹いた。
俺と先生を、通り過ぎていく。
「先生」
立ち上がって、まだ寝ている先生を見て、俺は言った。
「楽しい時間を―――思い出を、ありがとう」
そうして、俺は歩き出す。
歩かなければならない・・・そんな気がしていた。
俺はモロクの街に戻り、中央の城を取り囲んでいる堀の中に足を投げ出して座っていた。
照りつける陽差しは相変わらず・・・。
しかし目の前の水を見ていると、なんだか涼しくなってくるから不思議だ。
「アオ様〜」
「は！？」
いきなり慣れない呼び名で呼ばれ、俺は思わず声を上げていた。
「どっ・・・どうしたんですか？」
俺の横には、驚いた顔のホロ・・・アオの奥さんがいた。
心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
「あ・・・いや、何でもないよ」
冷静を装い、俺は笑った。
「にしても、偶然だね」
まさかここで知ってる者と会うとは思っていなかった俺が、ホロを見て言う。
「探しましたよ〜、随分と」
そう言って微笑んだホロが、俺の隣に座った。
俺と同じように、堀の中に足を投げ出す。
「まったりだ〜」
「まったりですね〜」
何をするというわけでもなく。
何を見るというわけでもなく。
ただ、刻の流れに身を委ねる。
「アオ様、今日はどうしたんですか？」
「ん？」
「こんなところで一人で・・・」
「あ〜・・・まぁ、たまにはね」
言葉を濁す俺・・・正直なところ、俺は自分で何をしたいのか分からない。
夢、であるはずの今。
妙に胸にある、焦燥感。
何かをしないといけないような・・・気がする。
「アオ様」
「ん？」
「今日のアオ様・・・なんかいつもと違うような気がします」
・・・鋭い。さすが夫婦。
「・・・なぁ、ホロ」
「なんですか？」
「まぁ・・・なんだ」
俺は言葉を区切ってから、言う。
「これからも――――よろしく頼むな」
「あ・・・・はい、こちらこそ」
「んじゃ、俺行くわ」
立ち上がる俺を見て、ホロが聞いてくる。
「行くって・・・どこへ？」
――――――――どこ、だろう
「まぁ・・・気のままに、な」
俺はそう言って、笑った。
陽が、沈みかけていた。
何をしたいのか。
何をすべきなのか。
何で、こうなっているのか。
俺は、モロクの中央・・・城の壁に寄りかかっていた。
「・・・・・・・・」
陽が、沈む。
世界が赤く染まる。
空も。
地面も。
人も。
建物も。
影が長く伸びる。
切なさが・・・どうしようもないほどの哀しさが、込み上げてきた。
「そろそろ・・・時間、か」
自分が呟くが、呟いておいて何のことだか分からない。
「あぁ・・・・・待てよ、俺・・・」
勝手に口が動く感覚。
「だめだろ・・・これじゃ・・・・・」
・・・・・・・・。
「これじゃ・・・・この状態じゃ・・・・」
あいつに言えないじゃないか。
あいつに伝えられないじゃないか。
「ははっ・・・はははっ・・・」
目の前が、ぼやける。
白く染まっていく。
何でだ？
ナンデダ？
・・・・・。
そっか。
泣いてるのか。俺。
ふと、言葉が浮かんできた。
言わないと、後悔する、言葉。
「ありがとう。みんな」
「俺、幸せだったよ」
「本当に、ありがとう」
力無く、アオの体が、倒れた。
拠点前。
「そういや、今日誰か幸ねこ見た？」
「んー？ 見てないなぁ」
「あぁ、なんかたまにはソロで狩りしてみるって、出かけてったよ」
「狩り・・・ねぇ。どこ行ったんだろ」
ＧＨ：修道院
「誰か、死んでる・・・」
「ほっとけよ、ここじゃ死体なんて珍しいもんじゃないだろ」
「もう完全に事切れてるようですね・・・これではリザでも・・・」
「かわいそうに・・・Ａｍｅｎ」
「冥福を」
それは、一時の、奇跡のカタチ。
「うぁ・・・・頭痛ぇ・・・」
「あ・・・れ？ 何で俺こんなところに・・・？」
「むぅ・・・？」
「ま、いいや。とりあえず拠点戻ろ」
「ところで幸のヤツ、今日見てないけど何やってんだろ」
END...
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あとがき
最初はギルメン全員出そうかと思ったのですが、気力がなくｎ（鯖キャン）
まぁ、そんなわけで付き合いが長いギルメン＋αに出演してもらいました。
休止してる人や幽霊なっちゃってる人除くｗ
説明不足部分や、分からない部分・・・そこは自分で想像してください。
想像してこその小説。考えてこその文章。
・・・ただ単にＡｏの力量不足とも言う・・・（汗）。
追記
うぅ〜〜にゃぎ〜〜！
やっぱダークネス系ウチには無理ぽー！（ぉ）