SS Contest 作品

「完成したんだ！」

　ドアを蹴破る勢いで部屋に入って来るなり、アゾンはそう叫んだ。
　その叫びを聞いた一同は、何事かと首をかしげる。

「どうしたアゾン、何が完成したんだよ」
「惚れ薬？もしかして惚れ薬？」
「ってパーレル、お前そんなもん頼んでたのか！？」
「だって・・・前に作れるかどうか聞いたら「できるかも知れない」とか言ってたから・・・
　できたらレシュターに飲ませてやろうって思って・・・」
「・・・・・・・・」
「あー、お前らそういうのは余所でやれ」
「いいですねぇ・・・赤くなってますよ、両方」
「初々しいわね。見ててこっちが恥ずかしくなってくるわ・・・」
「ボクもコクルに飲ませてみたいなぁ・・・」
「って何言ってるのよレリス！！」

　話がどこまでも脱線していく。この人数が集まると良くあることだ。
　アゾンは部屋の入り口に立ったまま大きく咳払いをし、場を鎮めさせようとする。

「ごほんっ！あー、皆様、お静かにーー！」

「そういうサクヤも、レトリスに飲ませてみたいとか思ってんじゃねぇのかよ」
「アホか。俺とレトリスにそんな薬は必要ない。なぁ？」
「そだね。いらないよね」
「なんなら見せようか？ほれ」
「どわー！！ここでいちゃつき始めるな！だあああー！キスはやめとけーーー！！」
「姉さん！もっと人の目を気にしようよ！」
「・・・・ぅあ・・・キスしてる・・・」
「・・・・・・・・・・・・・いいなぁ」
「・・・・・へ？なんか言った？アフェリ？」
「い、いえいえいえ！何も言ってないですよ！？」

「あ、あのー・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・で、いつまで続くの、このキス・・・」
「・・・・・・長ぇ・・・・・！」
「こういうのって、息ってどこでしてるのかな？」
「そりゃ鼻だろう。鼻」
「姉さん・・・なんかボクまで恥ずかしいよ・・・」
「まぁこの二人はいつもこんなだし、今更よ、今更」
「・・・・どきどきします・・・」

「・・・・・・・・ちょっとー・・・・・・・？」

　話はどこまでも、どこまでも脱線していく。
　その話の矛先がアゾンに戻ってくるまで、どれほどの時間がかかるのか・・・
　と言うより、戻ってくるのかどうかすら疑問だ。

　だがそれ以前に、アゾンが限界突破した。

「だーーーー！！できるかーーーーーー！！！！
　惚れ薬なんてできるかこのやろーーーーーー！！！！
　ははははは！！ごめんよ俺無能だからさ！！！！
　ふっふふふ！！ふはは！！はあっははっはははは！！！！」

　・・・・・・・・・・・

「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」

　部屋にいた7人全員が、アゾンに向かって頭を下げたのであった。

夢を叶える薬

「で、何が完成したんだよアゾン」
「惚れ薬じゃなくてゴメン・・・・ゴメンナサイ・・・」
「・・・・・それはもういいから」

　アゾンはもう自信喪失してしまったようで、入ってきたときの勢いはどこヘやらである。
　そんなアゾンをなだめながら、レシュターというハンターが代表して彼に話を聞いていた。

「俺が作ったのはさ、『夢を叶える薬』さ」

　・・・・・・・

「な、なにその、危なそうな薬・・・」
　皆がアゾンの話を聞いた瞬間に思い、でも口に出せないでいたコトを言ってしまったのは、
　この集まり・・・ギルドのマスターであり、レシュターの恋人でもあるWizのパーレルだ。

　「言っちゃった！」という場の雰囲気をひしひしと感じて、パーレルは言ってから汗をかき始める。
　しかし後悔先に立たず。言ってしまったモノの取り返しはつかない。

「あー・・・その・・・・あはは」

　笑って誤魔化すパーレル。
　そんなパーレルに、ギルドメンバーから鋭い視線が突き刺さる。何故か床の上に正座して座ったパーレルは、身を小さくさせた。

「夢を叶えるってどういうことだ？」
　気を取り直して、レシュターがアゾンに問う。
　アゾンは「もうどうでもいい好きにして」という雰囲気を体全体から出しながら、コトンと目の前のテーブルにそれを置いた。
　青く透き通ったその液体は、瓶の中でゆらゆらと揺れている。

「これがその薬。別に危なくないし、副作用とかもないから安心して・・・
　これを飲めばすぐに分かるよ・・・百聞は一見にしかず、ってね・・・はは・・・」
「げ、元気だせよアゾン・・・・」
「まぁ確かに一見危なそうな薬だしね・・・無理に飲まなくてもいいよ・・・はは・・・・・ははは・・・・・・」

（白い・・・）
（白いわ・・・）
（真っ白・・・？）

　燃え尽きたアゾンは、そのままふらふらーと自分の自室へと戻って行ってしまった。
　『夢を叶える薬』を残して。

　後に残された面々は、その薬を取り囲んでお互いの顔を見る。
「夢を叶える薬・・・とりあえずアゾンが言うには、危険はないみたいだが・・・」
「飲んでみたい気もするけど、飲みたくないような・・・・・・微妙ね」
「夢を叶えるってどういう意味なんだろう。夢が叶う、じゃなくて、叶える？」

　急遽始まった真剣そのもののギルド会議。
　議題はもちろん、目の前の薬をどうするかである。

　うーん、と皆が唸っている中、ギルドの中では新人である騎士のコクルが言った。

「ここでぐだぐだ考えててもしょうがないわね・・・・・誰が飲むの？」
「・・・・・・え？飲む？」
「だって気になるんでしょう？結果を知るには飲むしかない。
　害がないってアゾンが言ってるんだから、それは信じていいと思うわ。
　なら誰かが飲んで確かめるのが一番早いじゃないの」
「そ、そうだけどさ・・・やっぱり何が起こるか分からない薬を飲むのは怖いよ」
「あー、何そんな情けないこと言ってるのよレリス。いいわ、私が飲む。皆もそれでいいわね？」

　戸惑いながらも、全員が小さく頷いた。
　ギルドに属する前からずっとコクルと一緒だったプリーストのレリスが何かを言いかけたが、
　コクルはそれを手で制す。

　一歩前に踏み出したコクルは、テーブルの上の薬を手に取り、しっかりとしめられていた栓を開ける。
　皆が黙って見守る中、瓶を自分の口元まで持っていったコクルは・・・・

　クッと、それほど量もなかった薬を一気に飲み干した。

　・・・

　・・・・・

　・・・・・・・

「ど、どうだ・・・？」
　一分ほど、誰も何も言わずに時間が流れた。
　その沈黙に耐えかねて、レシュターがそう聞く。
　コクルはどこかとろんとした瞳で、ひっく、とシャックリのようなものを漏らした。
「お、おーい？意識あるか？コクル？」
「コクル・・・大丈夫？」
　レリスも心配そうに、コクルの顔を覗き込む。

「あーー・・・・・？」
　そのレリスの顔を見て、今まで何も行動を起こさなかったコクルが動いた。

　その次彼女が取った行動は、その場にいた全員を驚愕させるのには十分だった。

「レリス・・・・・好きいいいぃぃぃーーー！！！」
「っどああああああああっ！！！？」

　ドゴン！と床に頭を打ち付ける音がする。
　コクルに飛びかかられた・・・・いや、抱きつかれたレリスがそれを受け止めきれず、背中からぶっ倒れたのだ。
　レリスを押し倒した形のコクルは、しかしレリスから離れようともせずに逆に体を密着させる。

「・・・・・・・・・・・・へあ！？」
　最初に向こうの世界から戻ってきたのはアフェリ。後ろ姿がパーレルに似てる（レシュター談）のWizだった。
「こ、コクルさん！？あの、えっと・・・・正気ですか！？」
　聞きようによっては失礼なことを言いつつ、アフェリが二人に駆け寄っていく。
　レリスは自分が抱きつかれているにも関わらず、状況が理解できていないらしい。
　目を白黒させて、「え？」とか「は？」とかを繰り返している。

「とりあえずコクルさん、レリスさんから離れて・・・・」
「やだーーー！私はずっとレリスと一緒にいるのーーー！めーーー！！」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
　意識が飛びそうになるのを、アフェリは必死に堪えた。
　違う。違うんだ。
　こんなのはコクルさんじゃない。コクルさんであるはずが・・・・・・！
　いつものコクルさんはもっとクールっぽくて、格好良くて、でもどこか儚くて、可愛さも持っている・・・そう！そうなのだ！
　こんな思いっきり甘えモード全開オラオラなのは違う！認められないのだ！

「コクルさん！戻ってきてください！ああもう！他の人もいつまで向こうに逝ってるんですか！！」
　必死にアフェリの呼び掛けに、トリップ中だった他のメンバーもようやく戻ってきた。
「・・・はっ！俺は一体・・・・・・・てか！コクルは一体！？」
「コクルのキャラがぶっ壊れている・・・・！」
「ふ・・ふふ・・・・・久々に精神に大ダメージを受けたわ・・・・・・このことはしばらく忘れそうもないわね・・・」
「私はしばらくどころか、一生忘れないかも・・・・・・・」
「そんなことはどうでもいいですから！とりあえず二人を離しましょう！」
「あぁそうだな・・・・なんかレリスが幸せなんだか地獄なんだかよく分からない顔してるしな・・・」

　全員がかりで、ぴったりとくっついている二人を引き剥がす。
　とは言ってもレリスは半分意識不明と同じ状況で、何の抵抗もなかったわけで。
　問題はレリスを掴んで離そうとしないコクルであった。

　・・・完全に二人を離すとコクルがこの世の終わりのような絶叫を上げて泣きそうになるため、
　二人を並んで座らせ、コクルにレリスの片腕を掴ませるというので妥協した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・で」
　もう心底疲れ切ったような声で、レシュター。
「これは夢を叶える薬なんかじゃなくて、惚れ薬じゃないのか？違うのか？」
　その言葉を、誰も否定できない。
　現実に、恋愛に関しては奥手の奥手、相手の手を握るだけで真っ赤になりそうなコクルが、
　薬を飲んだ後ではレリスの腕をしっかりと両手で掴み、離そうとしないのだ。
　しかも、誰も見たこと無いような幸せそうな顔で。少し頬を赤らめつつ。

「・・・惚れ薬だろ」
「惚れ薬っぽいよね」
「惚れ薬でいいんじゃないかな。もう・・」

　あははー、と乾いた笑い声を上げる一同。
　まぁ、惚れ薬だろうがなんだろうか、薬は薬だ。
　効果が切れたら元通りだろうし、後遺症とかも無いはずである。
　危険がない、と言ったアゾンの言葉を信じるのであれば、だが。

「・・・いや、十分危険だったって。あれは・・・」
「不意打ちにも程があるよね・・・・・・」
「もう二度と見れないだろうな。あの光景も、今の光景も」

　コクルはレリスの腕を抱き、でもそれでも足りないのか、体もレリスに密着させている。
　レリスはそのコクルの行動に戸惑いまくり、慌てふためき、何も言えないまま、されるがまま。

「・・・連れてきました」
　部屋のドアが開き、向こうからアフェリが入ってきた。
　その後ろには、少々不機嫌な雰囲気のアゾンがいる。

「惚れ薬じゃないっつーーーーの！！！違うっつーーーーの！！！」
　いきなり叫んだ。
「夢を叶える薬だって言ったでしょが！惚れ薬でなんかありえないから！」
「じゃあアレをどう説明するんだよ？」
　レシュターが指差した方向には、レリスとコクル。
　その光景を見てアゾンは一瞬言葉を失うが、次の瞬間復活した。

「ふふ、甘いな・・・あれはあれでいいんだよ」
「は？どういうことだ？」
「要するに、コクルの夢が『レリスともっと一緒にいたい』だったわけ。それだけだよ」
「・・・・へ？」

「今回作った薬は、『夢を叶える薬』・・・夢っていうのは人の願望だよ。
　でもさ、最近は夢なんて叶うわけないじゃないかって思って、夢を叶えようとする行動すら起こさない人多いじゃないか？」
「・・・そうだな。確かにそうかもしれない」
「もったいないよな。夢なんて、叶うために・・・叶えるためにあるっていうのに、それをしようとしないなんてさ。
　俺は思うんだよ。誰でも夢を叶えられる。でも叶えられないのは、叶えようとしないからだって。
　だから俺は、あの薬を作ったんだよ」

　アゾンは遠くを見るように、天井を見上げた。

「どうして人は、夢を叶えようと行動を起こさないのか。起こせなくなるのか。
　それはきっと恥ずかしいから。夢を追いかけている最中ってのは、無様なこともあるからね。
　端から見たら馬鹿な行動だったり、理解できないことだったり。
　俺はそれを取り去ってやろうと考えた。そうすれば、誰もが夢を叶えることができる」
「・・・えーっと、つまり要するに・・・・？」
「自分の中にある「恥ずかしいからできない」とか「どうせ叶いっこないからやらない」という抑制を無くす薬さ。
　あの薬を飲むと、やりたいと思うことを何が何でもやろうとする。恥ずかしいとか、そんな感情のブレーキはきかなくなるわけ」

「・・・え？」
「それって・・・」
「それは・・・」
「あの、それは・・・・」
「・・・・おい、それ」

「「「「「危ない薬じゃないかああああああああああ！！！！！」」」」」

「ええええええええええええええええええっ！！？」

　・・・・・・・・・・

「少し考えろ、お前もうちょっと考えてみろ？
　感情の抑制がきかないってことが、どれだけ危ないことか分かってるか？」
「・・・・はい、すいません。俺が浅はかでした・・・・・・・」
「まったく・・・・・・飲んだのがコクルで良かったわね・・・いや良くないけど」
「そう考えると、コクルさんってレリスさんに一途なんですね・・・・・・・・いいですね・・・・・・・・」
「赤くなるな、赤くなるな」

　コクルは未だにレリスに張り付き、離れようとしない。
　その姿は恋人というより・・・父親に甘える子供である。
　最初は慌てふためくだけだったレリスであるが、今は少しは慣れてきたようで受け答えができるようになっていた。

「おう、どうだレリス？今の心境は？」
「・・・・・・・人ごとだと思って・・・サクヤさんひどいです・・・」
「まぁ、こんな機会じゃなかったらやりたくてもできないことだ。役得だと思って堪能しておけよ」
「・・・確かに、普段のコクルはこんなこと絶対しないでしょうけど・・・」
「ごめんねレリス、今まで寂しかったわよね？これからはずっとこうしててあげるから、ね？」
「・・・・・・・・」
「・・・おーい、また逝く気かー？」
「・・・はっ！いやいや、大丈夫、大丈夫です・・・・」

　そう言うレリスだが、全然大丈夫そうではない。
　精神的に限界が近いのだろう。
　フラフラした足取りで、レリスは立ち上がる。もちろん、レリスの腕をしっかり掴んでいるコクルも一緒に。

「ちょっと、外の空気吸ってきます・・・・・」
「あ、あぁ・・・・・・・大丈夫か？本当に」
「大丈夫ですよ、安心してください」
　レリスは微笑みながらそう言うと、外へと続くドアを開けた。

「はぁ～～～～～～～～～～」

　外に出たレリスは、大きく深呼吸をする。
　空は既に漆黒に染まっていた。いつの間に太陽が沈んだんだろう・・・・もう時間的感覚もないらしい。

「・・・ちょっと寒いわね」

　身を小さくさせるコクル。
　季節は秋から冬に移ろうとしている時期である。最近の夜は少し寒いぐらいだ。
　今までだって身を寄せているというのに、さらに寄せてくるコクル。
「コクル・・・」
「こうすると暖かいでしょ・・・？」

　腕にしがみついて身を寄せながら、少し潤んだ目で、コクルが見上げている。
　誰を？
　そんなの・・・決まっている。

　何で？
　そんなのは、決まっている。

「ねぇ・・・レリス？」
「・・・・・・・・・・何？」
「あのさ・・・・あの、フェイヨンの森で・・・迷子になったときあったでしょ？」

　・・・覚えている。もちろん覚えている。
　初めて、コクルの弱さに気づいた日。
　本気で、コクルに腹を立てた日。
　もう絶対に・・・・・・手放さないと誓った、あの日。

「あのとき、一回街に戻ったレリスは・・・また戻ってきた。
　私が折角やった演技も、台無しにして。
　戻ってきたレリスを見つけた瞬間、私は・・・・・・・・」
「・・・・怒った？」
「・・・・・・・・自分で選んだことのはずなのに。自分でやったことなのに・・・
　目の前が真っ白になるぐらい・・・・・・・・・嬉しかった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ、どうして、戻ってきてくれたの？」
「・・・・・・・・・言わないと、分からない？」
「ううん、レリスの口から聞きたいだけ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

　何なんだろう。この反則的な可愛さは。
　有り得ない。信じられない。
　まさかこんなことを、コクルの口から言われる日が来るなんて。
　・・・・・・・・・・・頭が真っ白になりそうだ。

「ねぇ、言ってよ。レリス。なんであのとき、戻ってきてくれたの・・・？」

　・・・・でも。
　・・・・・・・・・・・
　でも。

「・・・・教えてあげない」

　違うんだ。

「え・・・？」
「教えてあげない。言ってあげない」
「何で・・・？いいじゃない。言ってよ」
「違うから、ダメ」
「違うって、何が？」

「君はコクルだ。それは間違いない。
　君が話してくれたことも、コクルが思ってくれたことだと思う。
　すごく嬉しい。そう思ってくれてたことは凄い嬉しいんだ。
　でも、ボクはね、コクル。
　いつもの、どこか素っ気なくて、ちょっと乱暴で、言葉悪くて・・・
　こんなこと言いそうにないんだけど、でもそんなコクルがさ。
　自分の力だけで、言って欲しいんだ」
「そんなの・・・いつもの私じゃ、言えるわけないじゃない」
「いやー、言ってもらうよ？すぐは無理だろうけど、いつの日かね。
　だからそれまで、言わないよ。ボクは」
「でも・・・・でも、いつもの私じゃ、いつまでもこんなこと言えなくて・・・
　言えないでいたら、レリスの心が離れていくかも知れない」

「それはない」
　きっぱりと即答する。
　これは譲れない、と言うかのように、力強く。

「・・・信じるわよ？」
「・・・信じなさい」

「嘘ついたら殺すから」
「いいよ。だって嘘じゃないし」

　・・・・・

　そこは信じられないくらい気持ちよくて、暖かい場所だった。
　私は途切れ途切れの意識の中、その心地よさを感じて幸せな気分になる。
　安心する。
　ここにいれば、自分は大丈夫なんだって。
　どんなことがあっても負けないって、そう思えるから。

　・・・・あぁ・・・まだ、眠いや・・・・

　私は起きることを諦め・・・諦めというか、最初から起きようとすらしてなかった気もするけど、
　その温もりに包まれたまま再び眠ることにした。

　こんな幸せな場所でなら、きっと、最高の夢を見れるだろう。そう思って。

「・・・～」
「・・・・！」
　遠くから・・・・いや、結構近い・・・？
　誰かの話し声が聞こえてくる気がする。
　私はまだまるで水の上に浮かんでいるかのようにふわふわした頭の状態だったけど、とりあえず聞こえてきた声に耳を傾けた。

「別に照れなくてもいいんだレリス。そうだよな、お前だって男だしな」
「なっ・・・ななな！勝手に納得しないでください！」
「いやー、しかしまさかここまで進んでるとはなぁ。お前って奥手に見えて、実はやるヤツだったんだな」
「サクヤさんっ！！」

　聞き覚えのある声だ・・・
　片方は、私が今お世話になってるギルドの先輩。プリーストのサクヤ。
　そしてもう片方が・・・・・・・

「・・・っるさいよレリス・・・・・人の部屋で・・・朝から何を口論してるのよ～・・・・・」
　寝起きの私の声は迫力も何もなかったと思うが、それでも彼、レリスには届いたようだ。
「ご、ごめんコクル。うるさかった？」
「もう・・・・折角良い気分で寝てたのにぃ・・・」
　不満たっぷりという声を出してやる。
　これで今日一日は、私優位で話が運んでいけそうだ。
「おう、お目覚めかお姫さん」
　見ると、サクヤが私を見て意地悪い笑みを浮かべている。
　馬鹿にされてるようなそんな感じだけど、何で私がそんな風に見られてるんだろう？
　・・・というか、こいつら寝ている女の部屋にずかずか踏み込んできて・・・常識というものがないんだろうか？

　避難するような目でサクヤをじーっと眺めていると、後ろから申し訳なさそうにレリスが言う。
「あ、あのさコクル？そろそろベットから出た方がいいんじゃないかなーとか、思うんだけど」
「はぁ・・・？どうしてレリスに、そんなこと言われなくちゃいけないのよ」
　言った後に小さな欠伸が出た。このまま二度寝するのも悪くない。

　・・・って待て。
　ここで私は、ある重大な事実に気がついた。
　気がついた瞬間、近くにあった枕を手にとってレリスにぶん投げる！

「なんでアンタが、私のベットに入ってるのよーーーっ！？」

　そう。
　レリスはどういうつもりか、私のベットの中に居たのだ。寝間着姿で。
　至近距離から投げられた枕を回避することができず、直撃を受けてベットにぶっ倒れるレリス。
　倒れた瞬間に、ベットの上端にある木の部分に頭をぶつけたように見えたが・・・当然だ。
　それですら生ぬるい気がする。

「・・・私のベット？」

　ん？といった風なサクヤ。

「サクヤさ、アンタも人の部屋に勝手に入ってこないでよ・・・レトリスさんに言いつけてやってもいいの？」
「あー、ちょっと止まれコクル。お前何か、勘違いしてないか？」
「・・・何を勘違いするって言うのよ？」

　スッ、とサクヤは天上を指差した。私の視線もそれを追いかける。
　サクヤは天上を指差した指を動かし、ぐる～っと部屋を一周させた。
　私もそのとおりに視線を移動させ・・・・移動させ・・・・・・・・て・・・・・！？

　・・・おかしい。
　私の部屋にあるはずの家具類がない。
　逆に、私の部屋に無いはずの物がある。
　窓の位置も微妙に違う気がするし、置いてある荷物やら植物やらも違う・・・・・・・・・

「ってここ、レリスの部屋・・・・！？」
「ご名答」
「え・・・え・・・・！？えええええええーーーっ！！？」

　な、何で！？
　何で私がレリスの部屋に！？
　しかもベットで寝てるわけ！？！

　寝起きの頭が一気に覚醒したと思ったら、今度は大混乱状態。
　ベットの布団で自分の体を隠すようにして、私は小さくなった。
　顔が赤くなっていくのが自分でも分かる・・・

「昨日の夜、お楽しみだったのを忘れたのか」
「ち・・・ちがっ・・・！違うー！」
「そんなヒドイ。レリスとのことは遊びだったのねー！」
「サクヤーーー！！」
　さっきレリスに向かって投げた枕を、今度はサクヤに向かって投げ放つ。
　しかしそこはレリスとは違う。軽く枕を受け止め、ふっと笑みを浮かべるサクヤ。

「まぁ、これ以上追求したらお前らが可哀想すぎるな。後は二人でよろしくやってくれ」
「ま、待ちなさい！誤解よ！誤解ー！！」
「別に照れなくてもいいだろー？好きあってる同士なら、いつかは辿り着く結果じゃないか」
　ひらひらと手を振りながら、部屋から出て行こうとするサクヤ。
　このまま誤解させたままで彼を行かせるのはひじょーーーにマズイ気がする。かなりする。
　というか、自分でもなんでこんな状態になってるのか理解できてない。
　この状況で効果的に誤解を解く説明をするのは難しい・・・？

「あぁそうそう。肝心なこと言い忘れるところだった」
「な、何よ・・・？」
「朝飯、できたってさ。早く来い。折角のレトリスの料理が冷める」

　・・・

　全く記憶がなかった。
　でも、何か大事なことがあったような気がする。
　何かを忘れてる気がする。

　・・・ん？
　あれ？
　昨日、何したんだっけ・・・・・私？

「コクル・・・うん、コクルだ・・・・・」
「・・・何ベットにぶっ倒れたまま言ってるのよレリス。
　とりあえずベットから出てくれない？」
「ボクのベットなんだけど・・・・・」
「うるさいわね。いいから早く出なさい」

「ねぇ、コクル？」
「・・・・・何よ」
「ボクのこと好き？」
「・・・・・・な・・っ・・・！？」

「・・・夢を見せてもらったのは、もしかしたらボクの方だったのかもね」

　彼女があの薬のことを思い出し、自分がどんな状態になったのかを知り、
　アゾンをぶん殴りに行くまでそれほど時間はかからなかった。

>>>あとがき

　どうも。蒼です。このやろー。
　年末です。というかこれが公開されたときはもう正月ですか。
　一年ってのは早いものですね。

　てなわけで、『夢を叶える薬』如何でしたでしょうか。
　またしてもラブコメ風です。
　え？重い話？感動のストーリー？はは、ワスレマシタ。
　どうもContest作品って重い作品が集まること多いんで、私で軽くしておこうかと・・・かと。
　・・・てか今回のContestはどれぐらい作品集まるかなぁ。

　今回の登場人物は8人も居たわけですが、新キャラのアゾン以外は全てどっかで出てたキャラだったりします。

　レシュターとパーレル、サクヤ、レトリス、そしてアフェリは第三回ROちぅContest『そんなふたり』より。
　コクルとレリスは、第四回ROちぅContest『剣士とアコライト』より。
　全員同じギルドメンバーにおさまってます。

　今回は人数が多い上に会話文が多かったわけで。
　誰がどの発言をしたのか分かるかな？

　今回のMVPはコクル嬢ですね。
　キーボードで打ち込んでいて、自分で吹きそうになったりしました。ぶー！

　少しでも笑ってもらえたのなら、それ以上の喜びはありません。

　それでは、また次の機会にお会いしましょう。まるー。