「お帰りなさい、エミーナ」
拠点に戻った私を迎えるラスの声。
ラスは、叙勲を受けた騎士でよく一緒に狩りに行く仲間だ。
「今日も騎士団でレイド狩り？」
「まぁ…ね」
お茶を濁すように答える。
「でも、プリースト一人で騎士団ってきつくない？ あなたが強いのは分かってるけど…」
心配してくれているのだろう、ラスの言葉の一つ一つがとても優しく感じる。
「クク、そんなに魔物を殺すのが好きなら一度ノービスに戻ってアサシンの修行を受ければよいのにな。なぁ、エミーナ」
拠点の片隅で胡座をかいて座っていたアサシンのＢＪがそう言う。
「アサシンね… 私には向いてないかな。というか私にはプリーストしか道がないから…」
「以前一緒に騎士団に狩りに行ったときのことを覚えてるか、ラス。 あの時のエミーナの鬼気迫る形相、殺気。
俺は、アサシン向きだと思うがな」
「あの時は… あの時のエミーナは… 必死だった。何かに…」
「もうやめないか、二人とも。エミーナが困っている」
ちょうど拠点に戻ってきたウィザードのブランシールがたしなめる。
「ありがとう、ブランシール。そう、私は私。そして私にはプリーストしかないの」
そう言って自分の部屋の扉に手をかける。
「ごめん、エミーナ。機嫌悪くした？」
慌ててラスが声をかける。
「ううん、ただ疲れただけ。少し休むわ」
そう言って部屋に戻った私はチェインを壁に立てかけてからベッドに身を投げ出した。
〜二人のアコライト〜
「お姉ちゃん、クワガタいたよ！ 覚悟〜♪」
「ちょっ、ちょっと待ってよ〜 ブレスまだでしょ〜！」
木漏れ日の差すゲフェン北東の湖で二人のアコライトが修行に明け暮れていた。
姉エミーナはおっとりしていて大人しい支援プリースト志望のアコライト。
妹ルシーダは気が強く手が早い殴りプリースト志望のアコライト。
二人はプロンテラの大聖堂に奉仕するベルヌーイ司祭の双子の娘として生を受けた。
人助けをしたい、そのためにプリーストになるという姉。
人に害をなす魔を駆逐したい、そのためにプリーストになるという妹。
性格も、聖職者を志す目的もまるで正反対の二人ではあったが、
二人とも互いを信頼し助け合いプリーストへの道を歩む立派なアコライトだった。
先にプリーストに転職したのは妹のルシーダ。
デーモンベインやシグナムクルシスなど退魔系のスキルに秀でていた。
「でもでも、ポタルとかニューマとか無いと不便だよ…」
転職前にエミーナがそう助言した。
「私は殴りプリーストだから退魔系のスキルが欲しいの。それに支援スキルならお姉ちゃんがかけてくれるでしょ？」
「それは…そうだけど…」
「ね♪」
「う…うん」
「私がプリーストになったらお姉ちゃんも早くプリーストになれるようにお手伝いするから、ね」
そう押し切られる形でエミーナは納得させられることになった。
プリーストに転職した後もルシーダの成長はめざましく、足繁くエミーナをゲフェニアダンジョンに連れて行くようになり、
程なくしてエミーナもプリーストに転職することができた。
プリースト二人という少々風変わりなパーティではあったが、エミーナの転職後は行動範囲も広がり様々なダンジョンへ出向くようになった。
ルシーダが前衛と殲滅を努め、エミーナが後方から支援・ホーリーライトを放つ。
決して効率がよいというわけでもなかったが、二人のコンビネーションで次々と敵を倒していった。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。今日はグラストヘイムに行ってみようよ！」
その日は、そんなルシーダの一言で始まった。
寝起きのぼーっとした顔で朝食を取っていたエミーナにまくし立てる。
「分かったからパンをくわえたまましゃべらないの」
「ばっふぇ、おねえひゃんぼーっと、ケホケホ」
「ほら、分かったから落ち着きなさい」
「グラストヘイム行こうよー…」
涙目になるルシーダ。
「はいはい…分かったから…」
子供の頃から何度となくこの手で言いくるめられてきた、だけど悪い気はしない。
（私も、ルシーダのこと大好きだからね）
心の中でそうつぶやく。
「やった！ じゃあ、準備してくるね〜」
そう言い残すとルシーダは家を飛び出すとカプラ倉庫に向かって走っていった。
ゲフェンから歩くこと数時間。
廃屋と化した古城、グラストヘイムにたどり着いた。
「ふ〜ん、ここがグラストヘイムかぁ」
のんきにルシーダが言う。
一方のエミーナはかつて感じたことのない圧迫感に押しつぶされそうになっている。
魔が支配する古城のプレッシャーはとりわけ敏感なエミーナに強く押しかかっていた。
「ほら！ 行くよ、お姉ちゃん。退魔、退魔〜♪」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよー。ルシーダ」
いつものように先行するルシーダを止めることはできず、二人はそろってグラストヘイム騎士団の門をくぐることになった。
グラストヘイム騎士団に入った二人を待ちかまえていたのは、レイドリック、レイドリックアーチャー、ライドワードなどの
これまでに戦ったこともない相手ばかり。
それでも、ルシーダの握るトリプルハロウドチェインと二人のコンビネーションで駆逐しながら進んでいく。
「ふぇ〜…凄いね、ここ。一旦休憩〜」
と、ルシーダが崩れ落ちた岩に腰を落ち着ける。
「ちょっと傷見せて。ずいぶんとやられてるわよ」
ヒールの光がルシーダを包み込む。
戦いの傷を癒す暖かな光。
「ありがとう。やっぱりお姉ちゃんのヒールは最高だね」
閉じていく傷口をなでながら言う。
と同時にぽっ、とエミーナのほおが朱に染まる。
「も、もうっ。何言ってるのよ！」
「あはは、照れちゃって〜」
と、じゃれるルシーダの目に黒い影が映った。
「なんか…黒くておっきい魔物がいたよ」
「え…」
「ねね、やっつけようよ」
「ＳＰも回復したし、行こうか」
「よ〜し、がんばるぞ〜」
崩れ落ちた戸をくぐる。
そこに「それ」はいた。
漆黒の鎧に身を包み、漆黒の馬に跨る騎士。
その大きさはミノタウロスを大きく上回る。
エミーナは、後にその魔物の名が「深淵の騎士」だと知ることになる。
「お姉ちゃん！ 来るよ！！ 援護お願い！！」
その魔物に圧倒されていたエミーナは妹の声に意識を戻される。
（神よ、彼の者にその慈悲にて衛の壁を与えたまえ）
「キリエエルレイソン！」
ルシーダを包み込む光の壁。
立て続けに、イムポティシオマヌス、アスペルシオとルシーダに支援魔法をかけていく。
すっと上がるＶサイン。
いつものありがとうの印だ。
そう、いつも通りの狩りだった。
この時までは。
「ちょっ、ちょっと何よこいつ！」
深淵の騎士が召還するカーリッツバーグに当惑するルシーダ。
（こいつだけでも手間取ってるのに…！カリツが２体も！！）
エミーナもカーリッツバーグを引き離そうとするが執拗にルシーダに連撃を浴びせ続ける。
「お姉ちゃん、ヒールで攻撃して！ 私はこのでっかいのを相手するのに手一杯だから」
「わかった！」
（神よ、祈りを癒しの光に…）
「ヒール！」
カーリッツバーグの体が大きく揺らぐ。
「ヒール！」
ヒールを浴びせ続け、カーリッツバーグは崩れ落ち空気と一体化するように黒い霧と化す。
ふっ、とエミーナの体が揺らぐ。
（まずい…ＳＰが…）
「お姉ちゃん、大丈夫！？」
苦しげに肩で息をするエミーナの姿をとらえたルシーダが気遣う。
「ちょっと…まずいかも…」
「ここは退こう、あまりにも状況が不利だよ！」
「う…うん！」
ルシーダが深淵の騎士の攻撃の隙を縫って懐から蝶の羽を取り出す。
ルシーダが先に戻り、エミーナが後を追う。
支援プリーストは最後まで狩場に残り仲間の退却を手伝う、エミーナのいつものやり方だった。
「じゃあ、大聖堂で！ 気を付けてね」
「うん」
取り出した蝶の羽を使おうとしたルシーダ。
その瞬間、馬のいななきが聞こえた。
ルシーダの瞳に、大きく前足を蹴る深淵の騎士の騎馬の姿が映る。
ドスッ…
次に気づいたとき、彼女の胸には巨大な漆黒の刃が突き立てられていた。
「！？」
エミーナが突然の惨状に目を見開く。
「あ…あれ…」
力無く崩れ落ちるルシーダに慌てて駆け寄る。
苦しげに息をするその口から鮮血が一筋流れ落ちていく。
「ご…ごめん、お姉ちゃん… わ…たし、ドジ…しちゃったね…」
「喋らないの！ じっとしてなさい！！」
（神よ、祈りを癒しの光に！！）
わずかに残ったＳＰでヒールをかける。
暖かい光がルシーダの傷口に集約しそして…消えた。
いつものように光は傷口はを癒していく。
ただそれだけだった。
顔にまるで精気が戻らない。
「あ…あ…」
(これが…死…)
がくがくと全身が震える。
「お…ねえちゃん… 逃げて…」
苦しい息の下からルシーダがようやく言葉を紡ぎ出す。
「頑張りなさい！ 今、お父様の所へ連れて行ってあげるから！！」
精一杯の強気の言葉を投げかけるエミーナ。
(彼の地から彼の地へ…)
印を結びルシーダに向かい、詠唱を始める。
(我が神の言葉は等しく道を繋ぐものなり！)
苦しそうに息をするルシーダの下に魔法陣が現れ光が満ちていく。
「ワープポータル！！」
光が弾けプロンテラへと続く門が現れ二人を包み込む。
溢れる光に包まれた中で、彼女は声を聞いた。
(人間よ、そなたもまた我に抗うか）
それは深淵の騎士が発したもの。
やがて光の門が閉じ再びグラストヘイム騎士団に静寂が戻った。
それを見届けた深淵の騎士は、初めて踵を返し闇の中に消えていった。
翌日。
ルシーダは溢れるばかりの花に囲まれて眠っていた。
彼女は、葬花に満たされた棺の中にいる。
プロンテラの大聖堂に戻ったルシーダは姉の手によって父のもとへ送られた。
しかし、高位の聖職者である父のヒールによっても、蘇生の魔法リザレクションによっても再び目を覚ますことはなく静かに息を引き取った。
司祭の娘の死とあって、プロンテラ大聖堂でその葬儀は盛大に執り行われた。
エミーナは棺に歩み寄ると、冷たくなった妹の傍らにそっとロザリオを手向けた。
そして消え入るような声で妹に語りかける。
「ごめんね… 守ってあげられなくて… ごめんね…」
つぶやくように語りかけた後、彼女は葬列の喧噪の中に消えていった。
その手には一本のチェインが握られていた。
(トントン…)
控えめなノックの音に私は目を覚ます。
夢…昔の夢を見た。
まだ少々ぼーっとする頭を目覚めさせようと先ほどのノックに返事を返す。
カチャリ、と静かにドアが開いて遠慮がちにラスが顔をのぞかせた。
「ごめん、寝てた？」
「ううん、今起きようと思ったところだから」
そう言って身を起こす。
「よかった。ね、グラストヘイムにみんなで行こうって話してたんだけど一緒に来てくれない？」
「え… でも私、殴りだよ？」
「何言ってるの、高INTのくせに」
「…いいの？ 私で？」
「もちろん！ プリさんいるといないとじゃ全然違うし！」
「…わかった、行くよ」
「やった！ じゃあ表で待ってるからね！！」
来たときの静かさとはうってかわってドタバタと部屋を出て行くラス。
彼女の子供っぽい喜びように思わず笑みが漏れる。
(あれで騎士なんだからね…)
そう思いながら私は立てかけておいたチェインに手をかけた。
表で待つ仲間たちに一言断りを入れてカプラ倉庫に向かう。
「あら、今日も騎士団ですか？」
カプラ職員のビニットさんに声をかけられた。
いつものように預けておいた聖水やスピードアップポーションを取り出していたのでそう思われたのだろう。
「ううん、今日は仲間とグラストヘイム。騎士団かどうかはまだ分からないわ」
「そうですか、お気を付けて行ってらして下さいね」
「うん、ありがと」
そんなやりとりをして私は仲間の元へ戻った。
集合場所に戻った私を仲間が出迎えてくれる。
いつものラス、ＢＪ、ブランシールに、えっと、知らないハンターさんだ。
「ふらついてたハンターさんをナンパしちゃった☆」
と、おちゃらけて言うラス。
なんだか怪しい。
ファッションサングラスに…口元に葉っぱ？
葉っぱと言うよりは…インゲンに見えなくもない。
「銀矢つかってサクサク狩りますぜ」
言動も変だ。
(…まぁ、ファッションなんて人それぞれだし)
そう自己完結した。
「じゃあ、いくよー」
ラスの声で私はゲフェン北西にメモしたポータルの扉を開いた。
狩場はラスの一声でグラストヘイム城に決まった。
「目標！ 玉座占拠！」
…特にこれといった目的があって城になったわけでは無いらしい。
一通り支援魔法をかけて一息ついていた私の横で、
「禿は嫌いだー！」
インゲンさんがそう叫びながら彷徨う者に向かって矢を射ていた。
(あれが好きな人なんているわけないじゃん)
そう思いながらインゲンさんの放つ矢の行方を見ていたがなかなか当たる気配がない。
(サクサク狩るんじゃなかったの…？)
と、心の中で突っ込む。
「うぅぅ〜、だから嫌いなんだ〜」
矢を取り出しつつ、インゲンさんが唸る。
ふぅ、とため息をつきながら彷徨う者に呪いブレスをかける。
動きが鈍くなった禿こと彷徨う者にインゲンさんの矢が立て続けに突き刺さる。
直接剣を交えていたラスがＶサイン。
「ぐっじょぶ〜」
ライドワードの相手をしていたＢＪとブランシールが攻撃に加わる。
ラスのクレイモアとＢＪのカタール、そしてブランシールのアーススパイクの前に彷徨う者は膝をつき倒れた。
インゲンさんの矢もあったけど、まぁそれはそれで。
崩れ落ちかけた廊下を進み玉座の間に足を踏み入れた私たちを待ちかまえていたのは
溢れるばかりの魔物で溢れたモンスターハウスだった。
ラスを先頭に突っ込む。
ラスが敵の注意を引きつけ、後ろからブランシールがストームガスト放ちインゲンさんが矢を射る。
ＢＪが後衛二人の護衛に当たる。
私は敵の集中攻撃を受けているラスに支援。
綺麗なコンビネーションで敵で溢れていた玉座の間の見通しが良くなってきたその時、私は…
（いた…）
玉座の近くに静かに佇む巨大な黒い騎士。
深淵の騎士だ。
自然と足がそちらに向かう。
チェインを握る手に力を込める。
そして、ついに深淵の騎士と対峙する。
視界に私の姿を認めた深淵の騎士も私に向き直る。
（人間よ、そなたもまた我に抗うか）
いつか聞いた言葉。
「…そうよ！ 妹の仇！！」
バックラーを構えチェインを振りかぶる。
ギィン！
私のチェインと深淵騎士の剣が激しく火花を散らす。
キリエの壁を突き抜け、漆黒の刃が私の体をかすめていく。
渾身の力を込めたチェインは少しずつ防御をかいくぐりダメージを与える。
と、深淵の騎士の口からぶつぶつと詠唱の声が聞こえる。
（カリツか…）
瞬時に状況を察知しこちらも詠唱を始める。
（神よ、その大いなる慈悲にて此処に聖なる結界を現したまえ！）
「サンクチュアリ！」
広がる結界、そこに一歩足を踏み入れる。
やがて呼び出された２体のカリツが私を追ってサンクチュアリに足を踏み入れようとする。
聖なる力に阻まれてそれらは踏み込むことはおろか、何度もダメージを受けてやがて崩れ落ちた。
（いける！）
そう確信して、再び深淵の騎士と対峙する。
チェインを構え一撃を加えようとしたその時。
いつか聞いた馬のいななきが聞こえた。
大きく前足を蹴る騎馬。
振り下ろされる漆黒の刃。
………
……
…
思い出したくもないあの技だ。
あの時の剣の軌跡をイメージする。
剣を見据えその紙一重でかわす。
そのまま懐に飛び込み渾身の一撃を浴びせる。
…つもりだった。
ガキィィン！
深淵の騎士の剣は玉座の間の大理石を砕いたと同時にそのまま私の胴めがけて薙ぐように向かってきた。
床との反動を利用して軌跡を変えたその刃は、反動の力を加え振り下ろしたとき以上の速度で迫る。
攻撃を浴びせるために地を蹴っていたため、空中ではどうやっても姿勢を変えかわすことはできない。
（ルシーダ… ごめん… やっぱり私には無理だった…）
迫る死を前に妹に言葉をつづる。
バックラーを砕き、死を司る漆黒の刃が体に触れようとしたその時、深淵の騎士とその刃は壁際まで吹き飛ばされていた。
姿勢を変えることなくそのまま地面にたたきつけられた私は状況を把握しようと辺りを見回す。
（チャ、チャージアロー…？）
床に叩きつけられた衝撃で眩む目にインゲンさんの姿が映る。
と、私の横を駆け抜けていくラスの姿。
ＢＪ、ブランシールも後に続く。
その様子をただ呆然と見ていた私にラスが声をかけてくる。
「エミーナ！ しっかりして、まだ深淵倒してないわよ！！」
いつになく力強いラスの声にハッとして起きあがる。
深淵と剣を交えるラスとＢＪにアスペルシオとマヌスをかける。
ラスのバッシュ連打、ＢＪのクリティカル、ブランシールのユピテルサンダー、インゲンさんのダブルストレイフィング、
４人の猛攻で深淵の騎士の体が大きく傾いた。
「ストップ！！」
ラスが突然大きな声を上げて攻撃を静止する。
ＢＪに、
「深淵押さえておいてね」
とだけ伝え、つかつかと私の所へ歩いてきた。
「とどめ、刺したいんでしょ？」
それはとても優しい声。
（あぁ…この子って…）
目の前が涙で霞む。
「ううん、いいの。もう…いいの」
それが限界。
溢れる感情を抑えきれなくなり私はその場に泣き崩れた。
「そう…わかった」
ぽんっ、と私の肩を叩いて深淵の騎士のいる場所に戻っていった。
そしてクレイモアを天高く掲げると深淵の騎士の懐に深々と突き立てた。
深淵の騎士は黒い霧のように霧散し、その巨大な体を覆っていた鎧と馬具のみがそこに残された。
「終わったわね…」
ラスがぽつりとつぶやく。
落ち着きを取り戻した私はその場に拠点に通じるポタルを開いた。
こうして狩りは終わりを告げた。
拠点の宿に戻った私たちはとりあえず精算をすませインゲンさんと別れた。
そして事の顛末をみんなに説明する。
「そっか、妹さんの敵討ちのためにね…」
ラスが神妙な面持ちになる。
「でも、心の中ではあの深淵の騎士と戦うことに怯えていたのかもしれない」
あの後まったく深淵の騎士が様子を見せなくなっていた騎士団にばかり固執して他の場所を探すことをしなかったことも
その怯えからだったのかもしれない。
今はそう思う。
「死を恐れたか、これだからプリーストは甘いのだ」
ＢＪが横から口を挟む。
「ううん、違うの。負けるかもしれないということより、倒した後に私が生きる目的を無くしてしまいそうな気がして…」
「多分、妹さんとの繋がりが消えるのが怖かった…ということね」
「うん…そう」
今だから言える素直な気持ち。
「それは違うだろう。一つの目的を果たせばまた次の目的を探せばよいだけだ。
それに、君の妹君との繋がりはそんなに希薄なものなのか」
ブランシールが私に問いかける。
「もちろんそんなことはないわ。ただ、これまでそのことに気づけなかっただけ。今回のことでやっと分かったの」
「少なくとも妹君は、君が自分のことに縛られることを望んではいなかったはずだ。君は君の生き方を全うすればいい」
「うん、そうよね。みんなありがとう。本当に感謝してる」
そう言って私はチェインを持って立ち上がる。
「エミーナ、どこへ行くの？」
心配そうな面持ちでラスが尋ねる。
「心配しないで、ちょっとプロンテラに行ってくるだけだから」
「そっか、また戻ってくるよね？ 一緒に狩りに行ってくれるよね？」
「もちろん、今度はグラストヘイム以外の所に連れて行って欲しいな」
ぱっとラスの顔に明るさが戻る。
「早く戻ってきてね！」
「うん」
みんなに見送られながら私は宿を後にした。
プロンテラの北東の隅に佇む大聖堂。
その裏には魔物と戦い命を落とした者達の墓地がある。
その一角にルシーダの眠る墓はあった。
初めて訪れる妹の墓。
あの葬儀以来の妹との対面だった。
「お姉ちゃん帰ってきたよ…」
眠る妹に語りかける。
「私…目の前の全ての人を守ることのできる立派なプリーストになるからね」
ただそれだけを伝えて静かに妹に別れを告げる。
（うん、それでこそお姉ちゃんだよ！）
そんなルシーダの声が聞こえたような気がした。
エミーナが立ち去った後、墓前にはあのチェインが供えられ真っ白な一輪のハマヒルガオの花が風に揺れていた。
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<<あとがき>>
こんばんうぁ〜。
ほろです。
…
（ドガッ）
ゲホゲホ、ごめんなさい、みどりです。
第４回にして初めての投稿です。
えー、実はこのコンテスト始まってからずーっとSS書いていたですよ。
でも、納得がいくのができなかったり、アイデアばかり先行して途中で尻窄みになってしまったものなどなど。
(´-`).。ｏO(Ｒ１８までは行かなくてもちょっとエッチになってしまったものなど…)
今回は開催時期がちょうどお盆を挟んでくれたおかげで何とか書き終えました。
お盆期間は会社に人が少なくて目を盗んで書きやs(ry。
（ドガッ）
ゲホゲホ、まぁそんなこんなで今回は無事書き終えたので投稿することにしました。
ストーリー的には、そこそこ満足してます。
自分の好きなアコ物で。
ただ、構成と表現力のなさがいかんともし難い。
ストーリーが浮かんだときに勢いで書くタイプだし、後から構成とか表現を直そうとしてもそんなスキル無い物はないので…
閑話休題
主人公でもありタイトルにもなった「二人のアコライト」とは実は私の支援＆殴りの二人のプリーストのイメージだったりします。
自分自身、支援が好きだったり殴りが楽しかったりとその時その時でどちらを使うか迷ったりするのですが
その二人のプリを別キャラとして動かしてみたらどうなるだろう、と思ったのがこの作品のきっかけでした。
これまで（途中まで）書きためたSSの中でも、支援と殴りの間で葛藤するプリがいたりします。
私自身、スキルロストとかスキルロストとかで支援から殴りに作り直したり、殴りに飽きて支援を作ったりとあったので、
その葛藤をキャラクターに置き換えてみたらどんな話になるんだろうと思ってチャレンジした結果がこの作品です。
貧しい文章ですが、少しでもお楽しみいただければと思います。
P.S
あおあん、某ハンターの台詞とかたくさん引用（パクリ？）させてもらいましたが、
あの台詞のおかげで創作意欲というかテンションアップができましたので怒らないでね☆ミ
以上、みどりがお送りしました。
おまけ
借り物