結果から言おう。
グラストヘイムの精鋭VSバフォメット・・・
勝負はクラストヘイム陣の・・・
ヴァルスの圧勝だった。
ヴァルスは・・・悪鬼そのものだった。
たしかに、バフォメットの強さは異常だった。
グラストヘイムの精鋭たちは、奴の爪の一撃で
なぎ払われ、
その鎌は、森ごと全てを生の鎖から断ち切った。
しかし、騎士団員が恐怖して、退いていく中、
そんな悪魔の前に、一人だけ立ちふさがるものがいた。
ヴァルスは、他のものが顔を青ざめ、恐怖に震えている中、
氷のような冷たい、しかしその奥に地獄の業火を秘めた眼差しで
バフォメットの眼差しを正面から見据えていた。
そして戦いは始まった。
ヴァルスは地の高等魔法で、
鎌を持ち獲物を見定めているバフォメットの足元の地面の硬度を失わせ、
沼状にし、バフォメットの動きを封じた。
バフォメットが怒りの雄たけびを上げ、暴れようとするのを気にも留めず、
続けざまにその指先からいく筋もの業火を放った。
その炎は、壁となり、瞬く間にバフォメットを包んだ。
バフォメットに炎の壁で決定的なダメージなんて与えられるわけはない。
そんなことは、当のヴァルス本人が一番理解していた。
ヴァルスは、バフォメットが毒の沼と炎の壁にとらわれている間に、
大技に出た。
ヴァルスは詠唱に入る間際、周りの人間たちに
「至急、この場を離脱せよ！！」
と命じた。
その一言で糸を切られたかのように、
周りの者たちはこの悪魔から・・・
悪魔たちの争いから逃げ出していった。
後に残ったのは、二つの、悪魔と呼ばれる者たちの姿だった。
ヴァルスは詠唱に入っていた。
その魔力の余波はすさまじく、
周りの木々はざわめき、動物たちは野生の本能から、
我先にと森の奥へと消えていった。
そしてバフォメットも、
自分の目の前にいる人間が
何をしようとしているのかを察したか、
激しく暴れだした。
しかし、愚かな人間の生み出した、
か弱いはずの炎は、地面は、
バフォメットを自由にすることはなかった。
もともと光のほとんど差し込むことのない森が、
一層暗くなった気がした。
その瞬間、ヴァルスから放たれる魔力の余波が
一段と増したかと思うと、
ヴァルスは、突然天を指した。
すると、天に一筋の光が放たれ、
その光に呼応したかのように、
いくつもの小さな光が現れた。
いや、光ではない。
それらはだんだん大きくなっていた。
近づいているのだ。
そう・・・それは、
隕石だった。
二つの悪魔の戦場から逃げ出した者たちは見た。
大きな悪魔が炎に包まれもがくのを、
小さな悪魔から天に向かって光が放たれるのを、
そして、大きな悪魔に、
とてつもなく大きな何かが、いくつも降り注ぐのを・・・
あたりには、悪魔の咆哮か、隕石の降り注ぐ音か、
とにかく爆音がとどろき、
ヴァルス自身聴覚は麻痺し、
土煙の炎と、爆風と熱波で、
周りの様子を捉えることも容易ではなかった。
しかし、ヴァルスはなに動じることなく次の行動に出た。
その場で、片ひざをつき、
懐から青く光る石を取り出すと、
地面に手をついて、その石を地面の上につきたて、
何事かブツブツとつぶやく。
そして立ち上がると、
数歩下がり、
また片ひざをつくと、
手をついてまた石をつきたて、
何かをつぶやいていた。
幾度かその動作を繰り返し、
ヴァルスは周辺いったいに、
円を描くように石をつきたてた。
そして、ヴァルスが静かに
その場から立ち去ろうとすると、
背後の炎の中から、
バフォメットが恐ろしい雄たけびと共に、
鎌を振り、飛び掛ってきた。
ヴァルスは・・・
悲しい瞳で・・・
こういった・・・
「・・・地に帰れ・・・安らかに・・・」
ヴァルスは
パチン・・・
と指を鳴らした。
そして・・・
青き石より生まれた真紅の炎の柱が、バフォメットを包み込んだ。
・
・
・
跡には、何も残らなかった。
他の者たちは、なにが起こったのかわからず、
恐ろしくて、まだ戦場に戻れずにいた。
ヴァルスは、地面にできた、
大きな人のような形の、
黒い炭にむかって、
「・・・すまない・・・」
そう、一言だけつぶやいた。
黒い炭は、影が光に照らされるかのように、
すうっと、
音もなく消えていった。
不思議なことに、
その影の消えた跡には、
急に、花が咲き、
辺りは一面、花畑に覆われた。
地面だけではない。
ヴァルスとバフォメットの争いによって焼かれ、なぎ払われた木々たちも、
次々と、その命を再生していった。
「・・・やっぱりあんたは・・・神様だよ・・・人間なんかよりも・・・ずうっとね・・・」
ヴァルスはふぅっとため息をつき、
本隊に合流しようとした。
すると、先ほどまで黒い影のあった場所で、
花の中で、
何かが動いたような気がした。
ヴァルスは怪訝に思い、
その場所に近づいた。
・
・
・
「・・・なにかいるのか？」
・
・
・
・・・こうして、
僕は、ヴァルスという人間と、
出会ったんだ・・・
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木々が生い茂り、太陽は全てを暖かく包み込む。
本当にのどかな、午後のグラストヘイムの、城の頂。
「お〜い、エデ〜ン、どこだぁ〜？」
一人の人間が僕を呼んでいる。
「ココ。ヴァルス、エデン、ココ。」
「また勝手にうろついて・・・お、いい風が吹いてるな・・・
おまえも風にあたりに来たのか？」
人間は気持ちよさそうに伸びをした。
「ウン。ココ、キモチ、イイ。」
僕も真似をして伸びをした。
・
・
・
僕の名前はエデン。
ヴァルスという、人間につけられた名前だ。
なんか、「楽園」っていって、とってもきれいで、素敵なところの名前らしい。
僕はこの名前がとっても気に入ってる。
でも、周りの人間は、僕の事を変な目で見るんだ。
「楽園と言う名の悪魔か・・・どんな楽園だか・・・」
「楽園？地獄の間違いだろう？」
って、なんかとっても冷たい目で見てくるんだ。
そう、僕は人間じゃないらしい。
周りの生き物は、皆僕とは違う。
ヴァルスが見せてくれた本には、
「バフォメット」って載ってた。
字は読めなかったけど、ヴァルスは、
なんか、乱暴で、とっても悪いものなんだって書いてあるって言ってた。
それに、僕は乱暴じゃない。本はうそつきだって言ってた。
うん。本はうそつきだ。
でも、本の「バフォメット」の絵は、なんだかとってもかっこよかった。
おっきくて、強そうで・・・かっこよかった。
僕もいつかあぁなるのかなぁってヴァルスに聞いたら、
なれるよって言ってくれた。
今の僕は、バフォメットJrだなっていってた。
Jrは、子どもって意味らしい。
僕は子ども。
じゃあ、お父さんとお母さんはどこにいるんだろう？
ヴァルスは人間だから、違うよね？
僕と同じバフォメットは、周りにいない。
でも、僕は生まれたときからずっとここにいるから、
よくわからないや。
本当のお父さんは知らないけど、
今の僕のお父さんは、ヴァルスだよね。
ヴァルスは、なんだかいっつも一人でいる。
なんだか全然笑わなくて怖いんだって、他の人間が言ってた。
なんでだろう？
そういえば、僕も笑ったことがないや。
笑うって・・・なんだろう？
僕もいっつも一人でいる。
友達は誰もいない。
友達？友達ってなに？
ヴァルスはいっしょに話して、
一緒に遊べる相手のことだよって言ってた。
じゃあ僕は、友達っていないんだね。
ヴァルスも友達いないんだねって言ったら、
なんだか、ヴァルスは僕のことを、
目を細めて見てた。
それで、そうだなって小さい声で言ってた。
ヴァルスは僕のことを「ひとりぼっち」って言ってた。
自分の子とも「ひとりぼっち」っていってた。
どっちも「ひとりぼっち」だから、
「ふたりぼっち」だって言って・・・
笑ってた。
そっか・・・ヴァルスは僕のお父さんで・・・
友達なんだ・・・
・
・
・
「ヴァルス。ナンデエデン、ヒト、シャベレル？」
「ん・・・？あぁ、なんで人間の言葉がしゃべれるかってことか。」
「ウン。ナンデ、エデン、シャベレル？」
「そうさな・・・まぁ、お前は生まれたときから人間に囲まれた場所で、
人間の言葉を聞いて育ってきたからな。おれ自身、お前たちバフォメットの言葉なんて知らないから、
お前には人間の言葉で話しかけていたからな。
・・・それ以前に、バフォメットに言語というものがあるのかは知らないが・・・
まぁ、お前たちは俺たち人間が何年も修行して、学んでやっと使えるようになる高等魔法を、
自然と身につけ、ただ手を振る動作をしたら魔法・・・
いや、俺たちが魔法と呼ぶ現象を起こしてしまうようになるらしいし・・・」
「ン〜・・・」
「あぁ、悪い。難しくなってしまったな。要するに、お前は頭がよくって
生まれてからずっと人間の言葉を聞いて育ったからだよ。」
「エデン、アタマ、イイ。ソレ、イイコト？」
「あぁ、とてもいいことだ。」
「アタマ、イイ、ツヨイ？」
「ん〜・・・頭がいいことが直接強いことではないが、頭が強いことが、一つの強さだぞ。」
「エデン、ツヨクナリタイ、アノ、ホンミタイニ」
「本・・・あのバフォメットの絵が載ってた本か。」
「エデン、オトナ、ナル。ツヨク、ナル。ナレル、ヨネ？」
「あぁ、今はまだ子どもでも、いつか大きくなって、あの本のようになれるさ。」
「・・・お前の母さんのようにな・・・」
「ヴァルス、ナニカ、イッタ？」
「いや・・・でも、お前は優しいからなぁ〜。」
「ヤサシイ、イイコト、ヴァルス、イッタ。ワルイ？」
「もちろんいいことさ。ただ、バフォメットっていうのは、怒りや憎しみのような、負の感情によって生まれ、
負の感情によって強くなるっていう話がある。俺は・・・そうは思わんけどな・・・」
「ヤサシイ、イイコト。デモヤサシイ、オオキクナレナイ。エデン、ドウスレバ、イイ？」
「ハハ、まぁ、じっくりいこうや、エデン。おまえはバフォメットＪｒなんだから。
Ｊｒはいつか大人になるものさ。」
「ヴァルス。エデント、ヤクソク、オオキクナル、ヤクソク。」
「わかったわかった。お前は絶対大きくなれる！俺が保証してやる！」
「エデン、オオキクナル。ソノトキマデ、コレ、ヴァルスノ」
「ん・・・？これは・・・」
「ソレ、キレイ、アオイ、イシ。エデンノ、タカラモノ。」
「いいのか、エデン？宝物なんだろう？」
「エデン、ソノイシ、タカラモノ。ヴァルスモ、タカラモノ。」
「・・・そうか・・・」
「エデン、ヴァルスニ、ソダテテ、モラッタ。エデン、ヴァルスニ、イシ、カシテ、アゲル。」
「くれないのか？けちなやつだなぁ。」
「エデン、ケチチガウ。」
「ハハハ、そう怒るな。ＯＫＯＫ。これは、お前が大きくなったときに返す。
俺とお前の約束だ。」
「ヤクソク、エデント、ヴァルスノ、ヤクソク。」
・
・
・
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・・・ドォォオン・・・
また、どこかで建物が倒壊する音が聞こえた。
辺りには悲鳴と爆音と、怒りの咆哮がこだまし、
こんな状態では正気を保つことも困難だ。
「くそ・・・プロンテラのやつらめ・・・」
ヴァルスは悪態をついていた。
これほどまでに他人の愚かさを憎み、罵り、
その炎によって全ての人を黙らせたいと・・・殺したいと思ったことはない。
それほどまでに、今のこの状況は絶望的なものだった。
グラストヘイムは・・・燃えていた・・・
・
・
・
「敵襲だぁあああああ！！！」
その衛兵の叫びは突然響いた。
そして同時に、ペコペコに騎乗した騎士たちが、グラストヘイム内へとなだれ込んで来た。
敵軍は、見たことのない旗を掲げていた。
「独立国プロンテラ」
・・・そう。
これは、プロンテラの独立戦争なのだ。
プロンテラの治安を守るために派遣された者たちによって、
グラストヘイムの騎士団の戦力をプロンテラの防備のために分裂させる必要のないよう、
プロンテラの軍備を強化するために設立されたプロンテラ騎士団。
その騎士団が、グラストヘイムに牙をむいたのだ。
だが、滑稽な話だ。
百戦錬磨、無敗の伝説を築き、
この大陸を支配しているグラストヘイムに、
いかに正規の訓練をくけたとはいえ、
まだまだ発展途上の騎士団と義勇兵の寄せ集めで、
いかにして打ち勝とうというのだ。
戦いは数分で終わるであろうものだった。
グラストヘイムには有能な魔術師も、聖職者も数多く存在する。
そして、その無尽蔵とまで思える屈強なる騎士団員たち。
彼らを前にして、プロンテラ騎士団はやはり、
攻めることはおろか、陣形を保つことすら出来ないでいた。
数分のうちにプロンテラ騎士団は撤退を始めた。
誰もが予想できうる結果であった。
しかし、ヴァルスはひとつの違和感を感じていた。
（こんな、負けることのわかっている攻撃をする必要がどこにある？
独立をかけての戦をする、その宣戦布告ならば、書状で十分なはず。
それなのに、貴重な戦力を捨て駒のように用いるのは・・・
単なる作戦ミスか、無謀なものたちの先走った行為か？）
その時、エデンがつぶやいた。
「ア、トリ・・・」
「・・・鳥？」
鳥なんて、誰にも相手にされず、外で一人でいることの多いエデンにとっては、
いつも見ているもののはずだった。
しかし、エデンが不思議そうに空を見上げている。
ヴァルスはエデンの視線の先を見た。
太陽に隠れて、何かが飛んでいる。
大きな影だ・・・
それも一つじゃない、かなりの数だ。
（あれは・・・鳥じゃない！！）
その瞬間、一気にその空を舞う集団は、グラストヘイムめがけて急降下してきた。
「ドラゴンだ！！」
ヴァルスはそう叫ぶやいなや、エデンを腕に抱え
玉座へ急いだ。
後ろで、大きな破壊音と、悲鳴、そして、
聞いたことのないような凄まじい咆哮が響き渡った。
外からも、何か大きなものが群れを成して近づいてくる振動と音が伝わってきていた。
そう、天より飛来せしもの。そして、大地を駆け襲来せしもの。
それらはミョルニール山脈の奥地に生息するといわれる竜、
プティットの大群だった。
しかしなぜ、普段山脈の奥地にひっそりとその巣を構え、
人里にはめったに姿を現さないプティットたちが、
こんな群れを成して人里に現れるだけでなく、
このグラストヘイムを攻撃するというのだ！？
「ネェ、ヴァルス。」
「なんだ、エデン！？俺は今考え事を・・・」
「アソコニ、ダレカ、イルヨ。」
「なに！？」
ヴァルスは突然のエデンの発言に、エデンが指差す方を見てみた・・・が、
その辺りに特別何かが動く気配などはない。
「・・・気のせいじゃないのか？」
こんなところで立ち止まっている暇はない。
早く王の元へ急がねば。
ヴァルスはあせっていた。
だからヴァルスは、エデンの気のせいだと思った。
しかし・・・
「あ・・・エデン！！」
エデンがヴァルスの腕を振り払い、下に下りた。
そして、ヴァルスが驚き見ている中、
エデンはそれまでに見せたことのない俊敏な・・・
まるで薄暗い回廊の闇の中を滑るかのように、
先程示した壁際まで駆け抜け、
そして、躊躇することなく、
生れ落ちし日よりその手に持っていた、小ぶりな・・・
しかし鋭利な鎌を振り下ろした。
カン！
そんな、石畳に鎌が刺さる、そんな音がするはずだった。
しかし、現実にヴァルスの耳に届いた音は・・・
まさにエデンの鎌が肉を裂く音だった。
そして、その音が聞こえるのと同時に、
壁は一面鮮やかな朱に染まった。
「・・・え・・・エデン・・・」
エデンの足元には、一人の人間の体が・・・
人間だったものが転がっていた。
その頭と体は、もう2度と繋がることはないだろう・・・
「・・・アレ？コワレチャッタ。コノヒト、モロイネ。」
その時のエデンは、今までヴァルスが見たことのないエデンだった。
鎌は血に染まり、瞳はいつものキレイな赤ではなく、
どこか血のような赤黒い輝きを放ち、
なにか、ウズウズしているようだった・・・
『まだたりない・・・』
そう・・・言いたいかのように・・・
自分の足元に転がるモノを、じっと見つめていた・・・
ヴァルスは思わず後ろからエデンを抱きしめた。
「ヴァルス？ドウシタノ？」
「・・・エデン、もうこんなことしちゃだめだぞ・・・」
「？？コンナコト？ッテドンナコト？」
「・・・もう2度と、人間を殺しちゃだめだぞ・・・」
「・・・コロス？コロスッテ、コワスコト？」
「・・・あぁ・・・そうだ・・・」
「・・・ワカッタ、エデン、ヤクソク、ヴァルスト、ヤクソク。」
「あぁ・・・いい子だ・・・」
・・・ヴァルスは恐ろしかった。
バフォメットという血が・・・
・・・人を、生き物を殺すことなんて、一度も教えたことはなかった。
狩りなんて、学ぶ機会はなかったはずだ。
・・・しかし・・・
エデンはそれをやってのけた。
まだ子どもなのに、何も教えていないのに、何も知らないはずなのに・・・
この男は、その装束からして、アサシンのものだろう。
しかもココまで単独で忍び込むくらいならば、かなりの腕前だ。
いくつもの修羅場を抜け、自分でも戦闘に関しては、
人の気配を察する力なども磨かれているという自信はあった。
そんな自分に見つけられないほどの者に、
エデンは自然に気づいた。
そして、まさに獲物をみつけた捕食者のように、反応した。
そして、的確にその魂の鎖を、断ち切った・・・
ヴァルスは・・・恐ろしかった・・・
この・・・小さな、強大な悪魔が・・・
恐ろしかった・・・
・
・
・
エデンの目が、いつものキレイな赤にもどっていた。
ヴァルスはエデンを肩にのせた。
「しかしエデン。お前どうして気づいたんだ？この男がここにいるって。」
「ドウシテ？ダッテ、ミエテタ、ジャン。」
「見えてた？お前にはこいつがいるのがわかってたって言うのか？」
「ウン。ヴァルスニモ、ミエテタ、デショ？」
・・・バフォメット・・・闇に生きる悪魔・・・
彼らにとって、俺たち人間にとっての闇は光も同然・・・ってことか・・・
ヴァルスの背筋をまた冷たい汗が流れた。
「ソレニ、コレ、スゴイ、イヤナニオイ。」
エデンがとてもいやそうな顔をして死体が持っていた袋を指し示した。
「ん？嫌な臭い？」
ヴァルスはかがみこみ、袋の中を覗き込んだ。
「！！そ・・・そんな！！」
中にあったのは・・・
無残にもその命の芽をつまれた、
幼いプティットだった。
「ソレ、ナンダカ、スゴク、イヤナニオイ。」
「あ・・・あぁ・・・悪い。」
龍の血は神聖なもので、ソレを飲んだものは
心に邪があれば体のうちより炎に包まれ、
清きものならば大いなる力を得るという話があった。
同じ生き物である以上、そんな話はでたらめだとも思っていたが、
あながち伝承っていうのも馬鹿にできないようだ。
・・・しかしエデンの奴・・・血のニオイも嗅ぎつけたか・・・
これも本能なのか？だとしたら・・・
こりゃ本格的に・・・やばいな・・・
ﾄﾞｫｫｫﾝ・・・
「！！」
考えにふけっていたヴァルスだったが、
遠くの爆音で我に帰った。
「ちっ・・・いくぞエデン！」
ヴァルスはこの子竜を、その炎によって地にかえしてやりたかった。
しかし、事態がヴァルスにその猶予すら与えなかった。
ヴァルスは心の中で子竜のために十字をきりつつ、城の中央、玉座の間へと再び走り出した・・・
・・・そう、なぜプロンテラ騎士団が無謀な攻撃を仕掛けてきたか。
なぜドラゴンの大群がグラストヘイムに襲来したか。
２つの事態は、繋がっていた。
グラスヘイムから独立するために、無謀にも戦争に踏み切ったプロンテラ軍。
しかし、奴らはあくまで布石、目くらましだったのだ。
本命はあのアサシン・・・あの袋の中身だったのだ。
あらかじめ子竜をしとめて置き、
プロンテラ騎士団にグラストヘイム全体の目が向いているうちに、忍び込み、
その死骸をグラストヘイム内に持ち込んだのだ。
竜の群れは、自分たちの仲間を殺した人間を恨み、復讐しにくる。
同族意識の強い、誇り高いドラゴンならば、当然の行為だ。
その竜たちの怒りを・・・
グラストヘイムに向けさせたのだ、やつらは！
「・・・プロンテラめぇぇぇええ！！！」
ヴァルスの怒りは、激しい爆音にかき消されたのだった・・・
グラストヘイムは・・・崩壊寸前だった・・・
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