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ミズナの持つ短刀が閃く。
下から一直線に切り上げられた銀の一閃は、ボレロの剣に受け止められた。
ミズナはそのまま舞うように連撃を繰り返すが、その悉くをボレロは弾き、いなす。
「・・・思いの外やりますね」
「お前こそ、女のクセになかなかできるじゃねーか」
「なんという古典的な。女のクセになどと言っているうちは、この私には勝てませんよ」
短刀のスピードが増した。
初撃頭部、ボレロは剣で弾く。続けざまに短刀が首を狙うが、身を捻ったボレロはそれを間一髪でかわした。
その直後、今までフリーの状態だったミズナの左手が、ボレロの腹部に押し当てられた。
何の気配もなくさりげない動きに、ボレロは全く気付けない。
否。この攻撃の最中、ミズナの左手は回避不可能な完璧なタイミングで差し出されたのだ。
短剣にのみ注意を払っていたボレロに、これを避けることはできない。
ミズナの左手首に付いている、小さなギミック。銀色に光り輝く、アクセサリーに見えるそれは・・・
「手加減してあげます」
「ッ！！？」
ガンッ！！
ミズナの左手はまったく動いていないのに、ボレロの体はまるで木の葉のようにぶっ飛ばされた。
それはまるで、何か大きな物体の体当たりを受けたような感じ。
魔術的パイルバンカー『撃ち飛ばす槌（サイファリア）』。
小さな腕輪のような形状をしており、装着した腕を対象に押し当てて発動させれば、相手に衝撃を与えて吹き飛ばすことができる小型兵器だ。
腕力がない者でもある程度の威力を出せるのが利点であるが、対象に肉迫しなければならないというネックがあまりに大きい。
『上』では『時代遅れ』であると言われ、使用してるのは俺もミズナぐらいしか知らない。
・・・にしても。
「・・・・・あれって大丈夫なのか？」
「うっわ〜〜、ミズナすごいねー。ボレロふっとんだふっとんだ〜〜！」
ものすごい楽しそうな女の子が、俺の隣にいます。
豪快に飛んでいったボレロは、地面をごろごろと転がって動きを止めた。受け身を取れたかどうかは微妙なところだ。
ミズナが手加減するとか言ってたと思うから、そんな深刻なダメージは受けてないと思うけど。
「・・・ぐっ・・・・くそっ、何だ今のは・・・！」
「おや、どうやら手加減具合を間違えたようですね。気を失ってもらうつもりだったのですが」
「るせぇ！ 俺の質問に答えろ！ 今のは魔法か何かか！？」
「敵、と認識している相手に答える義理はありません。では、おやすみなさい」
ミズナの目が本気だ。もう一発サイファリアをぶち込んで、本当におやすみなさいさせる気満々である。
いくらなんでも、そろそろ止めておいた方がいいか。
「おーい！ ミズ・・・」
俺はその叫びを途中で中断させた。急速に接近してくる魔力の塊を関知する。
咄嗟に隣りにいるルチェを抱き寄せ、魔術式を構成。
「わわわっ！？ ちょっとティス！」
「我 守 壁 。（われをまもるかべ）」
そして魔術式発動。
俺とルチェの周りに、全ての物理的、魔法的衝撃をシャットアウトする障壁が生まれた。
ボオォッ！
その障壁は俺たちに向かって突き進んできた火炎球の直撃を受けるが、その程度ではびくともしない。
「おっ、ほのお〜」
「って、お気楽だなお前・・・」
俺の腕の中できゃっきゃっと騒ぐルチェ。
取り乱されるよりは楽かもしれないが、これはこれで問題な気もするなぁ。
「なるほど。ただ者ではない・・・と言うわけだな。貴様」
そう言って新たに姿を現したのが、今俺たちに向かって火炎球をぶつけてきた相手・・・茶色髪の女だ。
この世界で言う・・・魔法使いだろうか？
別に黒いローブを身に纏っているとか、魔法の杖を持っているワケではないのだが、俺はこの女から溢れる魔力を感じ取っていた。
それなりに腕は立つらしい。
「貴様がただ者でないことは理解した。だが、だからと言って引き下がるわけにもいかんな。
貴様を相手にすることに対しての恐怖もあるが、それよりも今はそこの子供を優先しなければなるまい」
「って、待てお前。今確実に『俺達』を焼き殺す勢いで魔法ぶつけてきただろーが！」
「・・・ん？ そうだったか？ まぁ結果として、子供が無事だからそれでいい」
「よくないだろ！ ちっともよくない！」
どこの世界に、助けるべき対象を（特に必要性もなく）自分から危機にさらして、「無事だから問題ない」と言い切るヤツがいるんだ！
・・・って、ここにいるか。
少し離れた場所にいたボレロが、焦ったように叫ぶ。
「パスリル！ お前ルチェまで焼き殺すつもりかよ！？」
「そんなつもりは毛頭ない。だがどうやらそのような事になったらしいな。謝ろう」
「謝ろうってお前・・・・・あったま痛ぇ・・・」
ボレロ、今俺は、お前に共感できる。
このパスリルという女・・・どこか掴み所がない雰囲気がいっぱいだ。このような手合いは大変苦手である。
すごい苦手である。
もう逃げ出したい。
「さて、では変態ロリコン野郎。その子供には何の罪もなかろう？ 早く解放してやれ」
「待て！ それはもしかして俺のことか！」
「他に誰がいる？ まぁ変態というのは、だいたい自分のことを変態だとは認めていないものだ。
多少ショックかも知れないが、諦めて受け入れるがいい。これが現実だ」
「あ・・・あぁ・・・・・地味に今、ショックを受けた・・・」
生まれて初めて言われた・・・変態ロリコン野郎なんて・・・
お母さんごめんなさい。女の人にこんな風に呼ばれちゃいました・・・・・
「勿体ないな。見た目はなかなかのいい男だというのに、変態ロリコン野郎ではな」
「先生。帰っていいですか・・・」
「だめです」
俺の呟きに、腕の中のルチェが間髪入れずに答えた。
＞＞＞続。