どうしてだろう。
この空はこんなにも綺麗で。
この空はこんなにも悲しかった。
青くて、
蒼くて、
藍くて。
あまりにも、高潔。
あまりにも、純粋。
そんな、空の下。
〜 草原にて 〜
「こるぁあああああ！！ マテやぁぁぁ！！」
彼は一人、ポリンと追いかけっこをしていた。
近づくポリン。
遠ざかっていくポリン。
盗まれたアイテムを必死で追いかける姿はきっととっても惨めだったに違いない。
でも・・・
・・・・追いつけない。
「なんでだぁぁぁぁぁ！」
叫ぶ言葉も遠ざかる。無論ポリンに人の言葉など分かるはずもなく、その姿は晴天のプロンテラを映すように消え去った。
「ぜーはー、ぜーはー」
肩を大きく上下させ、彼はその場に膝をついた。
「あんにゃろ・・・、次に遭ったら絶ッ対この剣の錆にしてやる」
もちろん、彼の実力がポリンより劣っていたというわけではない。
ぐぅー。
「・・・・・・・・・・・・・」
そう、彼は、
「そういや・・・・・・・・・・・・・・今日で・・・・・水と・・・・・・塩、・・・・・生活・・・・・・・一週間目だったっけ・・・・・・・。ＧＡＫＵＲＩ」
お腹がすいていたのだ。
空腹のあまり、足がふらつく。
目の前でぴょんぴょん跳ねているポリンが、全部ゼリーに見えたりする。
食べ物・・・・・たべ・・・もの・・・・！
「あああああああ！！！ 食わせろぉぉぉおおお！！！」
絶叫にも似た叫び声をあげつつ、彼は一番近くにいたポリンに突撃する。
まるで暴走したかのように、持っていた剣も構えずに。
「お前は！ お前は甘いのか！！ 甘いんだな！！」
無論、甘いはずもない。
「くぉぉぉぉぉぉぉ！Ｉ ＬＯＶＥ ＰＯＲＩＮ！！！！」
攻撃とかそういうんじゃなくかぶりつく。
美味。
なワケなかった・・・。
ああ・・・。
なんだろう・・・、妙に眠いや・・・。
あは・・・お花畑。
けけけけ、くけーーーー！！
「い、今俺・・死にそうだった・・・・」
・・・ポリンの姿は既に遠ざかっていた。
「あははー、君、面白いねぇ」
目の前には一人の聖職者。
「うまそうだ」
「・・・何言ってるのよ、君・・」
聞こえていた。
人まで食い物に見えてしまうあたり、限界らしい。
「にしても・・・私が速度増加かけて嫌がらせしてるのにも気付かないなんて相当なものね」
そう言ってその聖職者はりんごを放ってきた。
むしゃむしゃ。
１秒とかからなかった。
「意地悪いのな」
「君みたいなの見てるとイジメたくなるのよ〜」
大笑いしながら世界の大半を敵に回すようなことを言っている。
無論、彼の主観である。
「つーか・・・・」
「んあ？」
「足りん」
食べ物を恵んでもらったくせに失礼っぽい。
「んー、しょうがないわね」
ほらっ、と聖職者は食料―らしきもの―を投げてよこした。
美しい流線形を成すボディライン。
煌びやかに光っていたであろう肌。
そして、それらを一直線に貫く串。
・・・・・・・・・串？
串。
「・・・・・・コレハ、ナンデスカ？」
「え、化け物のエサだよ〜。知らないの？」
にこやかに笑い返す、聖職者。
にこやかに笑い返す、彼。
「イタダキマース」
半ばヤケクソで彼はそれを口に含んだ。
「む・・・」
「？」
「こ・・・これは・・・・・・！」
「ど、どうしたのよ」
「このまったりした質感、それでいてしつこくないこの後味・・・そしてこの香り」
「はぁ・・・・」
「これは・・・・・・・・・・・スフィンクスダンジョンに棲むという、マーターから取れた化け物の餌だな！」
「良く分かったわね」
聖職者のその言葉に、彼は当然というように胸を張る。
「全然違うわ」
「ってどっちやねん！！」
「この化け餌は、さっきそこで倒れてた騎士からかっぱらってきたのよ」
「アンタ聖職者だよな！ そうなんだよな？！」
「人は見かけで判断できないものよ」
ふふん、と聖職者は笑う。
「きっと、プリの格好をしたローグだろう、そう思った」
「・・聞こえてるわよ」
「・・・聞こえていたか・・本人のいるところで言うセリフじゃなかったな、すまん」
「君、全然顔に申し訳ないって気持ちが出てないじゃない」
「こういう顔なんだ」
「・・人生終わりね」
「さり気なく酷いこと言われてます」
「・・誰に説明してるのよ、君・・・」
やれやれと肩をすくめ、プリはその場に腰を下ろした。
「誰に説明しているのかを説明して欲しいのか？」
食べ終わった串を地面に刺しながら、彼も地面へと座る。
「あー、いい。遠慮しとくわ」
「賢明な判断だ、フロイライン（お嬢さん）」
「アルケミストに物事を説明させることほど愚かな行為はないもの」
にっと笑ってプリは懐からリンゴを取り出した。
「それより、真理の追究者さん？このリンゴ、ジュースに変えてくれない？」
「ミリ」
「・・・・・・さては、偽者！？」
「一緒にしないでくれ」
アルケはやれやれと肩をすくめると、手を差し出す。
「ほら」
「え？」
「出せよ、リンゴ」
「え、何、作れるんじゃない」
プリからリンゴを受け取ったアルケは、しばらくそれをじっと眺める。
「これやるの・・・・・久々なんだ」
しみじみとそう言う。
「辛いこと・・・思い出すからさ・・・・・・あんまりやらないようにしてるんだけど・・・・・」
「あ・・・・ご、ごめ・・・」
シャリ。
モグモグ。
ゴックン。
「ごちそうさまでした」
「って何してるんだああああ！！！」
「うわっ、プリさん本性出したな！」
「何食べてるの！ 何を！！」
「何って、リンゴ」
「それぐらい分かる！ 私は、ジュースを作ってくれって頼んだつもりなんだけど？！」
「いやプリさん。考えてみてくれ」
「何よ！」
「アルケミストって、ジュース作れない」
「・・・・・・・・・・・・・あれ」
ふぅ、とアルケは空を見上げる。
（母さん、目の前にいるプリースト、実はＩＮＴ初期値なんじゃないでしょうか）
とりあえず言えることは、きっと・・・・・いや、間違いなく、彼女は殴りだろう。
彼は脳内でそう決定し、微笑んだ。
「かわいそう」
「哀れんだような目で見ないでよ！！」
真っ赤になりながら、プリは怒鳴り声を上げた。
「って、見るばかりか発言！Ｓｐｅａｋ！！」
「きっとプリの格好をした芸人なんだろう、そう思った」
「聞こえてるっての！」
「ところで君、なんでそんなに飢えてるワケ？」
「あんたにイジメられたからな」
「それは過程の話でしょ」
この際、過程も結果もなかった。
「・・・・実は」
「実は？」
「減量してるんだ」
「・・・・・・・・・・・・・ボクサー！？」
あ、でも。
プリはなんとなく理解した。たしか何処かのボクサーもリンゴを貪り食っていたっけ。
「そう、拳の錬金術師とは俺のこと」
グッと拳を握り締め、アルケは続ける。
「次の試合までにあと３キロ減らさなきゃいけないんだ」
「大変なんだ」
「だから・・・・・・・・・」
グッと彼は唇をかみ締めた。そして、苦悩を滲ませながら口を開く。
「だから、もっとリンゴプリーズ！ｐｌｚ！」
「減量するんじゃないの！？」
「ふふ、それは冗談だ」
不敵に笑うアルケ。
プリはそんなアルケを見て、大きくため息をついた。
「君と話してると疲れるわ・・・」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「・・・あぁ、うん」
もはや突っ込む気力も失せたのか、プリは適当に返事をする。
「まぁ・・・・・・頑張んなさい。私はもう行くから」
「いや、待ってくれ」
「何よ？」
歩いてこの場を去ろうとしたプリを、アルケが呼び止める。
「ずっと前から好きだった」
「いや、もういいから」
慣れた返し方だった。
「冗談が通じない奴め」
「あのね」
何かを言おうと口を開きかけたプリを、アルケが手を出して遮る。
「まぁまぁ、そんなことよりもお嬢さん」
「・・・・・・なに」
「リンゴください」
「話が戻っとるわ！！」
「冗談だ」
話が一向に進まない。
「リンゴは好きなんだけどな」
「別に君の好みなんてどうでもいいよ・・・」
「つれないなぁ」
アルケは苦笑すると、プリに向けて手を差し出す。
「じゃあ、踊ろうか」
「意味わかりません！！」
「そうだな、意味わからない」
アルケは笑う。
「でもいいじゃないか。たまには、俺みたいなのの相手をしても」
「・・・・・・君、さ」
「なんだい、お嬢さん」
「友達いないでしょ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さぁ、どこかに狩りに行かないか？」
「露骨に話逸らしたわね」
「そんなことはない。俺には友達100人以上でお山でおむすびころりんだ」
「・・・・居ないのね？」
「ふっ・・・俺は孤独な一匹狼・・・・・ソロがお似合いなイカスアルケミストさ」
「・・・・はぁ」
プリはため息をつく。
「じゃあ私が、君の友達になってあげる」
「え・・・・・・」
「ほら、握手」
「あ・・・・・・・いや・・・・え・・・？」
「出しなさい、ほら」
プリは強引にアルケの手を握ると、それをしっかりと握り締める。
「じゃあ・・・・」
全てを包み込むような微笑み。人を安心させる微笑みが、そこに・・・・
握られた手からは、相手の温もりが伝わってきて・・・・・・
「どりゃあああ！」
アルケは、見事に投げ飛ばされていた。
そして、華麗に着地した。
「きっと、プリの格好をした柔術家なのだろう、そう思った」
「無傷Σ」
「これでも、アサシンですから」
「・・・馬鹿にしてる？」
「いや、どちらかというと蔑んでる」
「尚、悪いわっ！」
むきーという擬音を背後に浮かび上がらせるプリ。
「はっはっはー、あんまり怒ると血圧あがるぞ〜」
ひらひらと手を振りながらにこやかに笑うアルケ。
「大きなお世話よ！」
「こうみえて世話好きなんだ、俺」
「もう・・・、いい」
疲れきった顔をしてプリはため息をついた。
「色々と大変そうだな」
「君のせいでね」
「惚れるなよ」
「カエレ！」
「はっはっはー、フロイライン。君はその笑顔が一番似合っているよ〜」
「笑ってない！」
「困った子だなぁ」
「うー・・・もういいっ。このままだと終わりそうに無いから、私もう行くね！」
「はいよ、ばいばい」
「・・・・・あっさりしてるわね」
「何？ お嬢さんは俺に、ストーカーの如く付きまとって欲しいわけ？」
「そ、そんなわけないじゃない」
「ならいいじゃん」
そう言うと、アルケはその場にバタリと倒れた。
顔を空に向けて、目を閉じる。
「どうしたのよ」
「いや、腹もちょっと落ち着いたから、寝ようと思って」
「・・・君の人生、ずっとそんな感じなんだろうね」
「羨ましい？」
「・・・・・・・じゃ、さよなら」
プリはアルケから視線を逸らし、空間転移のスキル、テレポートを使った。
一瞬でその場からかき消えるプリ。
アルケはそれに見向きもせず、大きな青い空の下、瞳を閉じた。
「こんなのも、悪くない」
そして数秒後には、うるさいいびきをかいていた。
そう彼の人生に意味などなかった。
あるいはそれを探す為にこんな生活をしているのかもしれない。
そこは、計算と計測の院、アトラス。
錬金術とは元々閉鎖的なモノであった。
それの外から出て技術を使うことは禁忌とされ、疎んじられた。
例外として外に出られる錬金術師もいた。
しかし、重い枷を背負った上での仮初の自由だった。
尚、アトラスの院においては自らが積み重ねたモノでさえ、それは院のものに過ぎなかった。
彼はそれを拒絶し、真の自由を得た。
それは錬金術師としてはあまりにも愚かな選択だった。
錬金術師とは本来、外に出る必要などないものだ。
ただ愚直に何の役にも立たないモノを積み上げていく。
それが日の目を見ることなどなく、ただ院に埋没していく。
それは、進化などではなく退行だった。
それでも、自分の積み重ねたモノは功績となって伝えられる。
ただ、それだけだった。
真理の追究など何処にもありはしなかったのだ。
そう、真理など・・・・・何処にも。
「よっと」
まどろみの外、軽い掛け声とともに誰か―いや、先ほどのプリーストだ―が地面に腰をかけた。
「ねぇ」
「むにゃむにゃ」
「ねぇってば」
「はははー、そんなに食えないっつーの」
「お約束通りだ・・・・・」
なかば呆れながらプリはアルケの口と鼻を塞いでみた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ッ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！？」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジタバタ。
パッと手が離される。
「・・ッ。プッハー、ハー、ハー」
生きてる、いや、生きてるって素晴らしい。
肺の深淵まで息を吸い込み、アルケは生を実感する。
だが、何故、自分はこんなことをしているのだろう。
寝てただけなのに。
生命維持を優先していたアルケの脳が、状況把握へと動き出す。
「んし、起きた起きた」
一瞬で把握。
「・・・・殺す気かデスか、そうですか」
冷たく言ってやる。
「だって、全然起きないんだもん」
悪びれる様子もなくプリは笑った。
「・・・だいたい、なんでアンタがここにいるんだよ？」
「なんでって、君ね。もう、夜中よ？」
「・・・・・・・・らしいな」
「らしいなって」
空に瞬くは無数の星。
夜風が頬を撫でてゆく。
「狩りから戻ってみればまだここにいる、っていうか寝てるんだもの」
「腹が減ってるときは動かないのが一番」
「風邪ひくと思って起こしてあげたんだからね？」
「そりゃ、ありがたい」
アルケは大きく欠伸をする。まだまだ寝たりなかった。
再び瞳を閉じ、手を上げてパタパタと振る。
「寝る。朝になったら起こしてくれ」
「何様よ、君」
「アルケミスト様。ポーションなら作れます。ジュースはご勘弁ください」
「うっ・・・それは忘れてよ・・・」
赤くなるプリ。
アルケは片目だけを開けて、にやりと笑った。
「ほら、見てみろよ」
「・・・何を」
「空」
アルケは真っ直ぐ、天空を指差す。
その指を追うように、プリが視線を上に上げた。
漆黒の空に散りばめられた、光り輝く小さな星たち。
そして大きな、白銀の月。
「なんか、この星空見てるとさ・・・・」
「・・・・？」
「・・・・・・・・・腹、減ってこねぇ？」
・・・・・・・・
「そこらへんのポリンでも食べてなさい」
「ゼリーの味するかな？ さっきのは不味かったけど・・・」
「さぁ、食べたことないし」
もっともな意見だった。
「って言うか食べたんだ、君・・・」
「美味しそうに見えねぇ？」
「でも、食べないでしょ、普通は」
彼は自由だ。
そして自由な彼は、不敵だった。
「ほら、お嬢さんも」
「は？」
「隣、空いてるぜ。寝転がりなよ」
「いや、そんな爽やかな笑みで言われても・・・」
「見上げてると首疲れるだろ。それにこうやって見た方が・・・・・・星の中に居るみたいで」
「・・・・ん」
「現実逃避できる」
「しなくていいっ！！」
彼はずっと、この調子なのだろう。
明日も、
明後日も、
一年先も、
十年先も―――
†あとがき†
＜蒼＞
ちゃんとしたの書けるのだろうか？
ぶっちゃけ最初そう思いましたが、書いてみると案外うまく書けたと思います。
というか、何かに似てる気がするな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気のせいか。
3人で順番に受け渡して書いたわけですが、やっぱり癖というか、書き方が違いますね。
どこの部分を誰が書いたのか、分かりますか？
主人公のアルケミストに、異様な愛着を覚えてしまった蒼でした。
＜零＞
突発企画。
俗に言う気まぐれ。
三人寄ればなんとやら。
つまり、ジェットストリームアタック。
というわけで、完成しました、リレー小説。まぁ、これ書いてる時点で題名はまだないですが。
・・・・どうなるんだろう、題名。
しかし、三人で書くとホント予想ができないですね。
何があるか分からないというか、予想しても裏切られる。
でもきっとそこが、醍醐味。
ビバッ、リレー。
プリさんが面白い人になってく過程が楽しかったデス。
＜雪＞
あほな子トリオの三人で書くとこんなもんか。
それにしても、なんと醜悪なんでしょう、裏切り、裏切り、裏切りの連続でした。
あはは、やっぱり人間なんて信じられませんっ。
てか、終わらせる気なかったのにっ。
誰だ終わらせたのっ。
・・・ごめんなさい。
まあ、でも基本的にこういうの好きなんで又やれたらいいね。
誰が何処書いたか当てた人には賞金１０万円がプレゼントされます。
無論、アオ氏から。
End…..2004.5.4 深夜