私ハ約束シタ。
私ハ約束シタ。
私ハ約束シタ。

貴方ハ約束シタ。
貴方ハ約束シタ。
貴方ハ約束シタ。

ソシテ、裏切ッタ。
ソシテ、裏切ッタ。
ソシテ、裏切ッタ。

裏切ッタ。

私ハ信ジテイタノニ。

裏切ッタ。


裏切ッタ。


裏切ッ・・・・




―裏切り者―




最近、夢を見る。
それも、懐かしい人が現れる夢を見る。
リオンはその夢を恋しがった。

だいたい1年ぐらい前に遡る。

彼女はプリーストであった。
彼女は誰にも優しく、明るく、そして神を誰よりも信じていただろう。
そんな彼女は、リオンの恋人であった。
彼女の名は、ルリアス。

二人は約束をした。
永遠に消えない誓い。
元々は、人間を殺す仕事をしていたアサシン。
そして、人々を救うことを生業とするプリースト。
そんな、対照的な職業を生業とした二人は、誓い合った。

『永遠に、いつまでも、一つに』

ゆびきりをして、二人は微笑んだ。

――だが。
悲劇はなんの前兆もなく訪れるもので、それゆえに、人は深く傷つく。

行ってしまった者。
残されてしまった者。

愛する人は、神のもとへと、帰っていってしまった。
泣き叫んでも、呼んでも、応えてはくれないのに、リオンは泣き叫び、ルリアスを呼んだ。

『永遠に、いつまでも、一つに』

それは、どんなときでも、一つであるという意味だった。
離れていても。
死んでしまっても。

ルリアスは、その頃噂になっていた、通り魔に殺されてしまった。
通り魔はその後、すぐに逮捕されたが、だからといって、ルリアスが帰ってくるわけでもなかった。
癒えない傷。
誰にも癒せない傷。
そう、神ですら。
しかし、時間は、いつの間にか、リオンの心に突き刺さった何かを取り除き、そして心を癒していた。

夢は、二人が出会った頃から始まった。
まるで、録画したビデオを見てるかの様に、まるで自分とルリアスの記憶かの様に、夢は流れていた。
毎日毎日、寝る度に、続きの夢を見る。
夜が待ち遠しくなった。

あの日、ゆびきりして約束したこと。
時間によって癒えた傷とともに、それを忘れているというのに。

ある日の夜。
ドアをノックする音が聞こえた。
リオンは酒に酔い、少しふらついた足取りで、ドアを開けてやった。
そこには、何処か見覚えのある、懐かしい、女性。
一瞬にして、酔いが覚めてしまうほど、驚きであった。
ここに・・・いや、この世にはもういないはずだった、女性がそこにいた。

「る・・・・ルリア・・・ス？」

リオンは驚きを隠せず、女性に聞いた。
女性はただニコリと微笑むだけ。
しかし、リオンはそれが誰だかわかったし、確信も持てた。

「ルリアスッ！！」

すでにいないルリアス。それがここにいることに、なんの疑問も持たなかった。
ルリアスがそこにいる。
夢と喜びで、常識と現実を、忘れていた。
そこにルリアスがいる。それが彼の全てであったから。


「ずっと、ずっと待っていたんだ」
リオンはルリアスを席につかせ、ワインをグラスに注ぎ、それをルリアスの前に置いた。
「ほんと？」
明るい笑顔。しかし反面、声には明るさがなかった。
「本当に決まってるじゃないか」
夢で彼女を思い出したせいか、忘れていた記憶を取り戻したせいか。
夢を見るまで忘れていたというのに、嘘と言っていいのか、そんなことを言った。

「それじゃあ・・・・」
「ん？」

「あの日ゆびきりして約束したこと、覚えてる？」

声には、全く元気と明るさがない。
少し不気味に思えるが、リオンの目には、あの頃のルリアスと変わらず映っていた。

「勿論だ。『永遠に、いつまでも、一つに』、だろ。俺たちは、いつでも一緒だ」
夢に、約束をした頃の光景があった。
声までもが、鮮明に聞こえ、覚えている。

「嘘つき」

消える様な声がした。

「・・・え？」

「私は、信じていた。私が死んでしまっても、貴方は約束を守ってくれると。
私は信じた。でも貴方は裏切った。
時間に私が貴方のそばからいなくなってしまったときに出来た傷を癒され、
そして私のことを忘れた。
貴方は裏切った。
私は約束した。
貴方は約束した。
『永遠に、いつまでも、一つに』。
たとえ離れても、どちらかが死んでしまっても。絶対に。
そう約束した。ゆびきりした。誓った。
だけど、貴方は裏切った。
ウラギッタ。
ウラギ・・・・」

恐怖を覚えた。背筋が凍る。
リオンは立ちあがり、怯えた表情で家を出ていった。

誰もいない夜。
この時間なら、まだ外を歩いている人はいるはずだ。
しかしいない。
なぜ？

リオンは我に返った。

なぜルリアスがいる？
ルリアスは死んだ。
なのになぜいる？
どうして？
なぜ？
そうだ。
俺はルリアスとの約束を忘れた。
そしてルリアスをも忘れた。
呪いだ。
ルリアスはそんな俺を呪いにきたんだ。
そうだ。そうに違いない。

リオンは立ち止まった。
そこには、ルリアスが立っていた。
さっきまでの笑顔はなく、化け物の様な顔をし、涙を流していた。
「ひ・・・・」
リオンは一歩、二歩、後ろへ下がる。
そして、ルリアスは近づいてくる。

「私は約束した。
ワタシワ・・・約束シタ。
貴方は約束した。
アナ・・・タハ・・・ヤクそク・・・シた。
ワタシハアナタヲ信ジタ。
デモアナタは私を裏切った。
私は貴方ヲ・・・許サナイ」

涙を流しながら、ルリアスはリオンに近づいた。

「ルリア・・・ス・・・」

ルリアスではない。しかし、ルリアスである。
リオンの目には、ルリアスが映っている。
しかし、ルリアスでない様に見える。
ルリアスの背中には、見たこともない、魔物がいた。
いや、死神という名がふさわしい姿だろう。

「あ・・・・あ・・・！」

あの記憶を遡り、再生したかの様な夢のことも、理解した。
あれは、ルリアスが・・・、いや、化け物が作り出した夢だろうと。

実際そうかはわからないが、恐怖を覚えた人間には、そうだと思ってしまう。
そうとしか、思い様がないだろう。

リオンは後ろを振り向き、逃げ出そうとした。
そして振り向いた瞬間、グサッ、と音がした。
それと同時に、痛みを感じた。
そして、リオンの懐には、リオンの武器のカタールを、自分の胸に突き刺した、ルリアスがいた。

リオンの胸を突き抜けたカタールが、ひきぬかれる。
血の雫が、ぽたぽたと落ちる。

「ルリア・・・・・・・」

「最後くらい、しっかり名前を呼んでよ・・・・」

リオンは、音を立て、倒れた。
動く気配はなく、もう死んでいる。
ルリアスはまだ泣いている。

ルリアスは、リオンを刺した、リオンのカタールを見た。


死してもなお、信じつづけた。
ゆびきりをして、約束したから。
だから、信じつづけた。
なのに、裏切られた。
死んで裏切られたことを知り、裏切り者を殺した。

彼女を何を思う。
喜び？ 悲しみ？
それは彼女にしかわからないだろう。
涙はもう流れない。
彼女は消えてゆく。

約束を破った裏切り者を残して。
愛する裏切り者を残して。

彼女は何処へ消えるのだろう。
天国か、地獄か。
あるいは何処でもないのかもしれない。
闇に消えるとき、彼女は呟いた。


「自覚があったの？ このカタール、裏切り者って名前よね」


そこに残るは、愛する裏切り者。






―あとがき―

あの、とうとう送りました。ごめんなさい。
ベターかバターか、どっちかはわかりませんが、ちっとも怖くないですねェ。（バターを望んでたり）。
怖さは求めてはいませんが・・・。
大体、これちゃんとお題に沿ってできてるのかすら・・・・。
ＲＯっぽいとこもあんまありませんし・・・・（ゼロといっても過言では・・・）。
ごめんなさい。
皆さんに内容を理解してもらえるかとても不安・・・。
とりあえず、目的は達成しました。もう心残りはありません。
これで安心して死ねます（ぇ）。
それではみなさん、さようなら（ぇぇ）。