爽やかな風が丘を吹き抜け、少女の頬をなでる。
眼下には、彼女の住む村があり、行き交う人々が見える。

「気持ちいい〜。」

少女は伸びをすると、草の上にゴロンと仰向けに寝そべった。
空は透き通るように蒼く、羊のようなモコモコとした雲が浮かんでいた。
目を閉じれば、草の匂いや、風の囁き、小鳥の囀りが聞こえる。

少女はこの場所が好きだった。暇を見つけては良く来ていた。
蒼い空、流れる雲、ただそれを見ているだけで良かった。
世の中の嫌なことを忘れさせてくれる。

このところ世界は不穏な空気に包まれていた。
各地で魔物や魔族の活動が活発化しているというのだ。
村の大人たちは、どこどこの村が襲われたとか、この村も危ないかもしれないとか、
そういう話しを毎日のようにしていた。

ぼーっと空を眺めていると、遠くから呼ぶ声がしていた。

「おーい。」

少女は体を起こし、声の方を向く。
そこには幼馴染の少年の姿があった。

「やっぱり、ここにいた。」

彼は少女の傍まで来ると、隣でゴロンと仰向けになった。

「どうしたの？」

少女が不思議そうな顔で尋ねる。

「ん？あー、最近、君が元気なさそうだったし。大丈夫かなぁって思ってさ。」

彼女はクスっと笑い、

「大丈夫よ。私は、そんなにやわじゃないわ。」

と気丈に答えた。

「そっか。」

少年は立ち上がり、大きく伸びをした。

「じゃ、戻るよ。」

戻ろうとする少年を呼び止めるかのように少女が口を開く。

「でも・・・。」

「ん？」

「でも、本当は、不安で不安でしようがないの・・・。
　夢を見るの。村が魔物に襲われる夢。村が炎に包まれ、空が紅く染まっている。
　叫んでも声がでない。なにも聞こえない。」

「・・・。僕が守るよ。」

「え？」

「僕が君を守る。だから・・・。」

「・・・ありがとう。心配かけちゃったね。」

少女は立ち上がり、スカートに付いている草を払う。

「さぁ、戻りましょう。」

彼女は、ニッコリ微笑んだ。
少年は何か言いたげだったが、彼女の笑顔を見て、何も言えなくなってしまった。

・・・・・・。

村には最近になって数箇所見張りやぐらが設けられ、昼夜問わず村の男たちが見張りをしていた。

「今夜は満月か・・・。」

見張りをしていた男が呟いた。
もう一人の男もやぐらから身を乗り出し空を見上げた。
空は雲一つなく、円い月だけが、煌煌と夜空を照らしていた。
男たちはお互い口にはしなかったが、何事もなく夜が明けてくれればと思っていた。

「ぎゃっ！！」

「どうした！？」

突然、男が悲鳴を上げ倒れた。
駆け寄ると、首に矢が刺さっていた。

「！！」

もう一人の男は、恐る恐るやぐらから下を見た。
そこには、紅く光る無数の双眸が見えていた。

「あっ・・・！」

男は慌てて、やぐらから叫んだ。

「ま、魔物だ！」

叫び声と共に、男たちは武器を手に取り魔物たちを迎え討つ。

しかし魔物たちの力は大き過ぎた。
あっという間に村の門は破壊され、魔物たちが流れ込んでくる。
次々に火の手が上がり、村は炎に包まれる。
人々は逃げ惑い、魔物に殺される。
ある者は炎に焼かれ、ある者は斧で頭を割られる。
老若男女問わず、魔物たちは殺していった。

「はぁ・・・、はぁ・・・。」

物陰から、辺りの様子を伺う少年の姿があった。

「ちょっと様子見てくるから、待ってて。」

傍らに居る少女に声をかける。
彼女はコクリと頷くと、心配そうな面持ちで少年の後ろ姿を追った。

彼はすぐ先の井戸のところまで、辺りに注意しながら小走りで行く。
とりあえず安全を確認すると、少女の方に手招きをした。
少女はそれを見て、慎重に井戸の方へと走っていった。
彼女が井戸から半分ほどのところまで来た時、少年の目に魔物の姿が飛び込んできた。

「あぶない！」

「え？」

その魔物は少女のすぐ後ろに現れ、彼女に向かって斧を振り下ろす。

ガキン！

「きゃ！」

なんとか少年が一撃を剣で食い止めた。

「早く、逃げて！」

「で、でも！」

「大丈夫！すぐ後から行くから！」

「わ、わかったわ。約束よ！」

彼女は立ち上がると、村の外の方へと走っていった。
少年は魔物の方を見据えると、気合の声とともに魔物を押し返す。
魔物が一瞬よろめく。

「うおおおぉぉ！！」

彼の剣が魔物を貫く。

グギャァ！

魔物は断末魔の叫びを上げると、崩れ落ちた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」

突然、彼は背中に鈍い痛みを感じた。

「！？」

見ると1本の矢が刺さっていた。
彼の後ろには弓矢を構えた魔物が立ち、周りからゾロゾロと魔物たちが出てきて、彼を取り囲む。

「・・・チッ。」

少年は舌打ちをする。
もう逃げれないなっと悟ると、剣を構え魔物に突進していった。

・・・ごめん、約束、守れないや・・・。

・・・・・・。

「はぁ、はぁ・・・。」

少女はいつも来ている丘のところにいた。
振り返ると、彼女が見た夢そのままの村の姿があった。

「あぁぁ・・・。」

紅い炎が村を包み、空を紅く染める。
その燃える村の方から人影らしきものがこちらへ向かっているのが見えた。
少女は少年かと思ったが、その思いは脆くも崩れ去る。

数匹の魔物が彼女の方へと向かってきた。

「い、いや・・・。」

彼女は後ずさるが、思うように足が動かない。

魔物は弓矢を構え、矢を放つ。
無情に放たれた矢は、彼女の胸を貫いた。

胸の鋭い痛み、喉の奥の方から熱い何かが上がってくる。

「ごほっ・・・。」

口の中に広がる血の味。
彼女は体の力が抜け、仰向けに倒れる。

少女の目に映るのは、紅く染まった空。
あのいつも見ていた蒼い空ではなかった。
目から涙がこぼれる。
そして、光を失った。

・・・・・・・・・・。

風が丘を吹き抜ける。
１０００年前、少女が愛した空はどこまでも蒼く、透き通っていた。
そして今も変わりなく空は蒼い。


〜END〜



あとがき

・・・・・・・・・・・・・・

ﾂｯｺﾐどころ満載のＳＳをお送りします。
かなり強引にお話を進めました。
一応、ＲＯ関係です。
公式ＨＰのバックグランドにあったものを参考にしてみました。
といっても１０００年前にあった神と人間、魔族との戦争の部分ですけど。
まぁ、ボキャブラリ足りないんでこのくらいで勘弁。

ちなみに、魔物は兄貴とか廃兄貴とか弓兄貴です。