「・・・！？バフォメットだと！？」
『バフォメット』。この言葉を聞いて、驚かない者は神くらいだろう。
バフォメットとは、ルーンミッドガッツ王国に存在するモンスターの中でも、最強であり、最悪であるモンスターだ。
「そうだ。我はバフォメット。・・・この女の体を借り手とはいえ、ようやくこの世に復活する事が出来たのだ・・・・。あの魔物らでは物足りん。人間よ。お前達も、殺してやろうか・・・？」
バフォメットがくくく、と微笑した。
「そんなハズがない・・・バフォメットは・・・等に死んだハズだ！」
ケアティルが叫んだ。
・・・・そう。
バフォメットは、死んだのだ。
数年前、プロンテラ騎士団が、プロンテラの北にある、迷いの森という樹海へと入り込んだ。
目的は勿論、バフォメットを殺す事。
何十、いや何百という数の騎士団が、樹海へと入り込んだのだ。
暗殺技術を徹底的に頭にぶち込まれ、戦闘においても、蝶の様に舞い、蜂の様に刺すアサシン。
大剣を振り回し、数多の敵をなぎ払う、攻撃隊長的存在の騎士。
魔法に長け、自然を見方につけ壮大な力を発揮するウィザード。
目利きは侮る事が出来ず、狙った獲物を確実に仕留めると言われるハンター。
補助魔法に長け、あらゆる難から、仲間や自分を守る事の出来る、プリースト。
・・・そのテクニシャン達が、騎士団の一員として樹海へと入り込んだ。
しかし、これだけの人数に関わらず、バフォメットはその大きな鎌で、触れる事すら許さなかった。
長い戦いの果て、ついにバフォメットは騎士団の手により、この世から消え去ったのだ。
・・・・。
そんなバフォメットが、生きていたのだ。
驚かない人が、いないハズがない。
「そう。確かに我はプロンテラ騎士団の人間共によって、死んだ。しかし我の魂は、消える事なく、このルーンミッドガッツ王国を彷徨っていた。そして見つけたのだ。この女を・・・・」
「フィリアさんを探していたっ！？」
「そうだ。人間に憑依する事など、容易い事だ。しかし、我のこの力に耐える事が出来ない人間は、我が憑依し、10分もたたぬ内に、我の力に耐え切れず死ぬ。そのため我は、この力に耐える事の出来る人間を探していたのだ」
「その人間が、フィリアというわけか・・・・」
「そうだ。この女は我でさえ、驚く程の力を持っている。非力な人間にも、関わらずに」
「なるほどな。あいつの言ってた事は本当だったのか」
「え？何が？」
キリエルが訊く。
「あいつ、この前、自分の事を第三十九代目神子だとか言ってたんだ」
「・・・・・・ナニソレ」
「この世界には、神が存在する。最高神オーディンを中心とし、様々な神が存在する。あんまり信じたくないんだがな。その神が、地上に降りる時は自らの力の半分以上を封印するか、人間に憑くか、どっちかをする必要があるらしい。神子とは、神が地上に降りるための人間、という事らしい」
「つまり、フィリアさんは神が地上に降りるための道具って事？」
「あいつは笑いながらそう言ってたな」
「・・・・・・・・何でもありだね」
キリエルが呟いた。
「とんでもなくすごい反面、とんでもなく迷惑だな」
ケアティル言い、剣を地面に突き刺した。
「さっさと終わらせたいんでな！マグナムブレイクッ！！」
地面にひびが入る。
ひびは、バフォメットの足元まで行き、そこで大きな爆発を起こした。
「やった！？」
「いや、まだだ。バフォメットがこれくらいで死ぬハズないだろ？」
「・・・・確かにね」
土煙の中から、バフォメットの姿が現れる。
「ケアティル。殺そうと思っちゃ駄目だよ。・・・・あれは、フィリアさんなんだから」
「・・・・そうだな。成仏させる方法はないものかな・・・・」
「・・・・くくく。やはり人間は脆く、非力だ。しかしその勇気だけは、褒めてやろう。さて――苦しむ事なく、一瞬で逝かせてやろうか――・・・・」
バフォメットは、呪文の詠唱を始めようとした。
「我願うは雷の力 我雷帝の力を・・・・・・・」
「させない！光の徴は訪れ 女神が降臨されん 女神の持つ十字架が開く導きの門に入る事を拒み者に 女神の十字架によって裁きを与えん ・・・マグヌスエクソシズム！」
「マグヌスエクソシズムだと・・・・っ？」
バフォメットは詠唱を止める。
バフォメットの足元には光り輝く十字架が出現する。
バフォメットは、後ろに大きくジャンプし、十字架から逃れる。
「・・・・そうか。プリーストか・・・・。注意せねばな」
「・・・・？」
「マグヌスエクソシズムは我のような魔物は嫌っていてな。・・・・お前からやるとしよう」
バフォメットは、地面を軽く蹴った。
それだけで、バフォメットは高速のスピードを出し、キリエルの目の前まで、一瞬にして来た。
キリエルは驚きながらも、咄嗟に右拳をバフォメットに出すが、その時は、すでにバフォメットの姿は無かった。
更に、それに気付いた頃には、バフォメットはキリエルの背後に回っていた。
バフォメットの右手の平から炎が現れる。
近距離でキリエルを、焼き殺そうとした。
そこにケアティルの剣が邪魔をする。
バフォメットはキリエルの背後から、バックステップで離れた。
ケアティルは、剣を地面に突き刺した。
その途端、バフォメットの足元が爆発を起こす。
しかし先程同様、バフォメットには無傷。
普通に戦っては、勝てる相手ではないのだ。
マグヌスエクソシズムを嫌うという事は、マグヌスエクソシズムが弱点。
だから、何とかバフォメットの動きを封じて、マグヌスエクソシズムをバフォメットに仕掛ける事が出来れば、勝つ事が出来る。
しかし、どうやって動きを封じればいいのだろうか・・・・。
ヒュン・・・！！
何かが、風を切った。
その風を切った何かは、バフォメットの頭に向って行く。
それを、バフォメットは手で掴んだ。普通なら、分かっていても回避、防御の出来ないスピードの筈なのに、余裕でそれを止めて見せた。
風を切る何かを放ったのは、ラバースであり、風を切る何かは、矢だった。
「死に底無いの弓士め。殺されたいか？」
バフォメットがくくく、と笑って訊く。
ラバースはそれを無視し、キリエルとケアティルを呼んだ。
「お前達・・・俺に策がある」
「策？」
「あぁ。・・・剣士、バフォメットに攻撃の隙を与えないように攻撃し続けてくれ」
「・・・・俺はお前の考えた策を信じよう。失敗したら許さないからな」
「絶対成功するんだよ」
「そうか・・・」
ケアティルはラバースの自信に、頼った。
ケアティルは、大きな声とともに、剣を振るい、バフォメットを攻撃する。
バフォメットは余裕の表情で、それを回避していく。
ギギギ。
ラバースは、矢を弓に当てる。
そして、放つ。
それが、ケアティルの攻撃をかわしているバフォメットの右腕に直撃した。
「何・・・・？」
バフォメットは一瞬の隙を見て、ケアティルに蹴りを入れた。
腹に蹴りを入れられたケアティルは数メートル飛ばされる。
「これは・・・」
「破魔矢だ。力が抜けていくだろう？それは名の通り、魔を破壊する矢だ」
バフォメットは、その矢を引っこ抜いた。
「確かに、力が抜けていった気がするな。だが、これしき、なんて事ない」
「そうか」
ラバースは微笑した。
ラバースは、９本の矢を取り出し、それを弓に当てる。
そして、弓を上に上げ、全ての矢を同時に放った。
その矢は空中で風に乗り、見事バフォメットの真上まで移動する。
そこから、９本の矢は一気に、勢いのあるスピードで落ちてきた。
「ふん、これしき・・・・」
グサ・・・・。
「何っ？」
バフォメットの左足には、矢が刺さっていた。
力が抜けてゆく。
刺さった矢は、破魔矢だ。バフォメットは、すぐに分かった。
そしてさらに、上空から９本の矢が襲った。
「ちぃっ」
バフォメットはなんとか回避するが、何本かの矢に掠った。
「どうだ？これしき、何だって？」
ラバースの作戦は見事なものだった。
９本の矢を上空に放てば、バフォメットはそれを全て回避するため、しっかりとその矢を見るだろう。
そこで、ラバースの行動が見えなくなってしまう。
そうなれば、隙だらけだ。
隙だらけのバフォメットの破魔矢を打ち込めば、一瞬何が起こったのかわからず、驚く。
人間であろうとモンスターであろうと、痛みを感じれば、痛みの走る部分を見てしまう。
そうする事で、さっきまで見ていた上空にある９本の矢の事を忘れてしまう。
矢が落ちてくるのを感じたバフォメットは、咄嗟に身体を動かし回避しようとする。
しかし、いくらバフォメットといえど、急な回避は難しいだろう。
そして、一本の破魔矢と、数本の矢が、バフォメットに傷をつけたのだ。
バフォメットは左足に刺さった破魔矢を抜き取った。
「どうやら、お前を先に消さねば我の勝ちは薄くなってしまうようだな」
バフォメットは、にぃ、と笑みを浮かべた。
地面を軽く蹴る。
それだけなのに、物凄いスピードだ。
右手の平には炎がある。
避ける事は、まず不可能だろう。
ラバース自信、死を覚悟しただろう。
ラバースは、目を閉じた。
・・・・・。
・・・・・。
いつまでたっても、痛みはやってこない。
ラバースは、ゆっくりと目を開けた。
ラバースの目の前には、一人の小さな少女が、立ちはだかっていた。
「リナム！！」
キリエルが言う。
そう、それはリナムだった。
リナムが、ラバースを庇ったのだ。
「ほぅ。これが・・・・」
「この人・・・いじめちゃ駄目・・・・！」
「ほぅ。小さな身体にも、それだけの勇気があるのか。その勇気は褒めてやろう。だが、お前も消してやろうか・・・・・」
バフォメットは、右手の平にある炎を、リナムに向けた。
「リナム！！」
ボッ。
炎が、消えた。
「何・・・？」
そして、身体が思う様に動かない。
ラバースは、リナムの後ろで、にや、と笑みを浮かべた。
「かかったな。・・・・アンクルスネア」
アンクルスネアは、相手の動きを止める、トラップだ。
しかし、これしきのトラップでは、バフォメットはすぐに破壊してしまうだろう。
「キリエル、今だ！」
ケアティルが言う。それに、キリエルは頷いた。
「光の徴は訪れ 女神が降臨されん 女神の持つ十字架が開く導きの門に入る事を拒み者に 女神の十字架によって裁きを与えん ・・・マグヌスエクソシズム！」
動けないバフォメットの足元に、十字架が現れた。
「まだ私は・・・・・！」
十字架は、眩しい光を、放った・・・・・。
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復活を遂げたバフォと、それに立ち向かう勇敢なる者たち！
果たしてMEは、バフォを葬ることができたのか！
バフォ様に取り憑かれた（？）フィリアさんを助けることができるのか！
次回を見逃すな！