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　1





　広大な宇宙――。
　果てしなく膨張を続け、星が生まれては、消える。
　無限の世界へ足を踏み入れた人類の技術は、急速に発展し、人々を豊かにした。
　また、人間は地球だけでなく、まだ発見されていない、多くの未開惑星にも生きている事がわかり、宇宙の探索はまだまだ続いている。
　宇宙進出計画（スペースプラン）が実現されて、80年。
　俺のように、地球で生まれなかった人間は沢山いる。
　・・・・・っと、そんな事をのんびり話してる場合じゃなかった。
「連邦は！？」
「未だ追いかけてきています。というか、どんどん距離が縮まっています」
「最新の船か・・・・・。流石連邦だな」
　俺達の船を追っかけてくるのは、連邦軍の大型戦艦だった。
　この船だって、盗んだ最新のエンジンを積んでるってのに、よく追いついてくるもんだ。
「ライエル！ あれにミサイルぶちかませ！」
　艦長席から、茶髪でのんびり屋のライエルに指示する。
「はいは〜い」
　いつもの事だがのんきな返事だ。危機感の無い奴だ。それとも、状況がわかってないのだろうか。
　――どっちでもいいや。
　完備から大型のミサイルが5本発射され、連邦の船へと、無重力の中を突っ走る。
　これで沈んでくれるとは思っていない。少しでも距離を離せれば良い。
　モニターに連邦の船が映り、5本のミサイルが突っ走っている。
　連邦の船の装甲のギミックが発動し、装甲の中からミサイルポットが姿を見せた。そこから小型ミサイルが5本飛び出した。
　ミサイル同士が、俺達の船と連邦の船の間で直撃し、爆発した。爆発によって粉々になったミサイルの塵やら何やらが煙になって、モニターを覆った。
「熱源感知！ 完全ではありませんが、陽電子砲きます！」
　管制のリアが告げる。煙で見えないのを良い事に陽電子砲か。
「レオン！ 上昇しろ！」
「わかってるよ！」
　操縦席に座るレオンに指示すると、船が上昇した。その真下を、連邦の船が放った陽電子砲が通過した。
　残念だったな、連邦。機動力はそこらの船とは違うんだよ。
「アルノー様、敵艦から通信です」
　イスを回転させ、後ろの艦長席に座る俺の方に向いたレナが言った。
「通信？」
　俺は首をかしげながら、艦長席の肘掛の受話器を取って、耳に当てた。
　同時にモニターが切り替わり、受話器を耳に当てている黒髪の男が映った。見た目はまだ若く、25歳前後といったところだ。
　そいつが着ているのは、紛れもなく宇宙連邦軍の軍服だ。黒を基調にした軍服で、400年くらい前のニッポンの軍人っぽい。
「何だ、トスカだったのか」
　モニターに映る男に、俺は気軽な気持ちで挨拶をした。
「馴れ馴れしく挨拶するな！ トスカじゃない、トスカニーニだ！」
　トスカの怒鳴り声が、ブリッジに響き渡る。
　俺はこいつを知っている。
　トスカニーニといって、宇宙連邦軍の大尉だ。
　俺達をいつも追いかけてくる、根気強い奴だ。というか、それが連邦軍の上層部からの命令らしい。
　まぁ、いつも撒いてるんだけど。
「驚いたな。船が違うから気付かなかった」
「フッフッフ！ そうだろう！ 最新の大型機動特殊装艦ナグルファルだ！！」
「へ〜」
　どうだすごいだろって感じで言うトスカに対して、俺は興味が無かったので、適当な相槌をうった。
「よくそんなもん貰ったな。ワイロでもやったか？」
「失礼な！」
　またもブリッジにトスカの大声が響く。怒鳴った勢いで通信切ったりしないだろうか。
　トスカは咳払いして落ち着くと、見下すような笑みを浮かべた。
「上層部がチャンスを与えてくれたのだ」
「俺達を捕まえられないから？」
「認め難いがそういう事だ」
　認め難いって、認めてないのお前だけだろ。周りは認めてるだろうに、一人だけ現実逃避みたいな事言ってやがる。
「このナグルファルで貴様らを宇宙のゴミにしてやる！ そう、デブリ。スペースデブリだ！」
　いちいち五月蝿いな。若いうちからこんなに五月蝿いと、年老いた頃は『おしゃべり爺さん』みたいな異名で避けられるぞ。
「おいおい良いのか？ 俺達を殺しても」
「どうせ貴様らは死罪確定だ！ 裁判にかけるまでも無い」
　まぁそうだろうけど。な。死罪とわかっていながら裁判なんて、裁判官も面倒だろうし。
「まぁ、大人しく捕まるというのなら殺してやらないでもいいぞ」
　今殺されなくても後で殺されるだろうが。
　だったら選択肢は一つしか無い。
「誰がお前なんかに捕まるかよ」
　そう言って、受話器を叩きつけるように戻した。きっと向こうじゃ大きな音がして、思わず受話器を耳から離しただろう。
　こんな些細な嫌がらせでも、きっとトスカは、怒り狂っているだろう。そして部下に怒鳴り散らしているだろう。
　若すぎるというのに大尉の地位についたもんだから、きっと自己中な事ばっかり言って、何かある度に部下に当たるんだろうなぁ。
　部下も大変だな。
　おっと、敵の部下を憐れんでいる場合じゃない。
「ライエル」
「あいよ〜」
　俺の意図を読み取ったライエルは、艦尾大型ミサイルを再び発射した。
「アル！ ナグルファルの陽電子砲の出力が上がっています！」
　リアが告げた。
「はぁ？ どういう事だ？」
「先程のは100％の陽電子砲では無かったという事です」
「いやそりゃわかってるけど、どうして今、陽電子砲なんか？」
「わかりませんよそんな事」
　あっそ。
　よくわからないまま、ミサイルはナグルファルへと一直線に飛んでいく。
　このままなら直撃だ。
　――と思った瞬間、ミサイルはナグルファルに直撃する前に、数十メートル手前で爆発した。
「なっ！ どういう事だ！」
　ナグルファルに直撃しなかったのに、どうしてミサイルが爆発したんだ？
「レナ、わかるか？」
　副操縦士や他の事も兼任しているレナに、俺は尋ねた。
　レナならわかるだろう。何せレナは、人とは違うからな。
「全周囲光波防御対が展開されたようです」
　全周囲・・・・・えぇと・・・・・。
「要するに？」
「バリアーです。横文字しか理解できないんですか」
　そういうわけじゃないけど・・・・・。
「いかなる物質もエネルギーの透過も無力化するものです。ですが、砲撃の際には展開できないようです」
「どうしてだ？」
「まだまだ技術が未熟です。外からの攻撃は勿論ですが、内側の砲撃やエネルギーも無力化してしまうようです」
「なるほど」
　戦艦や月面都市、衛星都市などの開発は、人類にとって飛躍的な進化だが、何もかもが完全というわけではない。
　とりあえず、向こうの攻撃の際はバリアーは無いって事か。
「しかし・・・・・そんなんアリか？」
「あるからアリなんでしょう」
　いや、そうなんだけどさ。少しは俺の驚きに共感してくれてもいいんじゃないか？ 皆は驚いてるのに。
　まぁ、こいつは滅多い驚く事なんて無いし、感情も殆ど表に出したりしないからな――。
　ナグルファルで高笑いしているトスカの顔が浮かぶ。
　畜生。あいつに負ける事程屈辱的な事はそんなに無いぞ。
「レオン、方向転換しろ。ライエルはミョルニルの準備だ」
「オッケ〜」
「方向転換って、まさか・・・・・」
「そのまさかだ」
「・・・・・ああもう！ 死んだら呪ってやる！」
「俺も死ぬんだよ」
　レオンの操縦で、船はナグルファルの方へと向いた。こっちが止まったのを見て、衝突を防ぐ為、ナグルファルも静止した。
「ライエル、ミサイル全弾準備。照準しっかり絞っとけ」
「イエッサ〜」
「レオン、ミョルニルの準備ができたらナグルファルを正面にしながら横に移動だ」
「OK」
「後、全員もしもの為に衝撃に備えとけ」
　ブリッジの下の主砲ミョルニルの出力が上昇していく。それを、ライエルがのんびりとカウントダウンする。
「出力55％・・・・・60％・・・・・」
「敵陽電子砲出力65％・・・・・70％・・・・・」
　同時に、リアがナグルファルの陽電子砲発射のカウントダウンをする。
　恐らく、トスカも同じ事を考えているだろう。横に動きながら、主砲を放ったと同時に、ミサイル全弾発射。
　今更退ける状況じゃない。やるかやられるかの一発勝負だ。
「85％・・・・90％・・・・・」
「95％・・・・・」
　さぁ、勝負だ。
「100％！」
　ライエルとリアの声が揃った。
　それと同時に、俺は艦長席から立ち上がる。
「ミョルニル、ってー！！」
　俺の声と同時に、陽電子砲ミョルニルが放たれる。更に艦尾や他の装甲のギミックを発動させ、艦内のミサイルを出して発射される。
　ナグルファルからも陽電子砲が放たれ、ミサイル全弾が発射される。
　横に反れて回避しようとしたが、側面に陽電子砲が食い込み、船は大きく揺れた。同時にナグルファルの側面も、ミョルニルが貫いた。
「被害は！？」
「右翼を少しやられたけどまだ大丈夫です！」
　更に、ナグルファルのミサイルが襲い掛かる。
「回避できるか！？」
「精一杯やってるけど、これじゃあ・・・・・！」
「ちっ・・・・・！」
　ナグルファルのミサイルが、船の至る所に直撃した。ナグルファルの方でも、ミサイルが所々に直撃していた。
　船はさっきよりも大きく揺れ、傾く。
「第1エンジンと主翼破損！」
「第1エンジンは切り離せ！ 爆破したらお終いだ！ 水平維持できるか！？」
「できません！ このままじゃ沈みます！」
　参ったな・・・・・。ナグルファルの被害も似たようなもんだろう。だがこのままじゃ本当に宇宙のゴミになっちまう。
　何とかならないか・・・・・。
「アルノー様」
　生と死の瀬戸際だというのに、えらく冷静な奴がいた。
　誰って、レナしかいない。
「何だ！」
「近くに未開惑星があります」
「それがどうした！」
　レナはコンピュータを操作して、何かを調べていた。この状況でよく使えるな。
「不時着できるという事です」
「！」
　このままじゃ船は沈み、宇宙のゴミになる。
　助かる可能性があるなら、危険性だの何だの言っている暇は無い。
「レオン！ 操縦利くか！？」
「なんとかね！」
「よし！ じゃあそこに不時着するぞ！」
　レオンの操作で、船はゆっくりと移動する。
　ナグルファルが何処にいるかはわからない。そんなのを見ている暇も無かった。
　とにかく助かる事だけを考えて、レナの発見した未開惑星に不時着すると言ってしまったが、肝心な事を訊き忘れていた。
「レナ、その未開惑星、保護指定されてるか？」
　連邦軍は、未開惑星の発見に力を注いでいる。そこに生命を確認できたら調査し、調査結果によって、保護する。広大な宇宙を幾つかの村や町だと思えば良い。それを合併し、どんどん大きくしていくようなもんだ。保護指定とはつまり合併の事だ。
　そうする事で、宇宙を支配しようとしている。
「されてません」
　保護指定されてない？ ていう事は・・・・・。
「人がいるかもわかんないのか！？」
「えぇ。ですが・・・・・呼吸はできるようですね」
　じゃなきゃ困る。
　もうこの際、人がいようといまいと関係無い。もう決めたんだからやるしかない。やらなきゃ死んでしまう。
「もし人がいたらどうするんだよ！」
　レオンが言った。確かに、人がいたら、人のいる所に不時着したら、間違いなく死傷者が出る。
「そういうのはレナに任せろ！」
　レナだったら、人のいない場所に誘導するくらいできる。
　船の揺れが納まり、ひとまず落ち着いた。
「アル、見えてきましたよ」
　リアが言った。
　俺は艦長席から、リアの所へと歩み寄った。
　漆黒の宇宙の中に、球体が見えた。
「あれか・・・・・」
「どうなるんだろ、僕達・・・・・」
「情け無いなレオン。どうにかするしかないだろ」
「うう・・・・・」
　まぁ、レオンの気持ちがわからなくもない。俺だって不安だ。だが、まだ16歳のレオンは、それ以上に不安だろう。
「どうにかするしか・・・・・」
　自分に言い聞かせるように、俺は呟いた。

　今までこんな失敗無かったのにな――。
　ったく、トスカのせいだ。そういえばトスカの方はどうなってるんだろう。
　死んだか？ いや、きっと生きてるだろうな。俺の勘がそう告げている。だってあいつ、滅茶苦茶しぶといし。
　さて、どうなっちまうのか・・・・・。

　あ、そういえば、自己紹介がまだだったな。
　俺はアルノー。
　宇宙大海賊ヨルムンガンドの船長だ。










　Secret File







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