ああ、ツイてない。





だから、雨の日は嫌いなんだ。





「雨の日」





なんて事無い依頼だった。

シーフにとっちゃさして珍しくもない仕事。

相手を見張って行動を報告するだけ。

勿論見つかったら何されるか分かったものじゃないが、初日で解った。

多少注意はしているようだが、俺なら慎重にやればまずバレない。

ミスさえしなけりゃ大丈夫だ。



油断はミスに繋がる。

そんなことは知っている。

だから、多少安心しても油断はするつもりはなかった。



仕事は最後の日だった。

しかもその日は雨だった。

雨は俺の音を隠してくれる。

いつもより大胆に潜り込んで、依頼主の求める情報を手に入れた。

仕事は成功したも同然だったんだ。



油断はミスに繋がる。

そんなことは知っている。

だから、一番危険な最後は一番慎重に帰るつもりだった。



…ガタン。



俺じゃなかった。

他にも調べている奴が居たらしい。

でも、俺も同じ倉庫にいた。





ああ、ツイてない。

だから、雨の日は嫌いなんだ。





現実逃避しそうになるのをぐっとこらえて、

相手に人が集まるのを冷静に判断しつつ、機をうかがう。

「他にもいるかもしれん。探せ！」

…やっぱりそうなるよな。



……今だ！

窓に飛びつく。

「いたぞ！あそこだ！」

…やっぱりそうなるよな。



囲まれたら終わりだ。振り切るしかない。

ここは相手の敷地内。

警備の手薄な場所は知ってるが、この騒ぎでどうなっていることか。

でも、とやかく言ってられない。

敷地の外へ、疾る、疾る。



騒ぎを聞きつけ集まってくる、雇われ冒険者。

でもそっちに注意がいっているせいで逆に屋根の上を走る俺には気付かない。

すぐに知れ渡るだろうが、俺が敷地を出るまで保てば良い。



あと少し！



ヒュッン！



下から飛んでくるアーチャーの矢。

気付かれた！

だが、後は壁を越えるだけ。

普通の人間じゃ屋根からでも届かないように作ったのかもしれないが、

俺には問題ない距離だ。

越えたら後はアルベルタの街の中まで逃げ込むだけ。

ここは出入り口から一番遠い。


逃げ切れる！




ずるっ。




…。



………。



…最後の最後で。

足が滑るなんて。





ああ、ツイてない。

だから、雨の日は嫌いなんだ。





壁を越えることは出来たが、

３メートルの高さから、

体勢を崩して落っこちた。



なんとか立て直、せないっ！



ド、バシャァッ！



重いものが落ちる音と水が跳ねる音。

次いで自分に来る衝撃と痛撃。

今ので足をくじいたらしい。

すぐにここを離れなければならないのに。



痛む足を引きずって、

街へと通じる林を抜ける。





いつも、問題が起こるのは雨の日だ。

だから、雨の日は嫌いなんだ。





足跡に気を付けて、

なんとか林を抜ける。



さっきまでの強めの雨は、

気付いたら止んでいた。

雲の隙間からは日が差し、

空に七色のアーチを描き出す。

それはあまりに鮮やかで。

追われているのに少し魅入ってしまった。





素直に、嫌いにさせてくれりゃいいのに。



だから、雨の日は嫌いなんだ。