本当はイルアと旅をしたかった。
他の誰をも敵にまわしても、逃げ出してでも、イルアはそれを望まなくても。
せめて１年早く予定をたてておけば良かった。
先代の王が倒れる前に、旅に出ておけばよかった。
イルアが王になって身動きがとれなくなる前に、二人で。
そうすれば、こんな変な奴らと一緒に旅なんてしなかったろうに。
「カイト、だいじょーぶ？」
天気は上々。
レベル上げだかアイテム収集だか知らないが、何故か現在、滅びた街、ウェンにいる。
人々の住まなくなった街は、思った通り魔物に占拠されていて、それでもそんなに強い魔物もいなかったので、ほんとうにただの腕試しのつもりで、軽くそれらをあしらっていた矢先。
「痛い？ 見る限り、いたそう」
辺りには血の臭いが充満している。近くに転がっている魔物の血と、自分の血と。
息をする度に傷が痛む。力が入らない。
「困ったなー。プロト遠いよ。聞こえるかな」
遠くにある、誰だか分からないくらい小さな人影に向かって、スィールは元気良く手を振った。
「プーロートー!! カイトが死ぬーーー!!」
ああ、近くで大声を出すな。うるさい。傷に響く。
うっすら開けていた瞳を閉じて、ゆっくりと深呼吸してみる。けれども、少しも楽にはならなかった。
「あ！ カイト寝るな！ 死んだら助けられないよっ」
「応急処置してあげなきゃ、だめだよ」
風邪と共に、あんなに遠くにいたはずのプロトの声が、凄く近くから届いた。
動くのも、目を開けるのもおっくうで、そろそろカイトは襲ってきた睡魔に負けようとしている。
「だって、プロトの魔法で一瞬で治せるのに」
「それは甘えだよ？ んー、今取ってきたＣＤ使っちゃおうかな」
プロトの手の中で、銀色の円盤が光に反射して七色に光る。
「え、もしかして、カイトすごくひどい？」
「やばめ………かな」
会話だけ聞くと、少しも慌てた様子のない２人の声音。
しかしその２人の足下に横たわる仲間の姿は、見る者全てを蒼白させる有様だった。
すさまじい血の海。
腹を貫通している、魔物の爪。
青白い顔。
血の気の引いた唇。
下がりきった体温。
「抜く？」
そんな仲間を目の前にして、スィールの声は、何故かすごく楽しそうだ。
指差すのは、カイトの腹に深々と刺さっている魔物の爪。
「待って、準備できたらね。オープン！」
プロトのその声に反応して、プロトの周りにまるで囲むように黒透明のガラスのような画面が現れた。
手に持ったＣＤを、その画面の一つにそっと置くと、画面はそれを取り込んで、静かに廻す。
「スキャン、ロード。………ん、いいかな」
プロトが手を当てている、それと別の画面には、沢山の光の線。目の前の画面には「０」と「１」が画面いっぱいに羅列している。見ただけで酔いそうな勢いで、それは流れていた。
その意味不明な画面を、何でもないように眺めているスィールが、何かに気付いて、その視線をプロトへと変えた。この「０」と「１」の流れの中に、何が見えたのだろう。
意味はある、らしい。その証拠に、プロトは頷いた。
「コール、リンク、リカバー………ラン。うん。いいよ。スィール」
「お任せっ！ カイト、いくよっ！」
聞こえているかどうか、もう、定かではないカイトに呼びかけて、スィールはカイトの腹にささった爪に手をかけた。
滑らないように、がっちり、しっかりつかむ。
「それっ！」
そしてそのまま、何のためらいも見せずに、一気にカイトの身体からそれを引き抜いた。
ビクン！ と大きく揺れたカイトの身体から、まだ出尽くし切れてない大量な血が一気に溢れ出る。
「スタート！」
プロトの声が熱くなった。
囲む画面から、暖かい光が漏れ、カイトを包んでゆく。
内臓が一緒に出ていってるんじゃないかと思うくらいの流血も止まり、傷口が急速に塞がれていくのが見えた。
「はやいはやーいっ。さすがだねっ！ 術とは大違い………っ」
目をキラキラさせてカイトの様子を見ていたスィールは、視線をプロトに変えると言葉を詰まらせて冷や汗を流した。
「えと………怒ってる？」
「うん。怒ってる」
声は非常に穏やかに。それがさらに怒りを表していることをスィールは知っていた。
「どうせまた、カイトがスィールをかばってこんなになっちゃったんでしょ?! スィールは大丈夫かもしれないけどっ！ カイト達にとっては生死に関わる問題になるんだからねっ！」
「………うん。かわいいね。カイト」
「………はぁ………まあ、今までにいなかったね」
怒られているというのに笑顔のスィールにため息をついてから、プロトの表情がほころんだ。カイトの方を見ると、もう光からは解放されている。治療は終わったようだ。
「カイト？」
傷はもう塞がっているのに、カイトはまだぐったりとその場に寝そべったままだった。スィールがカイトの顔をのぞき込む。顔が青い気がする。
「あっ、血だよ血っ」
「ち？」
「これだけ出てるもんっ！ 足りなくなってるよ」
「あー………って、プロト、大丈夫？」
「僕か、スィールの血を分けるんだったら………なんとか」
「………………」
「………………」
２人にしては珍しい沈黙。
意識はハッキリしていたカイトは、こいつらでも寝るとき以外でも静かになる時があるんだな、と漠然と考えていた。
身体を起こそうと、力を込めてみるが、びくともしない。自分の身体がまるで鉛のように重かった。
「………だるい………」
起きあがるのを諦めて、声を発してみると、すぐさまスィールがその声に反応してくれた。
「カイト、今、血が足りないんだって！ で、どっちのがいい？」
「………………は？」
相変わらず、声が弾んでいる。
血が足りないというのはわかる。魔物の攻撃を受けたときに覚悟はした。おかげで、臨死体験をしたような気もする。
でも、スィールの言う『どっちのがいい？』という問いは、もちろん輸血するならどっちのがいいか、という問いだろう。プロトの魔法で全てが治るわけではないのだろうか。
「いくら天下の魔法使い様と言っても、何もないところから血を作るのは難しいのだよ。だから、輸血」
カイトは押し黙った。プロトの血を輸血するというのは、自分にも魔法使いの血が入ってしまうということ。………避けたい。スィールの血を輸血するというのは、このオバカの血が自分の中に入ってしまうということ。………断固拒否だ。
「いらない。………寝てれば治るだろ」
「やっぱりプロトのかなあ？ 俺からよりやりやすくない？」
訊いておいて返事は無視。今に始まったことではないが、少しは人の話を聞きやがれ。………と、つっこみたくても力は出ない。身体は起こせない。反論するだけ無駄らしい。
「うーん。やっぱりそうかなあ。あーあ。一人じゃなかったらつくれるのに、もどかしいなあ」
魔法使い。このエレソイル大陸に数えるほどしかいない、貴重な存在である。
この大陸には、その『魔法』に似た、『術』というものもあるが、魔法より威力は劣り、レパートリーも少ない。術には属性があり、腕の立つ術士でも、同じ、または似た属性の術を最高３種しか扱えないが、魔法にはその特性がないため、属性も何もかもひっくり返して全てを扱うことができる。しかも、術では成せない、空を飛ぶ行為や、死人を生き返らせることなどができるという、人々の憧れそのものの存在だ。
「えっとー、カイトの血の質は―――」
先ほどの画面に向かい、プロトは何かをしている。廻っていたＣＤはいつの間にかなくなっていた。
「カイト」
「………………何」
まだ目を閉じたままのカイトに、スィールは歩み寄る。近くまで行き、ぺたんとカイトの横にしゃがんだ。カイトが見ていないのはわかっていながら、いつもより満面の笑みで、言う。
「ありがとう」
ウェンから一番近い街フォウまで、スィール達一行はプロトの魔法で空を飛び魔物を避け、一日もかからず到着した。
宿屋にはいると、そこにいた全ての人が、血まみれの３人の姿に驚愕の表情を浮かべ、「早くみんな風呂に入って服を洗っちまえ」と怒濤の如く女将に怒られ、風呂から上がるなり、医者による検診時間が待っていた。
「うああ。大丈夫だよぅー」
医者に気付いたスィールが逃げの体勢に入るが、プロトにまで押さえつけられ、なすすべなく診察を受ける様を、ざまあみろと思いながらカイトは眺めていた。
「怪我も病気もないようだね。血まみれで来たそうだが………術で治したのかい？」
「そうでーす」
即答で答えたのはプロト。極力、魔法使いだということは隠して過ごしたい。
医者が帰ってしばらくすると、宿の女将が部屋に来た。
「だめだね。まるで血が落ちないよ。新しい服を買った方が早いかもしれないよ」
「そうする？ あの服に思い入れある？」
２人を振り返るのはスィール。プロトは返事もしないうちからお金の確認をし始めた。カイトの返事がないのも、異論がないからだと見なしたらしいスィールは、すぐに女将の方に振り向きなおして、それまでこの服借りててもいいですか？ と、ちゃっかり訊ねている。
「いつまでも着てくれていいよ。血まみれにされるのは困るけどね。じゃあ、あの服は処分するよ」
「おねがいしまーす」
スィールとプロトの声がハモる。女将はにこにこと部屋をあとにした。
「今日はもう遅いから、ご飯食べて寝ちゃおう。疲れたでしょ？ カイトも、プロトも」
「お前は元気そうだな」
「カイトは疲れ度マックスっぽい」
「お前の所為だな」
「マジですかっ?!」
「はいはーい。行くよ二人とも」
いつまでも続きそうな漫才を止め、プロトは先陣きって食堂へ向かった。いい匂いが鼻先をかすめ、意に反して腹がぐぅと鳴る。自分で思ったより、腹が減っていたらしい。
そうして目的地の食堂に入るなり、異様な人の山を３人は見た。
「………なんなんだ？」
「あ、奥あいてる」
隅の席が空いているのを発見して、人混みをかき分けるように席に着く。
「なになに？ 何かのイベントかなっ」
祭り好きのスィールの瞳が輝いている。ややこしいことに首を突っ込むなよ。と祈るようにカイトは様子を伺った。
「ご注文承ります」
いつの間にか店員が席に来ていた。あわててメニューを見て注文をおわし、去りかけた店員にすかさず尋ねるのはやはりスィール。
「ズイブン人がいっぱいいるけど、なにかあるの？」
「え？ ああ、今この食堂に、占い師がいらっしゃるんですよ。最近有名な、良く当たると噂の、あのフィメルア嬢」
店員の声も熱を帯びている。
なるほどこの人だかり。自分も占ってもらおうとやってきた人たちで賑わっていたらしい。
「占いかぁ。いいなあー。俺もしてもらいたいなあ」
「何占ってもらうんだ？」
「何ってもちろん、ファル・ウィムのコトでしょ」
ファル・ウィム。エレソイル大陸に伝わる伝説の剣。
手にすれば、巨大な力と知識を手にいれることができるという言い伝えのある、剣。
この大陸の剣士は、………剣士ではなくともそれを欲しがり、それを捜す旅をしている『Ｆ・Ｗハント』と呼ばれる冒険者が、沢山いる。
スィール達も、それに属して旅をしているのである。
「あてになんのか？」
いかにも胡散臭そうな表情のカイト。
「あてになんなくてもいいの。やってもらうことに意義がある！」
「はいはい」
どんなにスィールが意気込んでも、この人だかりではまず占ってもらうことなどできないだろうとふんだカイトは、どうでもいい返事を返す。
「カイトは何か占ってもらいたいことないの？」
「ない。嫌いなんだ。そういうの」
「僕も占いはあんまりしてもらいたくないかなー」
本当に腕のいい占い師だと、自分が魔法使いだということがばれてしまう。それを黙っていてくれればいいのだが、ご丁寧に皆に公表するからたまったものではないのだ。
そしてカイトの思った通り、人だかりは絶えることなく、プロトとカイトを先に部屋に帰らせてまで待っていたスィールの番が来ることのないまま、閉店の時間になってしまった。
「ザンネン」
部屋に戻ったスィールの開口一番がそれだった。
「あはは。彼女も大変だね。ちょっと有名になるとすぐに人だかりができるんだから」
ベッドに座るプロトの隣に腰掛けて、スィールは少し首を傾げた。
「？ どしたの？」
「あのね。ちらっとだけ、見えたんだけど、そのフィメルアって人。会ったことあるような………気がしたんだけどね。やっぱり気のせいかなって」
「気のせいだな」
「はうっ！」
愛剣『デュルフ』の手入れをしながら、しかもそれから少しも視線を外さないままのカイトから突っ込まれ、不意をつかれるスィール。
「カイトと会う前の出来事かもしれないじゃん！ 決めつけちゃってもうっ」
「俺と会う前って言ったって、16年かそこらだろ。何ができるってんだ」
「結婚できる」
「おい」
スィールは大まじめらしい。
ああだめだ。こいつに常識は通用しない。
「そっかあ。カイトが仲間になってもう２年になるんだねー。早いなあ」
プロトが思い出に浸る。
当時、スィールは16歳、プロトは11歳の若いＦ・Ｗハント。
カイトは17歳で、同じ歳であるズィヴラ国の王、幼なじみでもあるズィヴラⅥ世直属の護衛だった。
「ズィヴラ、俺といっこしか違わないのに、一国の王だなんてすっごいよね」
「先代王の体調が優れなかったからな………」
カイトの表情が曇った。自分も旅に出たかっただろうに、自分だけ国から解き放って………そう思うと、心が重かった。
「でもズィヴラって、カイトより世渡り上手そうだから、ハゲる心配もないんじゃないかな？」
「お前それは、俺がはげるとでも言いたいのか？」
「いいいええええ。滅相もございません！」
ぶんぶんと首と手まで振って、慌てて否定するスィール。
あまりカイトを怒らせると、問答無用で斬り捨てられてしまう。
「そろそろ、スィールに合う剣、何か見つかればいいね」
「え？ いいよべつに。プロトもいるし、カイトもいるし」
「そんなこと言ってると、もうカイトにかばってもらえなくなるよ」
「今までもかばうつもりなかったんだけどな」
カイトは剣士で、スィールも、一応、剣士だ。
剣士の筈のスィールは、剣士には必須の剣を、持っていなければならないはずの剣を、持っていなかった。
好き好んで持っていないわけではなく、カイトが仲間になってからも何度も武器屋に足を運び、コレだと思った剣を買ってはみるものの、実戦に持ち込むといつもすぐに壊れてしまって使い物にならなくなるのだ。
もしかして、ただ扱い方が下手なだけなのでは………そう思って実戦を見ていたりしたが、剣の振り方や戦い方を見ていても、特に剣に負担がかかりすぎている所もなく、何故壊れるのか謎なくらい謎だった。
「そろそろ寝よう？ 灯り、もったいないし」
「そうだな。少し、眠くなってきたし」
先日の戦闘と、一日の飛行はやはり身体に応えたらしい。一人だけ元気なスィールも、さすがに２人に付き合って眠ることにした。うん。こういうときもチームワークは大切だ。なんてことを思いながら。
「………………」
部屋が真っ暗になって５分。
「………………………」
15分。二つのベッドからは安らかな寝息が聞こえてきている。
「………………………………」
30分。
「………………あうう。寝れないよぅ～」
むっくり。
真っ暗の中起きあがったスィールは、見えるはずもない部屋の中を見渡してみる。
扉の位置は、あそこかな。見定めて、そろりとベッドを抜け出す。
ぱたり。
静かに戸を閉めて廊下に出る。廊下には小さく、転々と灯りがともされていた。
突き当たりに、窓が備え付けてある。
「よしっ」
手を掛ける場所も、足を掛ける場所もある。
ひょいひょいっと、軽やかな動きで屋根へ躍り出た。
「ふにゃ～。きもちいーっ」
屋根から望む星空は、まるで自分が空を漂っているかのような錯覚を起こすほど、気持ちのいいものだった。
どこか座る場所を探して、屋根中を見渡してみる。
「………？」
と、屋根の先に、人影がみえた。
警戒も何もせず、歩み寄るスィール。
月明かりに照らされた人影は、髪の長い、女性のモノだった。
「こんばんは」
「こんばんは。いい月夜ですね」
相手はスィールの存在に気付いていたらしく、声を掛けられても驚くことはなかった。
「ねむれないんですか？」
「………星を見てると、落ち着くんです」
「あは。俺もです。でも、切なくもなるかも」
どちらが言うまでもなく、二人は腰掛けた。ふわりと甘い匂いがスィールの鼻先をくすぐる。
「もしかして、お風呂上がり？ 湯冷めしちゃうよ？」
「大丈夫。見た目より丈夫なの」
「だめだよぅ。えーっと、何にもないなあ。あ、これっ！」
ばばっと脱いでよこしたのは、今自分が着ている服。
「それじゃあ貴方が風邪ひいちゃうじゃない」
「はにゃ？」
彼女は笑いをこらえているようだ。スィールは本気で首を傾げ、くしゅん、とひとつくしゃみをする。
「はわわ。浅はかでした………」
着直す。彼女の髪が風に揺れた。
「実はね。アタシがここにいるのは、貴方がここに来ると思ったからなの」
「え？」
にっこり笑った彼女の顔が伺えた。見たことがある。しかも近い過去。
「フィメルア?!」
「当たりで～す」
食堂にいた、有名占い師フィメルア嬢。
こんな夜更けに、こんな場所で、しかも自分を待っていたという彼女。
「………俺のファン？」
「あははっ。面白いね、キミ」
「じゃあ、なんで？」
「う～ん。面白そうだったから、かな」
「俺が？」
「うん。とっても面白い色をしてるよ。キミ」
「色？」
首を捻りすぎて、ひっくり返りそうになってしまった。あわてて体勢を立て直す。
「良くわかんないやっ。ねえねえ、俺も占ってもらえる？」
「いいよ。でも今道具持ってないから、簡単なのがいいかな」
そういえばフィメルアはカードを使って占いをしていた。
何で占うの？ と問うと、星に決まってるじゃない。簡単に返された。
「えっとー、何にしようかな。俺に合う武器………より、やっぱりＦ・Ｗのコトかな」
「Ｆ・Ｗ？」
「………え？」
笑われた、気がした。
嘲るように。
「多いよね。Ｆ・Ｗのこと訊く人。キミで何人目かな？」
ああ、だから笑われたのか。
「いやあ。面目ないっす」
「めんどくさいから、Ｆ・Ｗの力が強すぎて占えませ～んって断ってるんだけど、キミには教えてあげようかな」
「ほんとっ？」
「お礼は何くれる？」
「あう………」
ぱたぱたと体中を探してみる。けれど寝る格好で飛び出てきたので、お金もなければ、服すらも宿の物だ。
「部屋に戻れば、お金持ってこれるよっ」
「お金じゃないのがいいなあ。おかげさまでお金に困らない生活してるの」
「ええっ？ んじゃあ、えっと、………俺？」
「本気？」
見つめ合う………というより睨み合う二人。
しばらくして、二人同時に吹き出した。
「いいよ。サービスしちゃうっ。ここだけの話だよ？ ＯＫ？」
「はにゃ！」
ぴしっと背を伸ばしてみるスィール。フィメルアも真面目な表情に切り替わった。
「Ｆ・Ｗのことに関しては本当に漠然としか占えないの。でもこれだけハッキリ確信して言える。全ては、ズィヴラ国で始まる―――って」
「………ズィヴラ国？」
「次の目的地はズィヴラ国だね」
フィメルアの瞳が輝いた。おや？ とスィールは訊ねてみる。
「もしかして、フィメルアもＦ・Ｗハント？」
「そうだよ。競争だね―――えっと」
「スィールだよ」
「スィール。あ、アタシ自己紹介してないね。アタシはフィメルアだよ。よろしく」
笑い合って、しばらく二人はそこで会話を楽しんだ。
部屋に戻って寝つく頃、時刻はもう午前３時をまわっていた。