「空」
どす、っと砂の上になにかが落ちた音がした。
なんだろうと思ったが、なんてことはない。この頬にあたる感触は・・・
どうやら俺が倒れたらしい。・・・もう限界か。
目の前がまっくらになっている。つい先ほどまでは目に突き刺さんばかりの日光だったというのに。
浮遊感と同時にその光はどこかへ消えうせた。
「・・・じょうぶ？ ねぇ、ねぇ・・・？」
・・・ゆすられている？あぁ、だけどもう・・・・ごめんな。
――全身の力が抜けた。
「さーっ」
雨か・・・。雨の音と風が窓をたたいた音で目が覚めたらしい。
「雨・・・か、水があんなに大事だと思ったのは初めてだな・・・」
この辺りは水源も多く水に困ることはない・・・。
ただ、気温が尋常でないため普段水筒は持参していたのだが
「まっさか、水が漏るとは思わんかったぁ・・・。」
今はただ、生きていたことに感謝するばかりである。
・・・はて、そういえば俺はなぜここに？
首をひねり、頭の脳裏に検索をかける・・・記憶にない。
――コンコン
「・・・あ、はい」
相手が誰かとか、そういうことを考えるよりも自然に言葉がでた。
「・・・え？」
驚いたような声がドアの向こうから聞こえる。
何故だ、俺ってそんなに重症だったのか？
「あの、すみません。なにやらとんだご迷惑をかけてしまったようで・・・」
・・・ってか入ってくればいいのに、入らないのか？
「・・・体のほうはもう大丈夫ですか？」
ドアの向こうから震えた声が聞こえる。
・・・これは泣いている？
そんなことを考えたら余計に頭が混乱してきた。
「あ、はい。ただ、なんでこんなことになったのか覚えていないんです。・・・よければ教えてもらえませんか？」
そう言ってから初めて気づく、どんな顔で会えばいいのかと、さんざんな醜態をさらした人に。
こんなことに遭った経験なんて無かった。
とりあえず、左右確認。よし、危険はないぞ。
じゃなくて、えーっとえーっと・・・とか考えているうちに、ドアが開いていく。
「あ、えっと・・・、助けてくれてどうもありがとうございました」
彼女の顔を見るよりも早く、頭を下げた。恥ずかしくて面と向かうことができなかったからだ。
「い、いえいえ、どういたしまして。・・・そ、それより体の方は大丈夫ですか？」
まだ、顔は見ていないが、それでも歩き方や服の着こなしで清楚そうな女だとは思った。
ただ、体が小刻みに震えてるのは気になった。
「はい、このとおり頑丈だけが取り柄なもんで・・・ってティスかよ！」
腕を組んで相手を見ようとして、ようやく誰か気づく。あぁ、俺はこいつ相手にかしこまっていたのか。と
「あは、あははははははは！！」
堪えきれなくなったのか、ついには声をだし、腹を抱えて笑うティス。ますます俺の顔は熱くなった。
「なんだよ、一瞬清楚な人だなーとか思った俺が馬鹿だった。あぁ、そうだよな。そんな人この世にいるわけないもんな」
ため息をはく。今、目の前で抱腹絶倒してる阿呆は俺の幼馴染でティス。当然清楚とは遠い存在だ。
「ぶっ、私が清楚！？あはははは、ツキったら面白すぎ、ってーかマジうけるんだけど」
と言いながらバシバシ背中を叩かれる、しまった、つい思ったことをそのまま口に出してしまったらしい。
「はぁ・・・、はぁ・・・。いやー、笑いすぎて涙がでてきちゃった・・・」
とか言いながら目を拭うティス、だけど一度あふれてしまったものは止まらなくて。
そう、面と向かって見たティスの目から涙が、こぼれていた。
泣いてる顔を見られたくないのか、布団に顔を伏せてしまった。
「・・・おい。」
正直、予想外の事態の連続で、頭はもうその回転を止めていた。なにも考えることもできず、ただ布団に突っ伏して
声にならない声をあげながら泣いていた彼女の頭を撫でていた。
「・・・ひっ、ご、ごめんね。ごめ、んね・・・」
彼女が泣き疲れて、眠ってしまうまで俺は彼女の頭を撫で続けた。以前、彼女につらいことがあったときにしてあげたように。
結局、眠るまで彼女は謝り続けていた。俺はお前に感謝こそすれ謝られるいわれはないというのに。
俺の欠けてしまった記憶の中で、俺と彼女の身になにがあったというのだろう。
「・・・ばーか、さんざん謝っといて寝るんじゃねーっつの」
頭をつつく。あぁ、なんか懐かしいなこういうのって、そんなこと考えてたらなんか心がほっとしてまた眠くなってきた。
おやすみ、ティス。ティスの寝息を聞きながら俺はまた眠りに落ちていった。
――旅路にて。
「ねぇツキー、次の町まーだぁ・・・？」
とうとうきたか、いつ言い出すかと思ってはいたが・・・。
あぁ、やっぱ無理にでも説得して置いてくるんだったなぁ・・・。
「・・・まだだ。」
俺は歩みを止めない。それが俺とティスとの最初の約束だったからだ。
俺の足手まといにならないなら。一緒に旅をでるという、そんな約束。
「うぅ・・・」
はぁ、はぁ、と後ろから荒い吐息が聞こえる、・・・気のせいだろう。
「・・・なぁ、ティス。やっぱ」 「さー、がんばろう。うんうん、余裕だね♪」
途中で遮られる俺の言葉。・・・まぁ、今日はこんなもんか。
「・・・はぁ」
ため息がでた。まだ、半分を少し超えたばかりだというのに。
もう、一日に進める距離が短くなっている。どうやらかなり疲労が堪ってるらしい。
「よし、あそこに岩があるな。今日はあそこで寝るぞ」
そうして、後はひたすらに岩を目指した。
「・・・え？あ、私まだ平気だよ？！ほら、ジャンプだってできる！
なんだったら、今から大運動会開いてリレーでアンカーやってもいいよ！」
後ろから猛然とダッシュで俺の前を駆け抜けていくティス、そんな体力どこにあったんだ・・・。
「・・・はぁ」
俺はため息を吐いた。頼むからもっと自分を大事にしてくれ・・・。
「疲れてるだろう、先寝ろよ。火は俺がみとく」
携帯食料を水と一緒に飲み込み、一応は栄養を確保した。後は疲れきった体を休めるだけだ。
「・・・え、でもわ」 「起きたら襲われてましたっていう事態はさけたいからなぁ」
二言目は言わせない。
「まぁ、俺が眠くなったら起こすからさ。それまでは寝ててくれ」
「・・・うん」
まぁ、当分起こすつもりはないがな。
この辺りには、・・・なにもない。あるのは水か食料が尽きて死んだ屍ぐらいなもので、こいつに番などできるわけがない。
「まぁ、安心しろってすぐ起こすからさ」
「・・・うん」
今日で４日目か、多少行程より遅れてはいるもののそろそろオアシスが見えてくるはず。
そこまでいったら、一日ぐらい遊んで過ごすのもいいだろう。
・・・と、そんなことを考えていたらもうティスは寝息をたてていた。
「はは、無理しやがって・・・」
と、そこであることに気づいた。
水を飲もうとして、水筒の中身が尽きかけていることに気づく。
何故だ、たったいまさっきまではまだ半分ぐらいは残っていたはずなのに。
「おいおいおい・・・」
頭の中が真っ白になった。
こんな場所では水なんて手に入らない。と、なると明日オアシスにつけるかどうかが運命のボーダーラインになるだろう。
この疲れた体でいけるだろうか。もちろん、俺一人ならいけるだろう。だが、ティスは・・・。
まぁ、考えても仕方ない。今は体力を回復させることだけに専念しよう。
『ね、ツキ。おきてーってば。ねーねーおきてよー』
ﾊﾞｼﾊﾞｼ
「ん、ん〜〜〜〜よく寝た」
バシ
『見張ってた本人が爆睡してどーすんだー！』
バシ
「・・・おはよう」
『・・・おはよう』
あぁ、なぜか頬がひりひりするんだが・・・。まぁ、いいや。
「おやすみ」
『えﾞ』
モソモソ
「Ｚｚｚ・・・」
『・・・。』
パン、パン、パン
無言のまま繰り出されるマッハびんた。
「ってー！なにすんだこのア」 『・・・なに？』
あぁ、確かに俺は美少女の満面の笑顔で目覚めを迎えてもらいたいとは夢見ていた。
だが、嬉しくない。ってか痛い・・・。
「ナンデモアリマセン、デスマスハイ」
『よろしい』
頬をさすりつつも携帯食料を貪る。どうやらティスはもう食べたらしい。
『さーて、今日も張り切っていくぞぉ！』
頼むから、もう少しテンション下げてください、とは恐ろしくて言えなかった。
「ぉー・・・」
水を飲もうとして、止めた。もう残りは少ないのだ。今日中に、まだ体力があるうちにオアシスにたどりつけるだろうか。
ザッザッザッザ
体力を無駄に減らさぬよう、お互いに口も聞かずに歩く。
ここでは口をあけているだけで水分が多量に奪われていく。
『・・・ねぇ。・・・まだ？』
もう、かなり疲弊しているようだ。
本来ならそろそろ休みたいところだが・・・今日辿りつけなければ、まず間違いなく俺たちは死ぬだろう
「・・・まだだ」
そうして、俺たちは満点の星空の中を歩き続けた。
『・・・ツキ、・・・なんでもない』
もう、限界を超えているんだろう。
男の俺ですら、今すぐこの場に寝転びたい衝動に駆られている。
俺はカバンから水筒を取り出した。
中身は少ししか入っていないが、飲まないよりかましだろう。
「・・・飲め」
水筒を差し出す。
『・・・で』 「飲むんだ」
水筒をティスに押し付ける。
『・・・ごめんなさい』
いっちょ前にしおらしくなりやがって、似合わねえよと言おうとしたが、やめた。
そんな風にさせてるのは俺だっていうのはもうわかっていたから。
水筒を受け取り、また歩き出す。もう、水筒の中身はほとんどない。
日がでてきたな。どうやら本格的にまずくなってきたようだ。
徐々に上がる気温、それに伴い体力と水分が体から失われていった。
そんな意識が朦朧としてるなか、それでもひたすらオアシス目指して歩いていった。
「助けて！」
不運はどこまで重なるのだろう。突然、俺の後ろにいたティスの気配が消えた。
「ティス！？」
後ろを振り向くと、そこには巨大な流砂が。その真ん中にはヒトジゴクがいた。体力があるときなら、片腕一本でも倒せるとは思うのだが。
このつかれきった体でどこまでやれるかというのは疑問だった。
「くそ、なめんじゃねえぞ！」
悲鳴を上げる体を更に痛めつけながらも自ら流砂に飛び込みヒトジゴクがツキを襲うよう。わざともがく振りをする。
ヒトジゴクは一般的に流砂をはり、その真ん中に落ちてくる人もしくは、小動物を狙う。
こいつを殺すのに大事なことは冷静な判断だ。
奴が襲おうと口を開いたその瞬間、奴の唯一もろい口へ、火薬を投げ、体内で爆発させる。
じわり、じわりと体が流砂の中心へと吸い込まれていく。
「今だ！」
襲い掛かってきたヒトジゴクへと、ちょっとした爆弾を投げ込む。
俺の頭まで後１ｍというところで、ドン、という音が地底でなった。
とたん、ヒトジゴクはその動きをとめた。
「・・・ふぅ。」
一息つき、足を引き抜こうとしたところで左足に激痛が走った。
どうやら、爆破で吹き飛んだヒトジゴクの外殻が俺の左足に突き刺さったらしい。
幸い、なんとか動かせるが、出血は、ただでさえ水が少ないこの場所では死に等しかった。
「ティス、だいじょうぶかー？」
なんとか足の怪我がばれないよう、布でムチャクチャにしばる。
『・・・』
どうやら、もう言葉も出せないくらいに疲弊しきっているようだ。
もう、日は完全にその姿を見せていた。
彼女のためにも早いところオアシスに辿りつきたい・・・。
いや、それよりも、俺がもうもつかどうかわからなかった。
歩き出す。二人して足を引きずりながら。
それでもとまらずに、ゆっくりと、でも確実に歩を進めていった。
「巨大な岩二つが西に見えてきたら、北東の方角へ・・・・、あった！あったぞ、ティス。オアシスがあったぞ！」
さぁ、あと少しだ。あと少しで水が・・・。
突然、浮遊感が俺を包み込んだ。
＊最初から繰り返し
■ あとがき ■
はい、なんか長編になりそうだったので、打ち切りで
まぁ、自分の文才のなさというか、日本語がおかしいところがたくさんあったような気がします
ﾉｼ