手が痺れるほど寒い夜に暖炉の火を見ていると一人の少年のことを思い出す。

私がまだ幼かったころ、いつも一緒にいた少年だ。

彼は私なんかよりもずっと頭がよく、運動でも勝てた記憶がない。

そんな彼は夢を語るのが好きなようで、私はよくそれを聞かされていた。

「最強になる」

子供なら誰だって願うような、そんな夢。

そんな彼と私は様々な秘境へと足を運び、腕を磨いた。

いつの間にか、あれだけ死にそうになりながら戦ったポポリンが一瞬で倒せるようになっていたり、

いつの間にか絶体絶命とも言えるような骸骨の群れにも瞬時に対応できるような腕を身につけていた。

それでも私と彼は自分が強いなどとは思わなかった。

きっとそのへんにいるノービスたちと大差ない、なにも成長してないなぁ、なんてよくわらいながら話していた。

以前彼とは自分の実力について語り合ったことがある。

冷静に考えて、私の同世代はまだノービスからなんとか転職して新たな力に一喜一憂してるぐらいだと思う。

今、私のレベルはだいたい６０・・・そろそろ剣士が板についてきたと思う。

転職すれば確かにこれ以上の強さをもてると思う。

だけど、本当にそんな力があるのかなんてわからなかった。

新しい力が怖かった。

自分が自分じゃなくなるような気がした。だから強くなるってことが魅力的に思えなくなっていた。

というより果てない先を少しみてしまった気がして怖気づいたのだ。

そのころから彼はわたしの前に姿をあらわさなくなっていた。

最強になるという夢を持っていた彼。

きっとその才能も度胸も持っていた彼。

だけど私は、もっと他に素晴らしいことがあるんじゃないのか、そう疑問を持つようになっていた。

だから彼は私の前から姿を消した。

だから私は夢を失った。

最強なんて夢はもういらない。

彼は私の幼いころの姿をしていた。

私の理想の彼は、私の夢だった。

私の中の彼は、あの時、私の中で死んだのだ。

たしかに私は今、妻も子も持ち、一般的に言う幸せの絶頂ってときなんだと思う。

でもこの燻る火をみていると、私に燻るなにかを思い出させる。

もし、私が迷わず強さを求めていたらきっと彼になれたのだろう。

それは幸せなのだろうか？今の私より人として優れているのだろうか？

おとーさんと呼ぶ声がする。

まだ幼いわが子は、自分で本も読めない。

だが、たまらなく可愛いのだ。

それだけで、きっと私は彼よりも幸せで彼よりも最強なのだと思う。

わが子は、冒険物語が好きなようだ。

きっと彼の中にもまた、彼がいるに違いない。

もしかしたら、死んだと思っていた私の中の彼は生きていたのだろうか。



＊あとがき＊

１時間ぐらいかけて頑張りました。

ほかの人にくらべて手抜き感がひしひしと伝わってくるよう努力しました。

Roとかもうだいぶ影が薄いです。

ってか二重人格なようで二重人格じゃありません。いやもうどっちでもいいです。

お目汚しすみませんでしたっ