こんな世界だ、俺みたいなのがいたって、これっぽっちもおかしくない。
旅人。具体的にはトレジャーハンター。
１０００年前の聖戦時代、あるいはそれよりも前からある遺跡や洞窟がこの世界にはある。
１０００年前の聖戦時代に、人間、魔物、そして神々が使った武器や、守られていた金銀財宝。それが遺跡などに埋もれていたり、魔物に守られていたりする。
こんな世界だ。今の技術を持ってすれば、魔物を撃退する兵器だって作れるし、強力な武器防具、更には昔から人が持っていた潜在能力、魔力などある。上手く武術や魔力の使い方を極めれば、広いこの世界を旅するなんざわけない。
つい最近、ユミルの爪角とかいう、世界の平和を支えている物があるっていう噂が、俺の耳に入ってきた。どうやら、これを求めて旅している人もいるらしい。
な？ こんな世界だ。俺みたいなのがいたって、これっぽっちもおかしくない。
俺はトレジャーハンターで、今はこのミッドガルド大陸の、ルーンミッドガッツ王国を旅している。何でもこの王国には、１０００年前に起きた、あの人間と巨人族との戦争で廃墟になったという、グラストヘイム古城があったりと、金になるものが多くあるらしい。
さて、俺以外にも、トレジャーハンターは星の数･･･、いや、それ以上いるかもしれない。だから時々、同じターゲット(狙ってる物)を賭けて、戦ったりと、ビックリ仰天な事が多々あるが、人ってのは、愚かで儚いからな、己の利益のためなら命がけで何かを得ようとするんだ。勿論、俺もな。
さぁて、準備完了だ。
Do you come to Vast World，too？
あんたもくるかい？
―Do you come to Vast World，too？―
やっぱし王都っつーのは人口密度が高ぇ。暑苦しくてかなわん。
俺は今、ルーンミッドガッツ王国王都プロンテラに来ている。やっぱまず、人の集まる所で情報収集しないと、初めて来る国だからどんな遺跡や洞窟や街があるのかがわからない。まぁ、少しくらいなら、ここの事を知っているが・・・。
俺はこの国のお隣にある、シュバルツバルド共和国から来ている。すげぇぜ、シュバルツバルド共和国。なんたって、王都がジュノーっつぅんだが、そこが空中都市でな、この国の人や、ほかの国の人がジュノーに来ると、大抵の奴が『ラ○ュタ』って驚くんだぜ。・・・おっと、すまんジ○リの方々。
この国からジュノーに行くには、アルデバランを通過して、神社の長い階段よりも長い長い階段を上って行くんだ。ジュノーに行くのは辛いが、帰りは楽だ。
さて・・・・。
やっぱ情報収集する場所といったら・・・。
うん、ゲームとかでお決まり(？)の酒場だな。
しっかし本当に暑苦しい！ 年中夏だなここは。クリスマスもその辺の木に鈴とかつけて装飾しても、絶対暑くて気分出ないと思う。
しっかしあれだな・・・。商人多いな・・・。
酒場は何か空いていた。
まぁ、こういう人口密度の高い街には、荒くれ者しかいないんでこういった所には誰も近寄らないんだろうな。
見渡してみれば、筋肉マンがいたり、禿頭がいたり、目つきが悪い奴ばっかりで、ほんっとにタチ悪そうな奴しかいない。
この中で心良い奴がいたらある意味でヤだな。目つき悪いのに心良い奴とかいたら嫌じゃん。
俺はカウンターの方に足を運んだ。カウンターの方は席が空いていて、優しそうなマスターもいるんでマスターのいる前の席に座った。
「いらっしゃい」
俺は酒を注文する。マスターが早速、酒を取り出して、グラスを俺の目の前に置く。そして酒を入れていく。俺はグラスを手に取り、一口、酒を流し込む。
「ところで、マスター・・・だよな？」
「えぇそうですよ。あっち、私の息子」
「へぇ」
興味無さ気に俺はへぇの一言で流す。というか全く興味無い。男だし。
「俺、トレジャーハントしてて、シュバルツバルドから来たんだが、ここら辺で何かお宝の噂とか聞いた事ないかな？」
「ふむ、トレジャーハンターか。最近は、そんな事を名乗る若僧が増えたのぅ。私だって昔は・・・・・・」
「あーはいストップね、マスター。俺はマスターの昔話を聞きに来たんじゃなくて、遺跡とかの情報が知りたくて来たんだ」
「そうか・・・」
マスターＧＡＫＵＲＩ。
今にもショックで死んじまいそうな落ち込みようだ。
「う〜む。ここら辺には、イズルードから船で行けるイズルード洞窟くらしかないのぅ。遠くまで行けばもうちっとは利益が上がりそうな遺跡があるだろうが・・・」
「そうか・・・。マスターはそれくらいしか知らないんだな？」
「まぁのぅ。というとり、ド忘れしてしまったかもしれない」
「ド忘れねぇ・・・。息子にもう全部仕事任せちゃったら？」
「何を言う。私はまだまだこの仕事を続けるぞ」
「まぁ、頑張ってくれよ。他に何か情報持ってる奴とか知ってるか？」
「そうだのう。向こうで飲んでる奴らに訊いてみればどうだい」
俺はちらりと後ろに目を向けた。大きな笑い声を上げて、酒を飲んでいる筋肉マン、禿頭とかがいる。流石にあんな連中に訊きたく無いな。絡まれると面倒だし、絶対暴力振るってきそうだからなぁ・・・。
「そんなのまっぴらゴメンだね。何させるかわかったもんじゃない」
剣もぶらさげてるしな。すぐ抜いて斬りかかりそうだ。
「そういえば、兄ちゃんトレジャーハンターなんだろう？」
「あぁ、そうだが」
「剣の一つ二つ、持ってないのかい」
「いんや、俺は短剣を使用している」
俺の腰には、短剣の入った小さな鞘が二つぶら下っている。俺がトレジャーハントを始めてから、ずっと使っていた、愛用の武器だ。
この服装で隠れてかたから、武器無しに見られたんだな。
「この近くに街ってないかな？」
「それなら、イズルードがある」
イズルード。確かそこは、このプロンテラの衛星都市とか言われる街で、アリーナがあったり、高速船が出ていたり・・・。
静かな街らしく、人口密度もここより多くない。ここより人口密度が多い街はそうないだろう。
「イズルードか・・・」
「場所は知っとるかね？」
「あぁ、俺が向こう(シュバルツバルド)で聞いた話が間違ってなければ」
「なら心配無いのぅ」
俺は酒を口に流し込む。グラスをカウンターに置くと、影が現れた。って事は、後ろに誰かいる。
俺はちらりと、目を後ろに向けた。そして目に映ったのは、筋肉マン・・・・・。
「あんた、トレジャーハンター何だってな」
盗み聞きしていたかこの筋肉。半袖の薄着で、前をはだけている。まぁ筋肉マンには、この街はさぞ暑いだろうからな。
「それが？」
「良い情報を持ってるんだ。ここは一つ、組まないか？」
良い情報。胡散臭いけど、本当かもしれないし、でもだからといってこんな筋肉と手を組むなんてまっぴらゴメンだし・・・・。
うむむ・・・・・・・。
・・・・・。
・・・・・よし。
「悪いけど断る」
「そんな事言うなよ兄弟〜」
いつから兄弟になったんだか。
「じゃあ、あんた何年？」
「何年？」
「干支だよ干支。ねーうしとら・・・・って」
「あぁそれか。猿だ」
「猿か。そりゃ残念だ」
「は？」
「俺は犬だ」
「それが何だってんだよ」
「犬猿の仲、って言うだろ」
「はぁ？ お前ぇバカか？ んなもん関係無ぇだろ」
「やれやれ、あんたは脳味噌まで筋肉で出来ているただの筋肉隆々野郎ですか」
「んだとぉ？」
「言葉遣いには十分注意せんとな」
後ろからグラスを拭きながら物静か〜に言うマスター。
えぇそうですね。
「おっとごめんよ。俺、昔っから言葉遣い悪いっていつも親に叱られてたんだよ。こんな奴だ、許してくれ」
「許してくれって言われて許す程、俺は優しくねぇんだよ・・・！」
誰も優しい奴だとも思わないだろうしね。その体つきじゃ。
「俺もトレジャーハンターでなぁ。聞く所、手前シュバルツバルドから来たんだってな」
嫌な予感・・・。
「こうなったら力ずくだ！ どついてシュバルツバルドにある遺跡の情報吐いてもらうぜ！！」
男は脱いだ。服を脱ぎました。素晴らしい程の脱ぎっぷり。
あー、筋肉隆々。ビューティフル・マッチョだな。
・・・・・えー、こほん(軽く咳き込み)。
まるでモンクだな。ていうかモンクだろうな。
モンクっつーのは、修行僧の事だ。もうほんと、筋肉隆々野郎で気持ち悪い。女のモンクもこんな感じなのかな・・・・。嫌だな〜・・・・。
「見よ、俺の素晴らしき肉体を！！」
やる気だ・・・・。仕方ないなぁ・・・・。
俺のコレを使えば大怪我するしな・・・・。正々堂々、素手でやるしかないか・・・。
「何か壊れたら修理費ちゃんと払ってくださいよ〜」
マスター！ のんきな事言わないっ。
「う〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」
拳を大きく筋肉男は振り上げた。俺は椅子から立ち上がり、マスターを避難させる。
「らぁっっ！！！！！」
拳が俺目掛けて振り落ちる。
スッ
・・・・っとな。
間一髪・・・、否、超が付く程余裕で俺は筋肉男の拳をかわした。
あ、早速カウンター破損。
「何ぃ・・・何処行きやがった・・・・」
あー、あんま大した事無いな。
「俺ならここにいるぞ」
そう、この筋肉男の後ろに、俺はいる。
筋肉男が振り返る。だがもう遅い。俺はしゃがんで足払いをする。筋肉男は見事にすっ転ぶ。筋肉は飾りかと思ってしまうほど、簡単に転んだ。筋肉男はすぐ立ち上がり、両手で俺を掴もうとする。これも余裕。俺は両手で筋肉男の両手を受け止め、仰向けに寝転がった。そして右足を筋肉男の腹に当てて、
「皆さん、筋肉の塊が飛びます、ご注意くださ〜い」
反対側へふっ飛ばす！
筋肉男は壁に当たり、しかも壊した。壁、破損。多少被害者が出た様だが、大した事ないだろう。
これぞ柔よく剛を制す、ってやつか？
「あ〜あ・・・・」
「あ〜あ・・・・」
親子揃って泣き顔しないでください、マスター。そしてその息子。
あの筋肉男に修理費払わせるか・・・。というか、壊したのあいつだし、普通だよな？
俺は壁にぶち当たって目をクルクル回している筋肉男に近寄り、笑みを浮かべる。
「さーて」
筋肉男の目は正常になり、俺を見るなり身震いする。
そんなに俺が怖いのだろうか・・・・。俺はこいつの筋肉の方が怖いんだが。
「あんた、何か情報持ってるのかな？」
「持ってたとしても、教えねぇよ！」
「ふ〜ん」
俺は笑みを浮かべる。自分じゃわからないが、不気味かもしれない。
「ひぃっ！ わ、わかったっ。教える、教える！」
「それでよし」
「この国で、一番金銀財宝、トレジャーハンターが欲する様な物だったら、グラストヘイムにあるんじゃねぇのか・・・？」
「グラストヘイム？」
「あ、あぁ。聖戦時代で廃墟になった古城で、並じゃない魔物共がうようよしてる場所だ！」
「で、ほんとにそこは金銀財宝だらけなのか？」
「本当かどうかは知らねぇ！ 俺だって行った事無ぇんだ！」
「ふ〜ん。・・・・サンキューな」
俺はカウンターに足を運ばせた。
マスターの目の前に、勘定を置く。
「ごめんなマスター。修理費はあいつから取ってくれ」
「ん・・・、釣りがあるぞ」
「あぁ、釣りか。いらねぇよ、そんなの。少ないが修理費の足しにしてくれ」
「・・・若僧」
あれ、さっき『兄ちゃん』って呼んでたのに・・・。
俺はドアの前で立ち止まり、振り返った。
「何、マスター」
「あんた、面倒事はゴメンだ、と言っていたのぅ」
「・・・それが？」
「私が見る限り、どうもそうは思えんのだが・・・。むしろ、面倒事に突っ込みたい奴に私は見える」
「・・・・さぁ、どうだろうな。俺もよくわからない。だけど、もしかしたらそうかもな」
「ふ・・・、やはり、まだ若僧じゃの。・・・名前を、教えてくれないだろうか・・・」
「・・・・フローティル＝エバンズだ」
「フローティル＝エバンズか。久しぶりに面白そうな若僧に会ったからのぅ、覚えておこう」
「そりゃどうも」
俺はさっきまで五月蝿かった酒場を出て、再び、暑苦しい人ゴミを歩いた。
さて、ターゲットは掴んだ。
ターゲットは、グラストヘイム。
・・・・。
・・・・。
って、グラストヘイムって何処だ？