「ご飯〜」
「・・挨拶がそれ」
呆れてしまう。出会った時からこいつはそんな感じだから慣れたけど。
「はぁ」
私はため息をつきながら隣に腰掛けた。
場所は首都プロンテラ近郊。長閑な草原が続くそこは、こいつと初めて会った場所。
少し離れた場所にはノービスが一生懸命ポリンを追いかける姿が目に付いた。
こいつもそういえばノービスと見間違える程一生懸命・・・というか必死の形相でポリンを追いかけてたっけ。
「なんか黄昏てるねぇ」
「あんたのお陰でね」
はぁ
なんだか最近ため息が多い気がする。それもこいつとちょくちょく会うようになってからだ。
「・・・なんで私、こんな奴と友達になったんだろう・・」
「そういうことは言葉に出さないでくれよ」
「どうして？」
「俺が傷つくだろっ」
「・・はぁ」
そんなことで傷つくような奴にも見えなかった。
「それで・・本当に会うの？」
「おぅ」
「本当に本当？」
「厭なのか？」
マジメな顔で問い返される。なんでだか知らないけど私はこいつのこういう顔に弱かった。
「まあ、別にいいんだけど・・誤解を生むような発言は控えなさいよね」
「ダメなのか？」
「・・・当たり前でしょ、あんたが友達欲しいなんて言うから紹介してあげるんだからね・・」
って、なんで泣きそうな顔なのよっ。
「そのままの俺を受け入れて欲しいんだ・・・」
「そ、そんな哀愁漂わせながら言われてもしらないわよ・・」
というか受け入れてくれる人なんて存在するのだろうか。
「まあ、そろそろくるから・・」
と言いかけて淡い光と共に見知った顔が現れた。
「やっほー」
「こんにちわ」
「ちわ」
「ああ、きたきた」
何はともあれみんな来てくれたようだ。
一番に元気な挨拶をしてくれたのは私のギルド唯一の騎士。
いっつもギルドを照らしてくれる太陽みたいな人。俗に言うムードメーカーみたいなものかな。
その後に、深々と頭を下げて挨拶してくれたのは私のギルド唯一のアコライト。
なんと、その雰囲気からは想像もつかないがモンク志望らしい。
私が幾度と無くプリーストを勧めても全く首を縦に振らないという頑固な一面もあったりする。
最後にかったるそうに挨拶したのは私のギルド唯一のアサシン。
あなたには確かにそのクラスが一番合ってると思う、とはなかなか本人の前では言えないものだ。
「はじめまして、ご機嫌麗しゅう」
と、なんというか寒気がするような満面の笑顔で私のギルド員達を迎え入れたのは、
本当にワケの分からない友達になったばかりのアルケミストだった・・・。

「へー、ずっと一人なんだぁ」
「かっこいいだろ、惚れるなよ？」
「・・・あ、あはは、変わった人とは聞いてたけど本当に変わった人だね」
騎士はちょっぴり苦笑いした。
「噂されてるのか、照れるなぁ」
「はぁ・・表情変えずに言う癖直しなさいよ・・」
「どうして？」
「ネタにしか見えないわよ」
「・・そんなことないです、なんか面白いです」
アコライトは馬鹿にしてるんだか褒めてるんだが分からないが、とりあえず話しに参加してきていた。
それに比べてこいつは・・・。
「・・・・ふぁ」
「あんたも少しはしゃべりなさいよ」
小声でアサシンに言う。
「だりー」
体裁なくアサシンは普通の声で言った。もちろんアルケミストにも聞こえている。
「ったりぃ」
・・同調していた。
「なぁ」
アサシンが声をかけると皆がアサシンの方に向き直った。
「馴れ合いもいいけどよ、実際どうなのよあんた？」
「何がだ？」
少し眉をしかめながらアルケミストが問う。
「あんたも一応冒険者なんだろ？」
「そうなのか？」
「って、私に聞くな私にっ」
「そうみたいだ」
そんなこと言ってないが不毛なボケツッコミが続きそうなのでつっこまないでおいた。
「ふん、ならさみんなで狩りに行こうぜ」
鼻で笑うようにしてアサシンが言う。
「もー、本当に狩り好きなんだからぁ」
困ったように騎士が言った。
「私はそれでいいですよ」
意外にアコライトは乗り気だった。
「まあ、私も別にいいけど・・・」
「決まりだな」
アサシンは嬉々としている。本当にこういう時だけ積極的なんだから。
「ところであんた、レベルは？」
「・・・・・・おいしい？」
「食べ物じゃありませんっ」
ついつっこんでしまう。
「あはは、レベルだよ、レベル〜」
「いや、本気で分からないが」
「「「「・・・・」」」」
痛い沈黙が響いた。
「・・あんた、それでも冒険者？何も知らずに狩りとか行くわけ？」
「いや、ポリン狩ってりゃ食い物に困らないしな」
困ってたでしょ、思いっきり・・・。
「レベルというのは、冒険者がモンスターを狩るにあたって冒険者ギルドが各々に与える格付けみたいなものです」
「ふーん、それが狩りと関係あるのか？」
「あります。その格付けによって大まかな安全に狩りが可能な場所を知ることができますから」
「つまりな、冒険者ギルドが指針する自分のレベルに合った狩場で狩ってりゃ危険は少ないってこった」
「本当に知らないんだね」
「ああ」
「う〜ん、どうしよっか？」
騎士がみんなに向かって問いかけた。
「グラストヘイムなんてどうだ？」
「何言ってるのよ、あそこは私達四人でぎりぎりの場所でしょ」
「死にはしないだろ、深淵でも来ない限り」
そりゃそうだけど、もしものことを考えると不安だ。
「俺は別にそこでいいぞ」
「え・・ちょっとマジメに考えなさいよ、ポリンに苦労してるあんたが行けるような場所じゃないのよ」
「アコライトが行けるのにアルケミストは無理だと？」
「う・・」
そういわれればそうだけど・・でもこの子は特別なのだ。
「まあ、グラストヘイム決定」
「え、ちょっと・・」
「おら、出しな」
アサシンはアコライトに催促する。
「出ます」
って、なんでアコライトまでっ。
そんな私のつぶやきは露と消え、淡い光の中に吸い込まれていった。

「まあ、とりあえず前衛は俺達に任せてお前は後ろで見てな」
「そうする」
意外にもアルケミストは私の隣に立って後衛に甘んじている。
「カーリッツバーグ発見！」
「行きます」
「行くよ〜」
狩りの時だけはテンションが高いアサシンが先陣を切ってカーリッツバーグに飛び掛る。
ｶﾞｼｬﾝ
鎧が鳴る。アサシンの突然の接近に驚いたのか一動作遅れる。
その隙を逃すアサシンではない。両手に装備したカタールがカーリッツバーグの鎧を深く抉る。
「ｶﾞｼｬﾝｶﾞｼｬﾝ」
のた打ち回る。前もってカタールにかけておいた祝福が呪われし肉体を昇華させていく。
そして、続くアコライト。
「神の御名において、我に力を与え給え・・・・ブレッシング！」
アコライトはアコライトとは思えないようなスピードでかけよりながら自らを強化する。
その手に武器は・・・ない。
あるのはその拳のみ。
ｷﾞｬﾁ
打ち付ける拳は呪われし肉体をさらに昇華させていく。連打による敵の反撃を許さない攻撃。
「ぼこぼこ・・」
流石のこいつもアコライトの様子に唖然としているようだった。
「ｷｼｬｰｧ」
瞬間、咆哮。分かり易すぎる反撃の狼煙。それに合わせる様にアコライトは身体をスライドさせる。
空を斬るカーリッツバーグの斬戟。そして、その空振りを待っていましたとばかりに既に予備動作に入っていた騎士が止めの斬戟。
カーリッツバーグは両断されると、まるで中身が空気か何かでできていたかのようにがらがらと崩れ落ちた。
「・・・」
見事な連携攻撃に見とれていたか、アルケミスト！
「ゆ、幽霊！」
「・・・・・・」
そんなんばっかか、あんたは。

狩りは順調だった。多少数が沸いても前衛がそれぞれある程度の数を相手にできる力量の持ち主なので苦にならないのだ。
しかも、私の援護もついてるときたら負ける筈が無い。
「なんか、いい感じだね〜」
「４人とも仲いいのな」
「そうか？」
「そうなのっ」
私は声を大にして叫んだ。全くアサシンは、素直じゃない。
「みんなで狩りはとっても楽しいです」
アコライトは拳を握り締めながら力説していた。なんか怖かったのは秘密。


「それにしても、人いないな」


こいつは、ふと、そんな・・みんな気づいていたはずなのに言わないでいた言葉を自然と口にした。


「そう・・ですね」
「別に関係ないだろ」
アサシンはちょっと強がりながら言っているが、明らかにおかしかった。
いくらグラストヘイムといえど只の一人の冒険者と遭遇しないのはおかしい。
「・・・幽霊出るしな」
「関係ない関係ない」
意外と怖がりらしい。

ガタ・・ガタ。
「・・おでましだぞ、しかも結構な数だ」
「そうですね、溜まっていたみたいです」
「でも、これくらいならっ」
歩を止めていることに知らず気づいたのかモンスター達が寄ってきた。
レイドリック、ミミック、カーリッツバーグ、ナイトメアー。
「モンスターハウスだ！」
こいつに危機感はないのだろうか・・・。
冗談じゃなくこの数はちょっとキツイ。無理でもないけど余裕が全くない数だ。
「ちっ、行くぞ」
アサシンは手当たりしだいといった具合に近寄ってきたミミックに隣接した。素早いミミックの動きに苦戦している。
「Es ist gros, 　Es ist klein…………！！」
一息。
「vox Gott　Es Atlas――――！」
二息。
とたん、アサシンの動きはミミックのそれを完全に凌駕しはじめる。
「やるね、プリたん」
「・・・」
こいつは・・なんでこんなに余裕なのよっ。
「くっ」
まずい、まずい数だ。前衛三人には３，４匹ずつ敵が張り付いている。
流石に全てを避けることなど不可能だ。でも、私の仲間は傷つけさせない！
「Vertrag……！　Ein neuer Nagel Ein neues Gesetzl　Ein neues Verbrechen―――！」
「Kyrie Eleison―――！！」
祝福が三人を包み込む。
「ふぅ、これで少しは・・」





刹那／死んだ





「！？」

いや、死んではいない、落ち着け、落ち着け、落ち着け。

「深淵！？」
騎士の驚愕に慄く声が妙に遠くに聞こえた。
ゆっくりと振り返るとそこには――死が具現化していた。

圧倒的な死の感触が肌を憑く。


「え・・」

でも。

そんな死香の中私の前に躍り出たのは誰だったろう。

アサシンじゃない、騎士じゃない、アコライトでもない。

そいつは、いつも通り不敵に笑いながら・・・深淵の騎士と対峙した。

「ちょ、あんた」
「おい、馬鹿野郎二人とも逃げろ！」
普段は聞くことができないような声でアサシンが叫ぶ。
騎士も叫んでいるが取り乱して自分の戦闘も疎かになっていた。
アコライトはただ必死に目の前の敵を駆逐している。目には涙が溜まっているように見えた。

ポン
頭に何か乗っかった。なんだろうと思ったらアルケミストの手の平だった。
「そっちは頼む」
そういうと一歩二歩と深淵の騎士に近づいていく。何がそっちは頼むだろう。あんたはどうするんだ、あんたは。莫迦。


深淵と呼ばれている騎士は黒馬に跨り悠然とその場に立ち尽くしていた。まるでそれは誰も逃がさないと言っているかのように。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ！！！」
大地を揺るがすような咆哮。それだけで、手足は痺れ動かなくなった。
それと、同時に深淵はモンスターを召還する。
カーリッツバーグが３体。
それだけなら問題なんてなかった。でも、今はそうじゃない。
最強に分類されるモンスターと共ににカーリッツバーグを同時に相手するのだ。人間が一人でどうにかなる問題ではなかった。

しかし、そいつは歩みを止めようとしなかった。



静かに、小池に染入る鳥の囀りのように・・・。
いつもと同じようで、それでいて全く違ったそいつの声は響いた。

「――――Das Schliesen.Acht」
何故だろう、こんな状況で私はそいつの声以外聞こえなかった。

何か武器を持っているワケでもなかった。只、そいつは挑発するように深淵に隣接した。

「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ！！！！」
刹那、その無防備な姿に触発されたのか深淵の騎士は手に持つ大剣を視認できうるはずもない速度で振るう。
避ける、避けないのレベルを超越した攻撃。
しかも、一撃ではない二撃、三撃、四撃――――既に人間ならば肉塊になるはずの時。そいつは同じ場所に立ち尽くしていた。

只。
妙な違和感の残る耳鳴りだけを残して。



視えた。確かに。そいつは斬られていた。はずなのに、その場に佇んでいる。
なんだろう、ワケが分からない。

「ありえねぇ、お前・・・クイックマスターか！」
アサシンが驚愕に震えた声で叫ぶ。アルケミストはその声を歯牙にもかけずに深淵を見据えている。

―――まるで、未来を見つめている。

クイックマスター。速さを極めし者。冒険者なら誰でも耳にしたことがある、幻想でしかない人物。
それが・・・こいつだなんて、あるわけがない。

―――でも、その瞳は蒼く遠い。

私は、何故だろうかそんなアルケミストの姿を見て。
安心すると同時に寂しくなってしまった。まるで、こいつが全て終わらせて消えてしまうような原因不明の焦燥感の為。

だから、せめて――その姿を瞳に焼き付けたかった。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！」
最凶の騎士は全ての攻撃が通じないことに焦りを浮かべているようだった。
ますます、速度を上げていく斬戟。

アルケミストの姿が霞んだ。そして、数瞬後現れた時には手に短剣を握っていた。

次ぎの瞬間にはカーリッツバーグの姿はなかった。

その次ぎの瞬間には黒馬の前足二本が切断されていた。深淵の騎士が愛馬から飛び降りると黒馬は吸い込まれるように消えた。

そして、次ぎの瞬間――閃光が見えた気がした。

「な――に・・・・」
既に戦闘を終えたアサシン達が駆け寄る。そして、目の前に広がる光景に絶句した。
深淵の持つ大剣が根元から破壊されていた。
「・・・・・・・・・・ォォォォォォォォオオオオオ―――」
深淵の声にならない声がする。
その胸には弾痕のような傷。背景が丸見えだ。

難解なできごと、でもその中で一つ確かなことは・・
こいつが――アルケミストが只一人己が肉体のみで最凶のモンスターを駆逐したということだった。


「お、お前・・一体何者だ！？」
驚きを隠せない声でアサシンが訊ねた。他の二人も・・もちろん私も気持ちは一緒だ。
「アルケミスト」
「そんなこと分かってるわよ！」
こんな時でさえこいつはいつもの調子を崩さない。

そいつは笑った。いつもとは少し違う寂しい笑み。

・・・手を挙げて、まるでそれが別れだと決め付けるように離れていく。

「どこ行くのよ？」
私は自然に声が洩れていた。
「・・・・え」
「そんなに強いくせに私達置いてどっか行っちゃうワケ？」
「・・・・・・・・・」
「そんなの俺が許さねぇからな」
アサシンは悔しそうにしながらそう言った。
「まだまだ狩り足らないですよ〜」
「次ぎは遅れを取りません」
騎士も、アコライトも気持ちは一緒のようだ。

「私の名前はアル・・あなたは？」

ふっ、とそいつは笑った。


「――――俺は・・」



季節は移ろう。

人の心も然り。

変わらないモノなんて何もない。

そんなこととっくに気づいている。

それは何があっても変えられない・・けど――


―――今を一緒に歩もうと思った。



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眠い。４時３０分だ。
気づいたら寝てました。
後書き書こうとして寝てました。

参考文献はお察しください。

実は途中からまるっきり書き直したけど、やっぱり変てこ。
実力です、お察しください。

また、企画したら書くかも。